プリオン病(読み)プリオンビョウ(その他表記)Prion Disease

デジタル大辞泉 「プリオン病」の意味・読み・例文・類語

プリオン‐びょう〔‐ビヤウ〕【プリオン病】

異常型プリオンによって引き起こされる致死性の病気総称。脳に無数の空胞ができてスポンジ状になる。ヒトクロイツフェルトヤコブ病ヒツジヤギスクレイピーウシ牛海綿状脳症BSE)、シカ慢性消耗病などが知られる。人獣共通感染症一つ。→プリオン

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家庭医学館 「プリオン病」の解説

ぷりおんびょうでんたつせいかいめんじょうのうしょう【プリオン病(伝達性海綿状脳症) Prion Disease】

[どんな病気か]
 脳が海綿やスポンジのように穴だらけになってぼけ症状が進み、寝たきりとなって、やがて死亡する病気を総称してプリオン病といいます。
 以前は遅発性(ちはつせい)ウイルス感染が原因と考えられていましたが、そのようなウイルスは発見されず、感染した脳にプリオンと呼ばれる、正常な細胞たんぱくが変化して感染性たんぱくとなったもの(たんぱく質性感染粒子(しつせいかんせんりゅうし))が発見されました。これが感染をおこす病原物質と考えられています。
■クロイツフェルト・ヤコブ病(びょう)
 人間のプリオン病の80%前後を占め、世界中にみられます。発生は100万人に1人前後とまれな病気で50歳以降に発症することが多いものです。
 発症の初期から、精神症状、歩行障害、記憶力低下、言語障害、視覚異常などが現われ、数か月で認知症が急速に進行します。その後、意識障害や不随意運動(ふずいいうんどう)(脳・脊髄・神経系の主要な症状の「無動症と不随意運動」)、全身けいれんがみられ、3~7か月で寝たきり状態(無動性無言状態(むどうせいむごんじょうたい))となって、1~2年で死亡します。遺伝子に異常のみられる家族性のものもあります。
 確定した根本的な治療法は、まだありません。厚労省の特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))に指定され、治療費は補助されます。
■ゲルストマン・ストロイスラー症候群(しょうこうぐん)
 遺伝性プリオン病の代表的な病気で、プリオンたんぱく遺伝子の変異によっておこり、優性遺伝します。
 プリオン病のなかで7~10%を占め、40~60歳代に発症することが多く、進行性の小脳性運動失調(しょうのうせいうんどうしっちょう)による症状(言語障害、眼振(がんしん)、手足の運動失調、歩行障害)がおこってから末期に認知症が現われ、数年から10年後に寝たきり状態となり、死亡します。
■新変異型(しんへんいがた)クロイツフェルト・ヤコブ病(びょう)
 1987年から英国で、家畜のプリオン病である牛海綿状脳症(うしかいめんじょうのうしょう)、BSE(俗に狂牛病(きょうぎゅうびょう)と呼ばれる)が急増しました。1994~95年にかけてクロイツフェルト・ヤコブ病の若年発症例が10数例、同国で報告され、牛海綿状脳症によって伝達されたものであることがあきらかになりました。
 日本でも、英国滞在中に感染したと思われる患者が確認されています。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「プリオン病」の意味・わかりやすい解説

プリオン病
ぷりおんびょう
prion disease

感染性のある異常型プリオンが脳に凝集して沈着することで脳神経細胞が傷害される、進行性かつ致死性の病気。プリオンとはタンパク質からなる感染性因子だが、プリオン病では正常な細胞性プリオンタンパク質がなんらかの理由で変形した異常プリオンがみられる。本疾患はヒトにも動物にもあるが、ヒトのプリオン病は人口100万人当り年間約1人の割合で発症し、日本では毎年100~200人が発病する。

 本疾患は、孤発性・遺伝性・獲得性の三つに大別される。このうち孤発性は、当人のプリオンタンパク遺伝子にも家族歴にも異常がない原因不明のプリオン病であり、「クロイツフェルト・ヤコブ病」がその約8割を占める。遺伝性プリオン病は、プリオンタンパク遺伝子の変異により引き起こされる。獲得性プリオン病には、硬膜移植などによるヒトからヒトへの感染もあれば、「牛海綿状脳症」とよばれる、いわゆる狂牛病に罹患(りかん)した牛肉の摂取による動物からヒトへの感染もある。

 代表的なプリオン病である孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病では、急速に進行する認知症症状、ふらつき、不規則なふるえなどの特徴的な症状がみられる。症状は発症から急速に進み、3~4か月で無動性無言状態に至り、全身衰弱、呼吸麻痺(まひ)、肺炎などが死因となる。いまのところ根本的な治療法はなく、対症療法が行われる。なおプリオン病は国の指定難病医療費助成制度の対象である。

