家庭医学館 「病原大腸菌食中毒」の解説
びょうげんだいちょうきんしょくちゅうどく【病原大腸菌食中毒】
病原大腸菌にはつぎの4種類があって、発病のメカニズムも症状もちがいます。
■組織侵入性大腸菌(そしきしんにゅうせいだいちょうきん)
この菌は大腸の粘膜上皮(ねんまくじょうひ)組織内に侵入・増殖(ぞうしょく)し、発熱、腹痛(しぶり腹(コラム「しぶり腹(テネスムス/裏急後重)とは」))、下痢(げり)(粘血便(ねんけつべん))など赤痢(せきり)と同じ症状をおこします。ふつうは、人から人へ感染して散発的に発生しますが、食品から集団発生することもあります。
■毒素原性大腸菌(どくそげんせいだいちょうきん)
この菌は小腸で繁殖(はんしょく)し、毒素を生産して腸の粘膜を刺激します。その結果、腸での水分と電解質の吸収・分泌(ぶんぴつ)の調子をくるわせ、下痢や嘔吐(おうと)をおこします。
先進国には少なく、東南アジア、インド、アフリカ、中南米諸国に多い食中毒で、旅行者もよくかかります。
抗生物質で治療しますが、下痢がひどければ輸液も行ないます。
■腸管病原性大腸菌(ちょうかんびょうげんせいだいちょうきん)
乳幼児に嘔吐、腹痛、水様の下痢をおこすとして古くから知られていた菌で、毒素によって病気がおこるとされていますが、その毒素はまだ確認されていません。
この菌は、家畜や、食肉からも見つかり、成人は食品を介して口から菌が大量に入ったときに発病します。
治療・予防は、サルモネラ食中毒(「サルモネラ食中毒」)と同じです。
■腸管出血性大腸菌(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん)
O(オー)‐157菌による食中毒がわかったのは新しく、日本では1984年以降です。
水様の下痢が頻回におこり、3日目ごろからへそのまわりが強く痛み、血便(けつべん)が数日続きます。発熱は38℃以下で、嘔吐はあまりおこりません。
子どもは、溶血性尿毒症症候群(ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん)(HUS=顔や下肢(かし)のむくみ、顔面蒼白(そうはく)、意識の混濁(こんだく))が続発し、生命にかかわることもあります。
井戸水や食肉から集団発生することが多く、人から人へと感染することはまれです。輸液や抗生物質で治療し、尿毒症がおこれば人工透析(じんこうとうせき)(「人工透析」)が必要になります。