家筋(読み)イエスジ

デジタル大辞泉 「家筋」の意味・読み・例文・類語

いえ‐すじ〔いへすぢ〕【家筋】

一家系統。家の血筋家系。「芸術家家筋」「由緒ある家筋
[類語]家系血筋血脈血統筋目毛並み

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精選版 日本国語大辞典 「家筋」の意味・読み・例文・類語

いえ‐すじいへすぢ【家筋】

  1. 〘 名詞 〙 一家の系統。血統。家系。素姓(すじょう)
    1. [初出の実例]「今日は貴君の家筋(イヘスジ)を承度」(出典:洒落本・野路の多和言(1778))

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改訂新版 世界大百科事典 「家筋」の意味・わかりやすい解説

家筋 (いえすじ)

日本の家族はさまざまな地域的構造的差異を内包しつつも,特定世代における生活集団という意義を超えて超世代的連続を志向する点に共通の顕著な特徴がみられた。超世代的連続にあたっては祖先子孫の関係を強く保持することが必要であり,どのような祖先と子孫の関係をとくに強調し,それを通じて家族が連続していくかがすなわち家筋の問題である。これに加えてどのような内容が特定の祖先から子孫へ伝達されていくかが家筋の第2の問題である。ちなみに,民俗語彙としてスジは,おもに西日本において稲の種子を意味した。したがって家は同じ稲の種子を代々伝達していく集団を意味していた。

 祖先と子孫の関係を理解する場合には基本的に出自,相続,継承の三つが重要である。出自はどのような関係の祖先を祖先と考えて出自集団を構成するかという問題であり,祖先中心的な親族組織の構成原理をなすものである。相続は家屋,屋敷地,田畑山林墓地などの財産の世代的な伝達の問題であり,日本には長男相続,初生子相続,選定相続,末子相続などさまざまな形態があるが,おおむね父-息子の関係を通じて行われるのが一般的であった。この意味において財産相続は父系的(父性的)傾向が顕著であった。これに対して継承は財産以外の先祖のさまざまなシンボル,すなわち地位,役職,個人名,位牌などの世代的伝達の問題であり,これは財産相続よりも多様な形態をとっており,父系的な傾向のみに限定されていない。この点において日本の家族はその構造類型に対応するさまざまな家筋のあり方を示している。

 家筋の多様性を複檀家制(半檀家制),位牌祭祀,祖名継承法を例として示してみよう。複檀家制とは一つの家族が複数の檀那寺をもつ制度であり,現在では主として千葉県,神奈川県,茨城県など東日本の村落に多くみられる。この場合家族成員のそれぞれがどのように特定の寺にかかわるかには次のようないくつかの型がある。(1)子どもたちは父親と同じ寺に属し,嫁(母)は実家の寺に帰属する型,(2)一つの家族で男寺と女寺にわかれている型,(3)男の子どものみが父親と同じ寺に属し,これと別に嫁(母)の寺がある型,(4)父の寺と母の寺が別々にあり,子どもは二者択一的な選択が可能な型など。一家一寺の単檀家制であれば父系的(父性的)な家筋が貫徹されるが,複檀家制においてはいずれの場合においても父子関係のみならず母子関係も重要な意味をもっているから,親子関係のレベルにおいては双性的な筋が形成されることになる。次に祖先祭祀の一形態である位牌祭祀についてみると,日本の位牌祭祀はどのような祖先の位牌を祭祀しているかについて二つの類型を設定することができる。一つは原則として家代々の家長とその配偶者をまつる型であって,この型の位牌祭祀においては父系単系的な家筋が強調され,財産相続における家筋と一致する。いま一つの型は民俗慣行としては〈位牌分け〉に代表されるように,限定的にせよあるいは無限定的にせよ母方や妻方の家族の先祖の位牌を何らかの形で祭祀する型である。とくに西南日本の家族や都市家族にあっては超世代的に母方や妻方の位牌をまつる例がしばしばみられる。このような母方,妻方の位牌をもまつる型は父系的な家筋に加えて母方,妻方の家筋を強調する傾向といえる。さらに先祖の個人名の継承形態である祖名継承法をみると,これも父方の先祖のみから継承する父系単系型と,母方の先祖の個人名もあわせて継承する双系型の二つのタイプの設定が可能である。

 このように具体的ないくつかの事例についてみれば,日本の家族にみられる家筋は,従来とくに強調されてきた父-息子関係を軸とする父系単系的な家筋のみならず,父-息子に加えて母-子の関係も強調する双系的な家筋も重要な意味をもっていたことが理解できる。日本人の多様な祖先-子孫関係のなかで,とくに父-息子関係を特別に強調したものが,明治民法が規定した〈家〉であり,そのためには特別の力が必要であり,それがいわゆる家父長制,長子相続制を中心とする〈家制度〉であった。しかしながら日本の家族にはこうした父系的家筋のみを強調する家族ばかりでなく,西南日本を中心として双性的な家筋を特徴とする家族もみられたことを理解することは,日本の家族の解明にあたってきわめて重要である。
 →家族
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