家庭医学館 「産褥静脈血栓症」の解説
さんじょくじょうみゃくけっせんしょう【産褥静脈血栓症 Puerperal Venous Thrombosis】
分娩(ぶんべん)のとき早く血が止まるように、妊娠中は生理的に血液が凝固しやすい状態になっていますが、これがかえって悪い作用をおこすことがあります。つまり、血栓症(血液のかたまりができて、血管をふさいでしまう病気)を発症させる引き金になるのです。
現在、血栓症は、表在性と深在(部)性に分けられています。
■表在性静脈血栓症
産褥時に発生する血栓症の約70%を占め、一般的に軽症です。産褥2~3日目に、皮膚のすぐ下にある静脈に沿って、足関節(そくかんせつ)内側から膝関節(しつかんせつ)内側にかけて線状の発赤(ほっせき)(皮膚が赤くなる)を認め、熱感と疼痛(とうつう)がおこります。
■深部静脈血栓症
妊婦死亡の原因として頻度の高い肺塞栓症(はいそくせんしょう)(コラム「肺塞栓症」)の約70%が、この疾患を合併しています。そのため、肺塞栓症を減少させるには、深部静脈血栓症を早期に発見し、適切な治療を行なうことが重要です。
しかし、診断は非常に困難で、なんらかの症状を示すのは、約10%にすぎません。
発症しやすい部位は、下肢(かし)や骨盤(こつばん)内で、とくに左側に多くおこります。
症状は、下肢の浮腫(ふしゅ)(むくみ)や腫脹(しゅちょう)(腫(は)れ)、腓腹部(ひふくぶ)(ふくらはぎ)の圧痛や疼痛(とうつう)などです。
以上のことから、最近では、深部静脈血栓症にかかる可能性の高い人(血栓塞栓症の既往歴のある人、浅在性静脈瘤(せんざいせいじょうみゃくりゅう)、静脈炎のある人など)の場合は、予防的治療(少量のヘパリンカルシウムやヘパリンナトリウムを用いる)を行なう必要があるとされています。
[検査と診断]
静脈に造影剤を入れてX線撮影をすると、血管の画像がとぎれていたり、造影剤が充満しているはずのところが欠けているのがみられ、診断が確定します。また、超音波血流計測法で、大腿(だいたい)静脈音が聴きとれない場合、閉塞(へいそく)があると推測されます。
[治療]
表在性の場合、患部側の下肢を高くしたり、圧迫するための包帯を巻きます。深在性の場合は、抗凝固(こうぎょうこ)療法(ヘパリンやワルファリンカリウムといった薬剤を使い、血液をかたまりにくくする)が行なわれます。
予防としては、脱水状態や血液の濃度の改善をはかり、産後は早期に離床します。正常な出産でも、予防のため、抗生剤や消炎剤を使用します。