日本大百科全書(ニッポニカ) 「発光生物」の意味・わかりやすい解説
発光生物
はっこうせいぶつ
発光する生物をいう。発光(生物発光)する生物はバクテリアから魚類まで広く分布するが、その分布には一定の系統的な関係は認められない。発光の機構も生物の種類によって異なり、発光現象はいくつものグループで独立に進化したものと考えられている。生物の発光は、自らが生産する発光物質による自己発光と、共生するほかの生物による共生発光とがある。自己発光にも、ヤコウチュウ(夜光虫)やホタルのように細胞内で発光がおこる細胞内発光と、ウミホタルやツバサゴカイのように発光物質が細胞外に分泌されて発光する細胞外発光がある。
[村上 彰]
動物以外の発光
動物以外で発光するものには、百数十種の発光バクテリア(発光細菌)と数十種の発光キノコ(発光菌類)、およびヤコウチュウなどの鞭毛(べんもう)藻類(動物学では原生動物としても分類される)がある。発光バクテリアは海産のものが多く、死んだ魚や水産加工品の表面で繁殖し、発光する。牛肉や馬肉に繁殖するものもある。一般に発光バクテリアは人体に有害な物質を生産せず、腐敗菌が繁殖すると死滅するといわれている。魚やイカのなかには自力発光をしないが発光器官をもち、その中に発光バクテリアを共生させているものがある。発光バクテリアのなかには、生きている甲殻類などに寄生するものがある。諏訪(すわ)湖などのホタルエビは、淡水産のヌカエビに発光バクテリアが寄生したものである。またハマトビムシなどの発光生物でないものでも、その傷口から侵入した発光バクテリアが体内で繁殖して「光り病」をおこさせることがある。発光するキノコでは、ツキヨタケのように子実体の傘が発光するもの、ナラタケのように菌糸が発光するもののほか、胞子などいろいろな部位が発光するものがある。動物以外で発光するもののなかには、発光動物(昆虫の幼虫やミミズ)の寄生または共生によって発光しているものがある。また、ヒカリゴケは光の反射によって光っているようにみえるが、自ら発光しているのではない。
[村上 彰]
動物の発光
発光する原生動物の代表種はヤコウチュウである。ヤコウチュウでは、細胞質中の発光顆粒(かりゅう)が機械的刺激によって発光する。夜の海でボートのオールや波によって機械的に乱された水が青白く光るのは、このヤコウチュウやそのほかの渦(うず)鞭毛虫類、またはウミホタル(節足動物)などの発光による。ウミエラ、ウミサボテン、オワンクラゲやクダクラゲの類など、多くの刺胞動物(腔腸(こうちょう)動物)が発光する。クシクラゲ(有櫛(ゆうしつ)動物)にも発光するものがある。環形動物のツバサゴカイやヒカリミミズも発光するが、これらの動物は特別の発光器官をもたず、刺激されると発光性の粘液を腺(せん)細胞より分泌する。この発光性分泌物による細胞外発光をするものには節足動物のウミホタルや、軟体動物の頭足類(深海産のイカ類)も含まれる。軟体動物では多くのイカ以外にも、カモメガイの一種や発光ウミウシのほかに淡水産のカサガイの一種や陸産の発光カタツムリが発光する。ホタルの発光はよく知られているが、陸生の発光動物は海産のものに比べて非常に少なく、淡水産のものは前記カサガイのほかにはほとんど例がない。このほか発光する動物には、棘皮(きょくひ)動物の発光するクモヒトデ、原索動物のギボシムシやヒカリボヤ、脊椎(せきつい)動物では多くの魚がある。魚類を除く脊椎動物(両生類、爬虫(はちゅう)類、鳥類、哺乳(ほにゅう)類)で発光するものは知られていない。
[村上 彰]
発光器官
発光する動物、とくに節足動物(ホタル、エビの類)、頭足類(イカ)、魚類には発達した発光器官を備えたものがある。ホタルには、ゲンジボタルのように、成虫だけでなく幼虫や蛹(さなぎ)も光るものがある一方、まったく光らない種もある。ホタルの発光器官には、透明なクチクラ層の内側にたくさんの発光細胞の集まった発光層と、さらにその内側に白い顆粒を含む反射細胞の層がある。この顆粒は尿酸塩の結晶で、よく光を反射する。発光層には細く分岐した気管が入り込んで、発光に必要な酸素を供給する。発光は神経に支配されており、発光層に分布する神経繊維を刺激すれば発光する。イカや魚類、またサクラエビなどの甲殻類には、発光体、反射器のほかにレンズや色フィルターを備えた目のように発達した発光器官をもつものがある。浅海性のメヒカリイカやダンゴイカ、またマツカサウオやヒカリキンメダイなどの発光魚では、発光器官の中に発光バクテリアが共生して発光している。共生するバクテリアは、体外に通じた袋の中で培養されている。ヒカリキンメダイは発光器官を回転させることにより、また、ごく近縁のフォトブレファーロンは、目の下にある大きな発光器官を瞼(まぶた)のような膜をあげて覆うことによって、光を点滅させることができる。キンメモドキは、餌(えさ)のウミホタルのルシフェリンとルシフェラーゼを分けて蓄え、それを発光器官の中で混ぜて発光させる。またイシモチの仲間には、近縁の魚でありながら、ウミホタルの発光物質を利用して光るものと、発光バクテリアを共生させて光るものとがある。この現象が、どのような進化の結果生じたのかはわかっていない。
[村上 彰]
発光の意義
下等生物においては、発光に特別の生物学的意義はなく、単に化学反応に伴う現象と考えられている。しかし、より高等な動物では、いくつかの例について発光のもつ意義が指摘されている。ホタルでは、特定の木に多数の雄と雌が集まってほとんど同時に発光したり、また別の種では、一定の周期で発光しながら飛ぶ雄に雌が応答したりすることが知られており、発光が配偶行動に重要な役割をもつといわれている。また、発光ゴカイでは、成熟した個体の一部が切り離され、精子または卵をもって泳ぎ出すが、卵をもった雌の一部の発光に、雄の部分が誘引されて受精するといわれている。このほかに、発光によって餌をおびき寄せるチョウチンアンコウや、光る粘液の塊をおとりとして放出して逃げるイカ(ヘテロテウチス)などが知られている。
[村上 彰]