特発性プリオン病

内科学 第10版 「特発性プリオン病」の解説

特発性プリオン病(プリオン病)

(1)特発性プリオン病
疫学
 特発性プリオン病はPrPScの由来が不明で,孤発性Creutzfeldt-Jakob病(sCJD)に相当する.sCJDはプリオン病の約80%を占め,有病率は世界各地で等しく人口100万対約1である.患者脳内に蓄積したPrPScはそのプロテアーゼ分解後断片のパターンから1型と2型に分けられ,プリオン蛋白遺伝子のコドン129がメチオニン(M)かバリン(V)かという多型と組み合わせて,MM1,MV1などと6つに分類されるが,sCJDの臨床病型とよく一致する.典型的な病像を示す古典型sCJD(MM1,MV1)が大部分であるが,自律神経障害の目立つ視床型(MM2視床型),認知症が前景に立ち進行がやや緩徐な皮質型(MM2皮質型,VV1)などの病型も存在する.
病理
 古典型では,脳は高度に萎縮し,皮質,基底核,視床などの灰白質で神経細胞の脱落と無数の空胞形成(海綿状変性),アストログリアの増生を認める(図15-7-4).免疫染色でシナプス部にPrPScの蓄積を認める.
臨床症状
 古典型では,発症は60歳代に,抑うつ,無関心など不定愁訴で発症することが多く,やがて記憶障害が始まると,亜急性に進行して失調性歩行,構音障害,ミオクローヌスなどが加わり数カ月で無動性無言症に至り,感染症などにより約1年で死亡する.
検査成績
 MRI・拡散強調画像で大脳皮質,基底核などの灰白質に斑のある高信号領域を認める(図15-7-5).髄液で14-3-3蛋白,タウ蛋白が増加し,脳波では特徴的な周期性同期性放電を認める(図15-7-6).
診断
 初老期発症の急速進行性認知症ではまずsCJDを考える.ミオクローヌスを伴っていたり,特徴的MRI所見,脳波の周期性同期性放電があれば診断はほぼ確実であるが,非典型例ではこれらの所見がないことがあり,髄液検査,遺伝子検査,SPECTなども必要となる.
鑑別診断
 辺縁系脳炎,特に傍腫瘍性や免疫介在性脳炎,Alzheimer病などの認知症,意識障害などを呈する疾患を鑑別する.

療・予防
 有効な治療はない.PrPScの感染性は通常の滅菌処置では除去できず,汚染物は特殊な滅菌処置が必要である.感染力は脳・脊髄,髄液などにあるとされるが,患者の汗,尿,便,唾液で感染することはなく,患者を隔離する必要はない.また,衣服,食器は通常の洗浄でよい.[水澤英洋]
■文献
黒岩義之,水澤英洋編集:プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版).In: プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班,2009,http://prion.umin.jp/ guideline/index.html
水澤英洋編集:プリオン病および遅発性ウイルス感染症.厚生労働省難治性疾患克服研究事業プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班,金原出版,東京,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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