六訂版 家庭医学大全科 「皮膚がん」の解説
皮膚がん(有棘細胞がん/基底細胞がん/パジェット病)
ひふがん(ゆうきょくさいぼうがん/きていさいぼうがん/パジェットびょう)
Skin cancer (Squamous cell carcinoma, Basal cell carcinoma, Paget's disease)
(皮膚の病気)
どんな病気か
皮膚は表皮(上皮)と真皮からなり、真皮では血管や神経など、さらには汗(汗腺)、あぶら(脂腺)や毛(
そのほかにも、汗腺がん、脂腺がんや毛包がんなどの付属器がんもまれながら生じます。また、上皮系以外にも
原因は何か
①有棘細胞がん
日光
②基底細胞がん
基底細胞(表皮と真皮の間にあり、分裂して表皮細胞をつくる細胞)に類似した細胞が増殖する悪性のできものであり、皮膚がんのなかでは最も発生頻度が高いがんです。顔面に好発するため、有棘細胞がんと同様に日光紫外線の関与が推測されています。また、近年がん抑制遺伝子の異常が関わっていることも明らかになりました。
③パジェット病
乳房部と乳房外に分けられ、前者は乳がん、すなわち乳管浅部がんの皮膚への広がり(
なお、以下の記載はパジェット病のなかでは最も多い外陰部パジェット病についてです。
症状の現れ方
①有棘細胞がん
皮表から外側に向けて盛り上がったできもの(隆起性腫瘍)で、その表面はびらんあるいは厚いかさぶた(
②基底細胞がん
高齢者の
③パジェット病
境界が比較的はっきりした淡紅色から褐色調、あるいは、びらんや粉(
検査と診断
①有棘細胞がん
やけどやけがなどの傷跡が盛り上がったり潰瘍を生じた時は、本症を念頭において皮膚生検を行います。また、進行すると血液検査でSCC関連抗原の上昇をみるようになります。
②基底細胞がん
日本では黒色を呈することが多いので、高齢者で目や鼻のまわりに黒いできものを生じたら、基底細胞がんの可能性を考慮します。また、若年者の発症や多発例では、
③パジェット病
男性ではペニスの根元に病巣の中心をもつことが、また、女性では太腿の根元に左右同時に発生することが多いようです。なお、進行がんではCEAなどの腫瘍マーカーが参考になります。
治療の方法
①有棘細胞がん
外科的切除が原則ですが、高齢などで手術に耐えられない患者さんには放射線療法や凍結療法などを行います。
②基底細胞がん
転移を生じることはほとんどないのですが、眼や鼻など顔面の重要な器官に近いため、切除した後の再建術に苦慮します。
③パジェット病
外科的切除が原則ですが、有棘細胞がんと同様に手術に耐えられないような高齢の患者さんなどには、放射線療法や凍結療法などを選択します。
病気に気づいたらどうする
①有棘細胞がん
傷跡にできものができたり、いつまでも治らない潰瘍は、そのまま自宅で治療するのではなく、一度皮膚科専門医を受診してください。
また、類症として
疣状がん
口腔粘膜、足の裏、外陰部などに生じるカリフラワー状のいぼに似たできものであり、ヒト
ケラトアカントーマ
中央部にかさぶた(角質塊)を入れたクレーターのような
いずれも典型例ではその場で大きくなりますが、転移能はもたないとされます。しかし、非典型例も多いため、放っておくより有棘細胞がんとして対処するほうが無難です。
②基底細胞がん
黒色調の盛り上がりとしてみられることが多いので、ほくろのがん(
いずれにしても、黒いできものを生じた場合は一度皮膚科の専門医を受診してください。
③パジェット病
外陰部であるため病院に行くのが恥ずかしく、「いんきんたむし」あるいは湿疹と自己診断して市販薬を購入し、使用している患者さんを多く見かけますが、当然のことながらこれらの治療には反応しません。
また、初期であれば、大きな手術になることもなく簡単に摘出することができるので、外陰に異変を生じたならば、ためらうことなく皮膚科専門医を受診してください。
立花 隆夫
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報