生物電池(読み)セイブツデンチ(その他表記)biochemical fuell cell

デジタル大辞泉 「生物電池」の意味・読み・例文・類語

せいぶつ‐でんち【生物電池】

生物機能を利用した電池総称酵素微生物の生化学的なエネルギー電気エネルギーに変換することで発電を行う。実用化に向けた研究開発が進められている。バイオ電池

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精選版 日本国語大辞典 「生物電池」の意味・読み・例文・類語

せいぶつ‐でんち【生物電池】

  1. 〘 名詞 〙 酵素や微生物の生物化学反応を利用して電気エネルギーを取り出す装置

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「生物電池」の意味・わかりやすい解説

生物電池
せいぶつでんち
biochemical fuell cell
biofuel cell

酵素や菌などの生体触媒を使用し、水素メタノールグルコースなどと酸素とを生物電気化学的に反応させ、直接電気エネルギーを得るバイオ燃料電池広義には生物電気化学電池ということができよう。電解質に固体高分子を用いる燃料電池では、水素を電気化学的に酸化しようとするとき、貴金属系の触媒を用い、少なくとも80℃程度の温度を必要とする。またアルカリ水溶液や、リン酸、溶融炭酸塩などを使用するものでは、過酷な腐食に耐えなければならない。これに対し、生物電池では生理的環境の室温、大気圧、中性という温和な条件下で作動できるという特徴がある。

 生物電池はこれまでメタノールの水素変換や光エネルギーによる水素生成などの研究がおもであったが、1990年代の後半になり、生物電気化学反応により電力を取り出すという本当の意味での生物電池の研究が行われるようになった。実用化を目ざすには、安定性に優れた高性能な生体触媒の開発に加え、電極と生体触媒間の電子移動を容易にする媒体の開発を通じて、出力密度などの向上を図ることが課題となっている。おもな研究には次のようなものがある。

浅野 満]

メタノール酸素バイオ燃料電池

アメリカのカリフォルニア大学デービス校とハーバード大学では、ベンジルビオロゲンによってニコチンアミドアデニンジヌクレオチドNADH)を酸化してNAD+とするとき、ジアホラーゼが生体触媒として有効に作用すること、そしてこのNAD+を電子移動媒体に用いると、デヒドロゲナーゼによりメタノールをCO2に容易に酸化できることを1998年にみいだした。そこでこの生体触媒反応をグラファイト負極上で行い、また白金正極でO2をH2Oに還元する反応とを組み合わせ、ナフィオンプロトン交換膜を隔膜に用いて、メタノール酸素バイオ燃料電池を作製している。そして、室温、pH7.5の条件で開回路電圧として0.8ボルトを得ており、また1.38mA/cm2の電流密度で電流を取り出したときでも電池電圧は0.49ボルトであるとしている。これは0.67mW/cm2の出力密度に相当するものである。

[浅野 満]

グルコース酸素バイオ燃料電池

1999年イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学とテル・アビブ大学では、金Au負極上に生体触媒のグルコースオキシダーゼGOxと電子移動媒体のピロロキノリンキノン‐フラビンアデニンジヌクレオチド(PQQ‐FAD)単分子層を付着し、また金正極上にはチトクロムc/チトクロムオキシダーゼ対と4‐ピリジンチオールを付着して、隔膜なしのグルコース酸素バイオ燃料電池を作製している。そして室温でpHが7の中性条件において、負極でグルコースを生物電気化学的に酸化してグルコン酸とし、正極でO2を生物電気化学的に還元してH2Oとしたとき、開回路電圧として0.16ボルト、出力密度として5μW/cm2を得ている。さらにエルサレム・ヘブライ大学ではドイツのバイオ工学研究協会と共同で、Au/PQQ‐FAD/GOx負極とAu/ミクロパーオキシダーゼ‐11正極を用いるグルコース過酸化水素バイオ燃料電池や、また同大学独自で同じ正負電極を用い、負極室には水溶液、正極室にはジクロロメタン有機電解液の2相を用いるグルコースクメンパーオキシドバイオ燃料電池などを研究している。これらの出力密度は現状ではきわめて低いが、新しい系によるバイオ燃料電池開発の道を開くものとして期待されている。

[浅野 満]

水素酸素バイオ燃料電池

カリフォルニア大学デービス校では、1999年に菌性酵素のラッカーゼと電子移動媒体の2, 2'‐アジノビス(3‐エチルベンゾチアゾリン‐6‐スルホネート)(ABTS2-)を用いて、O2を生物電気化学的にH2Oに還元できることを見出した。そこで、負極に白金、正極にグラッシーカーボン、隔膜にナフィオンプロトン交換膜を使用し、正極室にラッカーゼとABTS2-を加えて水素酸素バイオ燃料電池を組み立てている。負極室と正極室へそれぞれH2とO2を導入してH2Oとしたとき、この電池の室温、pH4.0における開回路電圧は1.0ボルトであり、また電力を取り出したときには0.61ボルトで最大の42μW/cm2の出力密度を得ている。

 2001年(平成13)京都大学大学院農学研究科では、正負両極ともに生物電気化学反応を利用した水素酸素バイオ燃料電池の作製に初めて成功した。これは電極にカーボンフェルトを、また隔膜にはアニオン交換膜を用い、負極室に硫酸還元菌のデスルホビブリオブルガリスと電子移動媒体のメチルビオロゲンを、そして正極室にビリルビンオキシダーゼとABTS2-を添加し、負極室と正極室へそれぞれ導入したH2ガスとO2ガスを生物電気化学的に酸化および還元してH2Oとするものである。室温、1気圧で、pH7.0の条件下における開回路電圧として1.17ボルトを得ているが、この値は
  H2+1/2O2―→H2O
反応の理論電圧(1.23ボルト)に近い。また0.2mA/cm2の電流密度で電流を取り出したときの電池電圧は1.0ボルトである。固体高分子形燃料電池では0.2A/cm2以上の電流密度を得ることができるが、それに比べると1000分の1以下であり、電流密度の低いことが大きな課題になっている。

[浅野 満]

『橋本尚著『電池の科学――生物電池から太陽電池まで』(1987・講談社)』『池田篤冶・加納健司著「硫酸還元菌のヒドロゲナーゼ活性」(日本農芸化学会編『化学と生物』39巻11号所収・2001・学会出版センター)』『辻村清也・加納健司・池田篤冶著「生物の仕組みに学ぶ燃料電池」(『化学』157巻2号所収・2002・化学同人)』

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