内科学 第10版 「MRI」の解説
MRI(画像診断学)
a.装置
静磁場中でラジオ波をあて,すべての原子核のエネルギー状態をそろえるとスピンの状態もそろえられる.その後放置すると,原子核はラジオ波を出しながら低いエネルギー準位(スピン状態)に戻ってくる.この現象を緩和とよぶ.そのときの時間が緩和時間である.放出されたラジオ波をエコーとよぶ.そのエコーをフーリエ変換し,画像として表したのがMR画像である.MR画像は水素原子核の分布を示す.MR画像の信号強度は水素原子核の密度と,異なった分子内にある水素原子核の緩和時間によって決まる.
信号強度は繰り返し時間(TR),エコー時間(TE),パルス遅延時間(TI)によって異なってくる.T1強調画像はTRおよびTEを短く設定することによって得られ,T2強調画像は両者を長くすることによって得られる.脂肪および亜急性期の血腫は短いT1緩和時間をもち,T1強調像では高信号を示す.水分をより有する脳脊髄液や浮腫は長いT1およびT2緩和時間をもち,T1強調像では低信号,T2強調像では高信号を示す.灰白質は白質に比べて水分を10~15%よけいに有し,よりコントラストがつく.T2強調像は,脳浮腫,脳梗塞,脱髄性病変,慢性出血に対してT1強調像よりも鋭敏である(図15-4-19B).亜急性期の出血,脂肪はT1緩和時間の強い短縮をきたすので,T1強調像で高信号を示し,T2強調像よりも鋭敏である.FLAIR画像は髄液中あるいはその近くの病変に対して,スピンエコー方法に比べてより有効である.血液,石灰化,空気などによる磁場の不均一に対してはgradient echo法がより有効である(図15-4-18B).得られる画像はT2*強調像であり,頭部外傷あるいは出血の既往のある患者に向いている. 患者の体位を変えることなく電気的に容易に冠状断像,矢状断像などの任意の断面を得られ,複雑な解剖を有する脳の画像診断に適している.
b.禁忌と注意事項
MRIは安全な装置ではあるが,禁忌および注意事項がある.心臓ペースメーカ装着者は禁忌である.
c.MRIの造影剤
常磁性体金属イオンであるガドリニウム(Gd)のキレート製剤(ジエチレントリアミン五酢酸:DTPA)が造影剤として臨床に使用されている.常磁性体であるので,T1およびT2緩和時間を短縮させるので,T1強調像では高信号,T2強調像では低信号を示す.ただし,後者では局所的な十分な量が必要であり,ボーラスでの経静脈性の投与が必要となる.ヨウ素造影剤とは異なり,水素原子核の存在が不可欠である.GD-DTPAは約0.2 mL/kg体重を投与する.正常ではGD-DTPAはBBBを通過しないが,BBBが破綻している病変では造影効果を認め,また,BBBのない正常構造(下垂体,脈絡叢)も造影される.腎機能低下があるときには,ゆっくりではあるが,BBBを通過する.
GD-DTPAは比較的安全な造影剤であり,副作用は少ない.アトピーおよび気管支喘息のある例では3.7%に副作用を認める.ヨウ素造影剤にて副作用が発生した例では6.3%に上昇する.小児も,成人と同様に使用できるが,6カ月未満は使用すべきではない.
最近になり判明したGD-DTPAの重大な副作用に,腎不全患者に発生する腎性全身性線維化症(nephrogenic systemic fibrosis:NSF)がある.投与から5~75日の間に発症する.皮膚のほかに,全身臓器(骨格筋,骨,肺,胸膜,心膜,心筋,腎,睾丸,硬膜)の線維化をきたす.皮膚の灼熱,瘙痒,腫脹,硬化,つっぱり,皮膚の赤色もしくは黒色斑,白眼の黄色斑点,腕,手,脚,足を動かすまたはその伸展に困難が伴う.関節の硬直,寛骨もしくは肋骨の深部痛,筋力低下などが主症状である.衰弱から死に至る例もある(Dillon,2012).
