白話詩(読み)はくわし(英語表記)Bái huà shī

改訂新版 世界大百科事典 「白話詩」の意味・わかりやすい解説

白話詩 (はくわし)
Bái huà shī

白話とは中国語で,飾りのないことばという意味で,飾りのあることばであった文語に対する口語のことである。民国以前の中国の文学は,文語を使用しないかぎり正統な文学とは認められなかった。とくに詩は修辞を主とするために,五言七言の絶句律詩といった文語詩以外の詩は,文学として扱われなかった。ここで説く白話詩とは,文学としては意識的に書かれなかった白話詩を,文学の域にまで高めようという民国初めの詩運動のことである。

 清朝末期になると,中国は太平天国の運動,日清戦争,義和団の運動等が発生し,政治的な混乱が深まるとともに,封建社会を象徴する官吏登用試験である科挙や,人間を拘束する礼教に対する反対運動がおこった。このとき梁啓超らは,文学をその教育宣伝の手段として用いようとしたが,詩の分野でも,夏曾佑や譚嗣同らが詩界革命を主張し,詩語に新しい名詞を導入すべきだと唱えた。さらに黄遵憲俗語で詩を書くこと,新しい思想を詩の素材とすることを試みようとしたが,その実現をみなかった。

 辛亥革命後の1915年,陳独秀を中心に,雑誌《新青年》が創刊された。この雑誌はのちに中国共産党の機関誌となったが,当初は自由主義を唱え,封建的重圧からの人間解放,とくに儒教倫理と家族制度の打倒を目標としていた。これに17年1月,アメリカ留学中の胡適が〈文学改良芻議〉を寄稿した。彼は精神の自由な発展を望むなら,まず文学を古い文語体のもつ桎梏から解放し,自由な口語を駆使して新しい文学を創造すべきであると主張した。翌18年1月同誌には,胡適,劉半農,沈尹黙ら3人の白話詩九編が掲載された。これが白話詩運動の発端であった。19年5月4日以後の政治と文学の合流した五・四運動を経過して,20年3月胡適の詩集《嘗試集》,21年8月郭沫若の詩集《女神》の刊行という結実を得るにいたるのである。つまり白話詩運動はその後の現代中国詩の契機となったのである。
白話文運動 →文学革命
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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