日本大百科全書(ニッポニカ) 「発光魚」の意味・わかりやすい解説
発光魚
はっこうぎょ
luminous fish
生物発光をする魚をいう。ヒイラギ類やイシモチ類のように浅海にすむ魚でも発光する種類もいるが、発光魚の大部分は300~1000メートルの深海に生息する。発光魚は分類上では軟骨魚類のツノザメ科、シビレエイ科、硬骨魚類のウナギ目、ニギス目、ワニトカゲギス目、ハダカイワシ目、タラ目、アンコウ目、キンメダイ目、スズキ目などに属する約40科にまたがっている。
[落合 明・尼岡邦夫]
発光の仕組み
発光現象には、化学反応による自力発光型と、共生する発光バクテリアによる共生発光型との二つがある。自力発光型は神経の作用でルシフェリン(発光素)とルシフェラーゼ(発光酵素)を反応させて発光細胞が明滅する。ホウネンエソ類では発光細胞の内側は色素層や反射層で取り囲まれ、光が色フィルターやレンズを通して外部に発射される仕組みになっている。ハタンポ科のキンメモドキ、テンジクダイ科のツマグロイシモチ、ガマアンコウ科Batrachoididaeのポリクチス・ノッタタスPorichthys notatusなどのルシフェリンは、自らの体内で生成されているのではなくて、餌(えさ)のウミホタルから由来しているという報告がある。ハダカイワシ類、ホウネンエソ類やワニトカゲギス類では真珠様の丸い発光器が、頭の表面、口内、体の腹側面、尾柄(びへい)など定まった位置に配列している。発光器の大きさや光の色彩は魚の種類によって決まっている。雌雄の間で発光器に差がある種もあり、その場合、目の直前・直後、頬(ほお)、尾柄の基部にある発光器は雄で大きく、雌では小さいかまったくない。フジクジラやカラスザメなどの深海ザメでは自力発光器は微細で数多く、皮膚中に密に散在している。
共生発光型は共生する発光バクテリアによって光る。アオメエソ類、ヒイラギ類、マツカサウオ類、ホタルジャコ類、ソコダラ類などでは、この種の発光器は消化器官と関連して、口、食道や直腸、肛門(こうもん)近くに位置している。チョウチンアンコウ類では発光器はルアー(エスカとよばれる擬餌(ぎじ)状体)の中にある。発光器は管状または袋状で、1本の細い管で体の表面または消化管につながっている。この小管を通じて海水中の発光バクテリアは発光器官内へ進入する。内部には発光バクテリアのための培養室がある。光は反射層で反射されレンズを通って窓から発射される。
[落合 明・尼岡邦夫]
発光の意義
深海魚は、光を暗黒の水中で照明として有効に利用している。また、それぞれの種類は特有な光によってほかの種類を、同種でも雌雄を区別している。チョウチンアンコウ類のルアーをはじめ、ホテイエソ類のひげなど、発光器が獲物を誘引する役目を果たしているものも多い。ハダカイワシ類などは体の腹側面に並んだ発光器からの光で体の輪郭を消し、外敵から身を守る。ヒイラギ類やハダカイワシ類などでは、産卵期に雄で発光現象が著しくなり、雌雄の認知に用いられる。ある種のチョウチンアンコウ類では発光液を体外に噴出させ、それで外敵の目をそらしている。
[落合 明・尼岡邦夫]