[朝田 隆 2024年3月19日]

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改訂新版 世界大百科事典 「プリオン病」の意味・わかりやすい解説

プリオン病 (プリオンびょう)
prion disease

プリオン病とは,プロテアーゼ抵抗性の異常プリオンタンパク質が脳に沈着することにより生ずる疾患の総称であり,ヒトのクールークロイツフェルト=ヤコブ病(CJD),ゲルストマン=ストロイスラー=シャインカーGerstmann-Straussler-Scheinker症候群(GSS),羊のスクレイピー,それがミンク,牛,猫に伝播した伝播性ミンク脳症,牛海綿状脳症(狂牛病),猫海綿状脳症などが含まれる。病理所見より伝播性海綿状脳症とも呼ばれる。1982年,カリフォルニア大学のプルシナーStanley B.Prusinerらはスクレイピーの伝播因子を精製してタンパク質性感染粒子proteinaceous infectious particleの意味でプリオンと呼んだ(この業績に対して1997年度ノーベル賞が授与された)。プリオンは,正常で細胞質内に存在するプリオンタンパク質(PrPC)とは異なる異常プリオンタンパク質(PrPSCあるいはPrPres)から構成され,脳に沈着しさまざまな症状を引き起こす。プリオンには核酸は含まれていないと考えられており,核酸により疾患が伝播するというこれまでの感染の概念からは説明できない現象として注目されている。プリオン病にはプリオンを含む病組織により伝播したものを含む孤発性のもののほか,プリオン遺伝子の変異により常染色体性優性遺伝を示すGSS,遺伝性CJD,致死性家族性不眠症なども知られている。
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六訂版 家庭医学大全科 「プリオン病」の解説

プリオン病
(脳・神経・筋の病気)

 プリオン病とは、正常型プリオン蛋白が感染型プリオン蛋白に変換することにより、中枢神経系が選択的に冒される病気です。発症の原因や機序(仕組み)が明らかになっておらず、有効な治療法が見つかっていない現時点では、治療できない致死性の病気になっています。

 ヒトでは、喰人儀式(しょくじんぎしき)によって伝わったクルー病、孤発性の発症が多いクロイツフェルト・ヤコブ病、家族性に発症するゲルストマン・ストレスラー・シェインカー症候群、家族性致死性不眠症(ちしせいふみんしょう)などがあります。

 また、医原性プリオン病や狂牛病(きょうぎゅうびょう)は大きな社会的問題として注目を集めています。医原性プリオン病は、角膜移植、深部脳波電極の使用、脳硬膜(こうまく)移植、ヒトの死体から抽出した下垂体(かすいたい)ホルモン製剤の投与などの医療行為によって伝染しました。狂牛病は英国でヒツジの骨、内臓を用いた濃厚飼料を通じて、ヒツジのプリオン病(スクレイピー感染因子)がウシに伝染しました。

 さらに、狂牛病のウシからヒトへ伝染した可能性が高いのが変異型クロイツフェルト・ヤコブ病です。その特徴は、発症年齢が若い、生存期間が長い、不安・抑うつ・人格変化・異常行動などの精神症状が現れる、感覚障害の頻度が高いなどです。脳波で周期性同期性放電は認められず、脳のMRIで両側視床枕に対称性の病巣がみられます。小脳失調症状、認知症が進行し、延命処置を施さなければ発症から1年で死亡します。

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内科学 第10版 「プリオン病」の解説

プリオン病(感染症)

概念
 プリオン病とは正常プリオン蛋白(PrPC)の立体構造が変化して難溶性,凝集性となった異常プリオン蛋白(PrPSc)が脳内に生成され神経細胞を障害する致死性疾患である.PrPCはすべての動物の細胞膜,特に神経細胞に多く存在する糖蛋白であるが,その機能は十分には解明されていない.プリオン病の特徴は感染因子がPrPScそのものと考えられており,羊のスクレイピー(scrapie),牛の海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy:BSE)など人獣共通感染症であり,遺伝性もあることである.成因により特発性(孤発性),遺伝性,獲得性(感染性)に分類されるが(表15-7-4),すべてのPrPScには感染性があり第五類感染症として保健所に届け出る必要がある.プリオン病はまれな疾患であるが,PrPCが次々にPrPScに変えられて蓄積する機序はほかの神経変性疾患とも共通ではないかということで近年注目されている.[水澤英洋]
■文献
黒岩義之,水澤英洋編集:プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版).In: プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班,2009,http://prion.umin.jp/ guideline/index.html
水澤英洋編集:プリオン病および遅発性ウイルス感染症.厚生労働省難治性疾患克服研究事業プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班,金原出版,東京,2010.

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