デジタル大辞泉
「痛風腎」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
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痛風腎(全身疾患と腎障害)
定義・概念
高尿酸血症による腎障害は,白血病などの治療の際に大量の細胞破壊などによる急激な尿酸の産生増加により腎からの尿酸排泄量が増加し,尿酸が尿細管腔の閉塞を起こし,ときに腎不全に陥ることもある尿酸性腎症(uric acid nephropathy)と,高尿酸血症が長期間持続して尿酸塩結晶が尿細管および間質に析出・沈着することにより起こる尿酸塩性腎症(urate nephropathy)とに分類される.痛風腎は,尿酸塩性腎症の範疇に入り,狭義の意味では腎実質内に尿酸塩の沈着を認めた場合に定義される.しかし腎への尿酸塩沈着は腎不全例の腎にも認められるなど,必ずしも痛風に特異的ではない.このようなことから最近では,痛風に高率に合併する高血圧,糖・脂質代謝異常などによる腎障害も含めて,原発性痛風に合併する腎障害を痛風腎と広義に定義している.
病因・病態
痛風による腎障害の発症,進展の機序は,高尿酸血症および高尿酸尿症に伴い腎髄質を中心に尿酸,尿酸塩結晶が尿細管管腔内および間質に析出することが主因の1つと考えられている.現在のところ,痛風腎はインスリン抵抗性を基盤とした高尿酸血症,高尿酸尿症,酸性尿からくる慢性間質性腎炎と高血圧,脂質代謝異常,糖代謝異常などからくる細動脈性腎硬化症の両者が複雑に関連して形成されると考えられる(図11-6-5).
疫学
痛風の基礎疾患である高尿酸血症は経年的に増加を認めており,高尿酸血症の頻度は成人男性の20~30%に,女性では閉経前では1%前後で,閉経後では3~5%に認められている.現在,痛風患者は全国で60万~70万人とされている.痛風患者の腎障害の頻度についてはさまざまな報告があるが,われわれのデータでは腎機能の低下の観点からみると約14%である.
臨床症状
痛風腎の主因が腎髄質への尿酸塩沈着であることから,痛風腎では糸球体機能障害よりも髄質機能障害が生じることが多い.したがって,蛋白尿を呈する頻度は低く,クレアチニン・クリアランスも腎障害が進行してからではないと低下しない.痛風腎では尿濃縮能の低下が早期より認められることから,最高尿浸透圧や最高尿比重は低下してくる.また痛風では20~30%と高率に尿路結石を認める.
診断・鑑別診断
尿酸はX線透過性であるために単純X線写真で尿酸塩の沈着や結石を検出することは困難である.腎臓超音波検査において,正常腎では,腎髄質は腎皮質より低いエコーレベルを呈するが,痛風腎では,逆に腎髄質が皮質よりも高いエコーレベルで描出されることが多く,hyperechoic medullaとよばれている.このhyperechoic medullaを認める場合は痛風腎の診断根拠の1つとなるとされている.また尿酸塩沈着が腎髄質に限局的に認められることが多いため,腎生検標本にて尿酸塩沈着を証明することは困難である. 高尿酸血症,痛風の長い罹病期間と上記の臨床所見・検査所見などから痛風腎を診断する.痛風腎の鑑別診断としては,hyperechoic medullaを呈する腎髄質石灰化症があげられる.腎髄質石灰化症をきたす疾患としては,尿細管性アシドーシス,副甲状腺機能亢進症,Bartter症候群,偽性Bartter症候群などがある.
治療
痛風腎の予防・治療には高尿酸血症・高尿酸尿症の是正が重要となる.痛風腎では尿酸生成抑制薬のアロプリノールやフェブキソスタットが使用される.また痛風腎の増悪防止および尿路結石の発症・進展抑制には尿路管理が重要となる.尿路管理としては,尿中尿酸濃度を低下させるために低プリン食と尿酸生成抑制薬による尿酸排泄量のコントロールおよび尿量の確保(1日尿量を2000 mL以上に保つように飲水指導を行う)と,尿中尿酸の溶解度を上昇させるために酸性尿の是正(目標尿pH 6.0~7.0)が必要である.
予後
痛風腎は,痛風に高率に合併する高血圧と相まって腎機能低下は徐々に進行し末期腎不全に陥ることが多く,現在でも痛風腎は透析導入患者の原疾患の中で1%弱を占めている.[大野岩男]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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