深海魚(読み)しんかいぎょ(英語表記)deep-sea fish

  • 深海魚 deepsea fish

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

大陸棚より沖合いの,水深 200m以深の海中または海底に生息する魚類総称ツノザメハダカイワシアンコウタラなどの類が大部分を占めるが,個体数は少ない。太陽光線の届かない暗いところに適応しているため,発光器をもつもの (クジラウオなど) や発光細菌を共生させるもの (チョウチンアンコウなど) がおり,眼は非常に大きい (アオメエソなど) か,あるいは退化している (アサバホラアナゴなど) ものが多い。水圧の影響で,筋肉発達や化骨の不十分なものも多い。内臓にビタミンなどの有効成分が含まれていることがわかり,その利用価値が高まってきている。

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百科事典マイペディアの解説

普通,大陸棚より沖合の深海(水深200m以上)にすむ魚をいう。動物学上,特別なグループの魚類とはいえず,さまざまな系統のものが含まれる。高水圧・暗黒の環境に適応して,発光器をもつもの,目の大きくなったもの,また逆に目の非常に退化したもの,体の軟弱なものなどが多い。

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世界大百科事典 第2版の解説

一般に海洋の水深200m以深に生息する魚類の総称で,夜間表に浮上する種も多い(イラスト,イラスト)。海洋の150~200m以深の層は,光合成に必要な光量が十分でなく植物プランクトン海藻は生育できない。したがって深海魚はすべて動物食性である。深海環境を特徴づけるものとして,光が少ないかまたはほとんどないこと,低水温,高水圧,餌料生物のきわめて少ないことなどがあげられるが,これらの条件に適応するためにいろいろに変わった形態生態を示す魚が多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

水深200メートルぐらいからさらに深い海中や海底にすむ魚類の総称。ヌタウナギ類、カグラザメ類、ツノザメ類、ガンギエイ目、ギンザメ類、ウナギ目、ワニトカゲギス目、ハダカイワシ目、タラ目、アンコウ目、キンメダイ目、スズキ目など多くのグループが含まれ、その種類数は2000種以上ある。とくにソコギス目とクジラウオ目、チョウチンアンコウ亜目の魚類は深海だけに生息している。

 深海は太陽光線がほとんど届かないため暗黒であり、高水圧、低水温で、しかも餌(えさ)が少ない。深海魚はそこに適応して摂餌(せつじ)、繁殖などを行うため、きわめて特徴的なものが多い。わずかな光でも視力を得るために、オオメマトウダイ、ソコマトウダイ、ギンサケイワシなどは目が大きくなっている。逆に、ホソミクジラウオ、イレズミコンニャクアジなどでは極端に小さい目になり、1500メートル以深に生息するチョウチンハダカでは完全に目がなくなっている。それ以外にデメニギス科の魚、ボウエンギョなどのように目が望遠鏡のようになった魚、上向眼をもったテンガンムネエソ、前方から上方に向きを変えることができるデメニギスもいる。

 発光器は深海魚にとくによく発達している。ハダカイワシ類やワニトカゲギス類では真珠のような発光器が体表に配列し、仲間どうし、または雌雄間の認知に、また体の輪郭を消すために利用されている。これらの発光やフジクジラやカラスザメなどのサメ類の腹面の発光は自力発光器、チョウチンアンコウ類のエスカ(ルアー)、ソコダラ類などの発光は共生する細菌によって光る他力発光器によるものである。また、チョウチンアンコウ類の口の背方にある誘引突起(竿(さお))の先端にあるエスカや、ワニトカゲギス類のひげの先端の発光器は、獲物を誘引して確実に捕食する働きをしている。

 大きな口は、少ない獲物を確実にとらえるために発達している。フクロウナギは頭蓋骨(とうがいこつ)の7~10倍の大きな口で、獲物をとらえる。ホウキボシエソ科の魚は大口であるが、下あごは骨だけで、皮膚はないので、口を閉じるとき水の抵抗を少なくする。下あごの先端に強くて長い歯をもっているので、口をとらばさみのようにして獲物をとらえることができる。

 海では深さが10メートル増すごとに1気圧が加わるので、深海魚はつねに大きな水圧を受ける。これに耐えるため、深海魚では皮膚や骨格の構造が疎となり、周囲の海水が容易に体内に入り込んで、内外の圧力がつり合うようになっている。クサウオ科やウラナイカジカ科の魚は体がぶよぶよし、骨格は退化的である。

 暗黒の深海での繁殖生態は特異である。チョウチンアンコウの仲間は雌が著しく大きいが、雄はきわめて小さい。繁殖期には雄は雌に付着して繁殖の成功率を高めている。ミツクリエナガチョウチンアンコウは雄が雌と完全に癒着し、雌から栄養の供給を受ける。ヨコエソ科の仲間は雄から雌に性転換する。餌が少ないので最初はエネルギーが少なくてすむ雄として成熟し、後に大きな体の雌になる。また性比のバランスを保つのにも使われる。

 深海魚のうち700~1000メートルの間にすむものは、食用となるものが相当にある。キンメダイ、チカメキントキ、ハマダイ、ムツ、キチジ、アコウダイ、バラメヌケ、ババガレイ、ヒレグロなどは商品としても価値が高い。ハダカイワシ類、ニギス、アオメエソ類はいずれも小形ではあるが、肉質がよくて煮物、干物、練り製品にされ、タラ類、とくにスケトウダラ、マダラ、メルルーサは世界各地で広く食用にされる。日本ではスケトウダラはかまぼこをはじめ各種の練り製品の原料として非常に重要である。また、ツノザメ、アイザメ、ビロウドザメなどの深海ザメの肝臓油は、スクアレンを多量に含むが、このスクアレンは化粧品や健康食品に、また、極低温で凍らないため精密機器、航空用などの潤滑油として珍重されている。なお、全般的に魚類資源が減少しているため、深海漁場の開発や深海魚の研究が盛んになってきている。

[落合 明・尼岡邦夫 2015年1月20日]

『長沼毅著『深海生物学への招待』(1996・日本放送出版協会)』『北村雄一著『深海生物図鑑』(1998・同文書院)』『尼岡邦夫著『深海魚 暗黒街のモンスターたち』(2009・ブックマン社)』『尼岡邦夫著『深海魚ってどんな魚――驚きの形態から生態、利用』(2013・ブックマン社)』


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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 一般に水深約二〇〇メートル以上の深海にすむ魚の総称。光が少ないか全くない、低水温、高水圧、生物現存量の少なさなどに適応するため、体の構造や生活様式を特異に発達させた一次性深海魚と、浅海域の魚類とあまり変わらない体や生活様式をもつ二次性深海魚がいる。現在最も深い記録はアシロの仲間の八三七〇メートルである。深海魚には、他にチョウチンアンコウ類、ハダカイワシ類、ソコダラ類、ホテイエソ類などがいる。

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