絶句とならぶ中国の今(近)体詩の一分野。略して律とのみいうこともある。第1聯と最終聯とをのぞいて,各聯がすべて対句で,4聯・8句以上から構成される。五言,七言,まれに六言がある。平仄(ひようそく)の配列,押韻は原則として平韻で換韻しないことなどは今体詩の規則どおりで,五言ではふつう首句に押韻せず,七言では押韻することも五七言詩の通例にしたがう。第1聯と最終聯とは,対句である必要はないが,両方,あるいはどちらか一方を対句にすることは,さしつかえない。最小限の4聯のものが狭義の律詩で,ふつう律詩といえば,これをさす。5聯以上のものを排律あるいは長律という。排律はほとんど五言にかぎられる。
律詩の4聯は,はじめから順次に,首聯,頷(がん)聯,頸(けい)聯,尾聯と呼ばれる。頷はあご,頸はくびの意である。4聯のあいだには起承転結の関係が成り立つものとされる。五言律詩はわりあいに作りやすく,七言律詩はややむつかしい。しかし《三体詩》が五七言律詩と七言絶句とを収めるように,この3種が,もっともポピュラーな詩型である。排律は長さに制限がなく,ときとして200句にも達することがある。換韻を許されないから,こういう長大な排律を作るには,詩人として非常な力量を要する。ふつうには12句あるいは16句である。
律詩は絶句とともに初唐後期,則天武后時代(7世紀末~8世紀初)に完成した。この時は宮廷詩の全盛期で,宮廷で唱和するにふさわしい,均整の取れた,典雅華麗な詩型として律詩が発達したもので,王勃(おうぼつ)や陽炯(ようけい)は五言律詩の完成に,宋之問(そうしもん)や沈佺期(しんせんき)は七言律詩の完成に力があった。応制詩と称して,宮廷の公式の席で,皇帝の命によって制作する詩は律詩または排律が原則であり,詩帖(しちよう)詩と称する,科挙の試験の課題として制作される詩は排律にかぎられた。
盛唐期に入って,律詩は抒情,叙景の多方面に用いられるようになったが,ことに七言律詩は,杜甫によってその豊富な可能性をくみ出され,真の完成者は杜甫であるとまで言われている。
風急天高猿嘯哀 風急に天高く猿嘯(えんしよう) 哀しく
渚清沙白鳥飛廻 渚(なぎさ)清く沙(すな)白く鳥は 飛びて廻(めぐ)る
無辺落木蕭蕭下 無辺の落木は蕭蕭(しようしよう) として下り
不尽長江来 不尽の長江は(こんこん) として来たる
万里悲秋常作客 万里悲秋常に客と作(な) り
百年多病独登台 百年多病独り台に登 る
艱難苦恨繁霜鬢 艱難(かんなん)苦恨(くこん)霜鬢(そうびん) 繁く
潦倒新停濁酒杯 潦倒(りようとう)新に停(とど)む濁 酒の杯 (杜甫《登高》)
執筆者:入谷 仙介
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中国古典詩の詩体の一つ。唐代に定まったもので、近体詩に属する。8句からなり、1句が5字の「五言(ごごん)律詩」、7字の「七言(しちごん)律詩」の2種がある。律詩の起源は、六朝(りくちょう)の斉(せい)・梁(りょう)のころ、沈約(しんやく)らの「四声八病説(しせいはちびょうせつ)」を代表とする、詩の音声美への自覚の動きからおこった。句中の声調の均斉美とともに、形のうえでも、従来の20句から12句の中編の形式が、しだいに10句から8句と短くなって固定し、中間の4句に対句を用いる規則も定まった。だいたい初唐の四傑(王勃(おうぼつ)、楊烔(ようけい)、盧照鄰(ろしょうりん)、駱賓王(らくひんのう))の時代、7世紀後半に五言律詩がまず成立し、これにすこし遅れて、沈佺期(しんせんき)、宋之問(そうしもん)の時代、8世紀初頭に七言律詩が成立した。当初は、修辞性に重きが置かれ、応酬や題詠などにおもに用いられたが、真に芸術的に高度の内容をもつようになったのは杜甫(とほ)の出現による。その形式は次のようである。
二句一聯で四聯からなり、中間の二聯はかならず対句を用いるのが特色である(他の二聯にも対句を用いてよい。四聯とも対句の構成をとるものを全対格という)。絶句の場合のひらめきや機知に対し、律詩の場合には、対句を中心とする均斉美や修辞の洗練さが見どころになる。律詩の変形として、中間の対句の部分が三聯、四聯と長くなったものを「排律」または「長律」とよぶ。長いものは100句以上にも及ぶが、これも杜甫が完成者である。その醸し出す重厚みは、公式の場の応酬などに適し、科挙の詩の科目には、12句の排律が用いられるのが習わしであった。なお、排律は五言が主で、七言のものは少ない。
[石川忠久]
『高木正一著『近体詩』(『中国文化叢書4 文学概論』所収・1967・大修館書店)』
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