理論生物学(読み)りろんせいぶつがく(英語表記)theoretical biology

日本大百科全書(ニッポニカ) 「理論生物学」の意味・わかりやすい解説

理論生物学
りろんせいぶつがく
theoretical biology

古くは生命論に関係した種々の仮説や、生物学的方法論などを理論生物学とよんでいたが、近代生物学の発展に伴って、現在ではいろいろな生物学分野での実験や観察データを踏まえたうえでの理論的な解析を目的とした学問を全般的にさしていう。

 近年の分子生物学の目覚ましい発展によって、種々の生物現象の分子レベルでの素過程が明らかにされてきたが、それらを物理化学法則を基礎にして解析し理解しようという理論的な研究がある。核酸やタンパク質などの生体高分子の構造や分子論的機能を明らかにし、酵素反応、光合成筋収縮生体膜、神経興奮伝達などの分子的素過程の基本的機構を解明する目的の理論的研究が行われている。

 また一方で、対象とする生物学的な系の特性を反映させた数学的な理論モデルを設定し、そのモデルの解析から得られる結果に基づいて現象の本質を探究しようとする理論的研究が最近盛んに展開されている。とくに集団遺伝学、生態学、発生および形態形成神経回路網などでは、こうした数理モデルによる研究が有効な手段として幅広く展開されている。使われる数学的手法力学系の理論、システム論、オートマトン理論、さらに最近ではゲーム理論など多様である。後者は普通、数理生物学とよばれることが多いが、それは近代の理論生物学の発展の特徴を表すもので、理論生物学のなかでも重要な位置を占めているといってよい。

[寺本 英]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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