犬神(読み)イヌガミ

デジタル大辞泉 「犬神」の意味・読み・例文・類語

いぬ‐がみ【犬神】

俗信で、人にとりいて害をなすという動物霊。犬の霊とされる。中国四国九州の諸地方に伝わる。

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精選版 日本国語大辞典 「犬神」の意味・読み・例文・類語

いぬ‐がみ【犬神】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 憑物(つきもの)の現象の一つ。また、その憑物の動物霊の名称。ネズミなどの姿をしているともいい、この目に見えない小動物が他人に害をなすという。中国、四国、九州地方で多くいわれる。
    1. [初出の実例]「とりついて・犬神様のしたいまま」(出典:雑俳・西国船(1702))
  2. [ 2 ] 歌舞伎所作事。長唄。二世桜田治助作詞、二世杵屋正次郎作曲。本名題恋罠奇掛合(こいのわなてくだのかけあい)」。文化九年(一八一二)江戸森田座初演。犬神使い長崎勘解由左衛門に奪われた宝珠を、栗生頼賢の妾に化けた千枝狐(ちえだぎつね)が頼賢の助力を得て取り返すという筋。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「犬神」の意味・わかりやすい解説

犬神
いぬがみ

人間に依(よ)り憑(つ)くとされるイヌの霊で、キツネ憑きやタヌキ憑きなどと同種。中国、四国、九州地方に広く分布し、所により「いぬがめ」「いんがめ」「いりがみ」となまってよばれる。その正体はネズミぐらいに小さいとか、人により見える・見えないなど、ともかく実在のイヌとはほど遠い。これが人に憑くと、ひっくり返るような病症を呈したり、イヌのまねをしたりする。また、体のあちこちが痛んだり、心身にさまざまな病気を引き起こす。憑かれるのは女に多く、人間と家畜に憑く2種の犬神があるともいう。憑くのは犬神自身の働きではなく、これを操る「犬神使い」があるからとするのが通例である。そうした霊力をもつのは個人にとどまらず、その家族全員に及び、しかも子孫に継承されるといい、犬神持ち、犬神憑き、犬神筋(すじ)などとよばれる特定の家が存在した。また婚姻によって他家にまで伝えられると信じられ、嫁入りのときたんすの中に犬神を入れていくといった話もある。犬神はその家人にはきわめて忠実で、これを飼い、あるいは若宮、屋敷神に祀(まつ)れば富貴をもたらすが、飼い方、祀り方を誤るとたちまち零落するともいわれる。

 いったん憑かれて病気になると、医者では治らず祈祷師(きとうし)や行者(ぎょうじゃ)などに落としてもらうよりほかに方法はない。したがって「犬神持ち」は非常に恐れられ、嫌われて、その家とはもろもろ交際を避け、とくに通婚を忌む風潮が強かった。中世から近世にかけて阿波(あわ)の細川領、土佐の長宗我部(ちょうそがべ)領などでは、犬神対策に困り、関係者を極刑に処したこともあったが、効果はあがらなかったようである。なお起源については、古代中国に犬蠱(けんこ)とよんでイヌの霊を恐れる風があり、晋(しん)の干宝(かんぽう)の『捜神記(そうじんき)』にも載せられており、それが日本に伝来したとの説もある。また、イヌを土に埋め、首だけ出して食物を与えず、飢えが極まったときに殺したのを祀ったのが犬神だとか、弘法(こうぼう)大師のくれた「犬」の字の御札(おふだ)から犬神が広まったなど、各種の俗伝がある。

[竹田 旦]

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改訂新版 世界大百科事典 「犬神」の意味・わかりやすい解説

犬神 (いぬがみ)

四国を中心に,九州の東部,中国地方の西部などに分布するつきもの一種。これらの地域では,犬の霊を神としてまつる家筋(〈犬神筋〉〈犬神持ち〉〈犬神統〉などという)が存在し,その家の者は,自分が好ましくないと思う者に犬神を憑(つ)けて,病気や死に至らしめることができると信じられている。ひとたび犬神をまつると,末代までその家から離れることがなく,しかも縁組を通じて広がると信じられたので,犬神筋との婚姻はきらわれた。犬神に憑かれると祈禱師に頼んで祓い落とすのが一般的であるが,地方によっては,そうした祈禱師たちもひそかに犬神を用いると考えられている。犬神の起源や製法についての伝承はいくつか伝えられているが,最も知られているのは,犬を土中に首だけ出して埋め,飢えが極度に達した時にその首を切り落とし,それを呪具としてまつることによって,その犬の霊を意のままに操作できる,という伝承である。この伝承は江戸時代の随筆類に多くみられるばかりでなく,これらの地方では今でも語り伝えられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「犬神」の意味・わかりやすい解説

犬神
いぬがみ

犬の霊がつくとされる憑依の一種。四国,中国,九州の諸地方で,特定の家もしくは個人に憑依し,その家や,人に仕えると信じられていた。形状はねずみ大,数は雌雄1対ともまた一族 75匹とも,地方により種々いわれる。いったん憑依すると,その家筋の子孫に伝わり,その家系は犬神筋と呼ばれて,婚姻はおろか交際さえも避けられるようになる。これは犬神筋が婚姻により増加することが嫌われたこともあるが,それとともに犬神が,憑依した人の意をはかって他者に害を及ぼすと信じられたところから,迷惑がられ嫌悪されたものでもあった。犬神憑依の状態は犬のように吠え回るといった狂態で現れ,その治癒のためには呪者の祈祷よりほか術がないとされた。もともとは人間の邪悪な感情が動物霊として形象化したもので,起源的にはシャーマニズムに根ざすものと考えられる。

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百科事典マイペディア 「犬神」の意味・わかりやすい解説

犬神【いぬがみ】

四国,中国,九州に伝わる憑物(つきもの)の一つ。正体はネズミくらいの小動物とか犬の死霊といい,それがとりついている家筋は犬神憑,犬神持といわれ,この家と縁組した家も犬神憑になるとされた。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「犬神」の解説

犬神
(通称)
いぬがみ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
雪尾花夜常 など
初演
安永5.11(江戸・森田座)

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デジタル大辞泉プラス 「犬神」の解説

犬神〔妖怪ウォッチ〕

レベルファイブによるゲームソフト、またそこから派生したテレビアニメや玩具のシリーズ『妖怪ウォッチ』に登場する妖怪。フシギ族、サイズ220センチ。必殺技は「氷結地獄」。

犬神〔妖怪〕

日本の妖怪。犬霊の憑き物として西日本に広く伝承が残る。「犬外道」「インガメ」などともいう。

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世界大百科事典(旧版)内の犬神の言及

【憑物】より

…このような家筋を形成する〈憑物〉には〈オサキ狐〉(関東),〈イヅナ(飯綱使い)〉(東北,中部),〈クダ狐〉(中部,東海),〈人狐(にんこ∥ひとぎつね)〉(山陰),〈トウビョウ〉(=蛇。中国,北四国),〈犬神(いぬがみ)〉(中国,四国,九州),〈ヤコ〉(=野狐。南九州)などがあり,トウビョウを除くほとんどが,〈憑物〉の形状をイタチ大かそれ以下のキツネもしくは犬のような動物として語っている。…

※「犬神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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