農作物の種子が母体上で発育・成熟する過程をいい,とくに成熟種子を生産対象とする穀類やマメ類などに適用されるのがふつうである。開花,受精を完了した花器中では,子房が発育を開始し,その中で種子の形成すなわち登熟が進行する。この過程を通じて種子中には,次世代の新個体の原基ともいうべき胚が形成されるほか,次世代の初期栄養となるデンプン,脂肪,タンパク質などが,胚乳や子葉中に順次蓄積されていく。穀類やマメ類では,種子中に貯蔵されるこれら栄養物質を収穫の主たる対象とするものであるから,登熟は作物生産上,最も重視される過程の一つとなる。一般に登熟の良否は,登熟歩合すなわち商品となりうるだけの所定量の栄養物質を蓄積した種子数の全種子数に対する百分率で表示される。登熟期間中の気象条件は登熟の良否と密接にかかわるものであり,十分な日照と好適な気温および昼夜の気温較差の大きいことは,いずれも良好な登熟をもたらすものとされている。一方,この時期の低温寡照や極端な乾燥は登熟を阻害し,登熟歩合ひいては収量の低下を招くものとして警戒されている。
イネ,ムギの登熟は,出穂後の時間的経過にしたがって乳熟,黄熟(おうじゆく),完熟および枯熟(過熟ともいう)の4段階に区分して記載されている。乳熟期のもみ殻および穀粒表面は,なお葉緑素を保持しているため緑色を呈し,胚乳は乳白色の液状にとどまっている。黄熟期になると,もみ殻は黄化し穀粒表面からも葉緑素が消失する。胚乳は糊状からしだいに粉質状に固化するが,なお指頭でつぶすことができる。完熟期には胚乳は完全に硬化し,イネでは透明化が進み,枯熟期にはひび割れが生ずる場合も少なくない。収穫は完熟期の完了を待って行われるのがふつうで,イネ,ムギともに,出穂後45~50日が収穫の適期とされている。ただし欧米で栽培されるムギ類では,60日を要するものもある。枯熟期になると,茎葉は完全に枯死し,穂軸がもろく折れやすくなり,また穀粒は脱落しやすくなるため,収穫時のロスが大きく品質も低下する。
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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