以下の病歴のある患者にGD-DTPAを投与する際には最新の(過去6週間以内)の腎糸球体濾過率(glomerular filtration rate:GFR)を求めておく必要がある.①腎疾患(孤発腎,腎移植,腎腫瘍)②60歳以上③高血圧の既往④糖尿病の既往⑤重篤な肝疾患,肝移植,肝移植待期患者
重篤な腎不全患者(GFR:30 mL/min/1.73 m2未満)におけるNSFの発生率は0.19~4%である.GFRが30未満の患者にはGD-DTPAは投与すべきではなく,45未満では投与の際には十分な注意が必要である.
d.脳および脊髄のルーチン検査の撮像方法
わが国では横断像で撮像されるCTの影響を受け,脳のMRIも横断像のみ撮像している施設が多いが,ルーチン検査として横断像,矢状断像,冠状断像の3方向の撮像をすべきである.冠状断像を撮像すれば,下垂体,側頭葉下部,海馬,頭頂部の病変が容易に認められる.同様に,矢状断像にて,脳梁,延髄脊髄移行部などの病変を認めることができる.
e.MRA
gradient echo法を利用して,動いている水素原子核のみを高信号として描出し,その他の静止している組織を低信号としてみせることによって血管造影に似た画像を得ることができる(MRA).2つの方法があり,TOF法とPC(phase contrast)法である.MRAの空間分解能は通常の血管造影に比べて落ちる.それゆえに,小動脈の異常を指摘することは困難であり,血管炎などの評価には向いていない.また,比較的流速の遅い血流もとらえることができない.さらに,完全閉塞か不完全閉塞かの区別もしにくい.しかし,脳動脈瘤や動静脈奇形,さらに血管拡張をきたす疾患,たとえばMELASの急性期(図15-4-19C)に対して,無侵襲的にとらえることができる利点はある.
f.エコープランナー法
全脳の情報を50~150 msecの間に得ることができ,拡散強調像および灌流画像への道を開いた方法である. 拡散強調像は水分子の微小運動を評価し,その運動を制限する状況では高信号として描出される.7日以内の虚血性病変に対して最も鋭敏な方法であり,新鮮な脳梗塞が拡散強調像にて高信号として描出される.脳のみではなく,脊髄にも多くの施設で使用され,脊髄梗塞の描出に役に立っている.脳炎および膿瘍(脳膿瘍および脳室炎)に対しても鋭敏で高信号領域として描出される(図15-4-20). 灌流画像は静脈にボーラス投与され,血管に入った常磁性物質(造影剤)のために血管と周囲組織との磁化率の違いが磁場の不均一性を生じ,T2*の変化をまねく.このT2*の変化から灌流状態を求めることができる.
拡散線維路画像(diffusion tarct imaging:DTI)は脳の白質線維路を描出し,それと病変との関係を描出することができる特殊な拡散画像である.白質線維路に沿った水分子の微小運動をとらえ,白質線維路の方向性をとらえることができる.脳の成長と白質病変の解明に役に立つ. 機能画像(fMRI)はある課題を行った後の,脳の局所の活動性を調べる方法である.BOLD法(blood oxygen level-dependent contrast)を使用する.ニューロンの活動は脳のその部位に酸素を含んだ血液をより必要とする.それによって血液内のオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの割合を変化させる.それが静脈内に2~3%の信号強度上昇を起こし,それを画像として描出する.術前の運動感覚皮質や聴覚中枢の把握に有効である.
g.susceptibilty-weighted imaging(SWI)
SWIは新しいMRI撮像法である.直訳すると「磁化率強調」法であるが,わが国では「SWI」で浸透している.名前のとおり,磁化率変化を強調した画像である.gradient echo法によるT2*強調像とは異なり,磁化率効果によるT2*信号減衰を画像化したものではなく,強度画像に位相画像(磁化率変化による位相差)を乗じて画像コントラストを強調している.位相差は高磁場装置ほど大きいので,3TのMRIがより有効である.頭蓋内,脳組織においては静脈血を高精細に描出し,微量の出血も鋭敏に検出する.
頭蓋内では酸素(オキシヘモグロビン)化された脳実質組織とデオキシヘモグロビン化された静脈とのコントラストが得られる.動脈は描出されず,静脈内の信号低下も血流ではなく,デオキシヘモグロビン濃度を反映する.3TのMRIでは髄質静脈が明瞭に認められる(井田ら,2008).
h.スペクトロスコピー(MRS)
1Hや31Pを対象核種として種々の疾患に対して施行されている.エネルギー代謝を非侵襲的に描出することができる.乳酸が描出される疾患は比較的限られており,MELASなどには有効である(図15-4-19D).[柳下 章]
■文献
青木茂樹,堀 正明,他:造影CTが必要とされる症例2.脳脊髄領域.日獨医報,56: 80-92, 2011.
Dillon WP: Neuroimging in neurologic diseases. In: Harrison’s Principles of Internal Medicine 16th ed (Longo DL, Kasper DL, et al eds), pp3240-3250, McGraw-Hill, New York, 2012.
井田正博,菅原俊介,他:MRI T2*強調画像と神経疾患 susceptibility-weighted imagingと脳血管障害.神経内科,69: 251-260, 2008.
MRI
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報