精選版 日本国語大辞典 「のり」の意味・読み・例文・類語
のり
- 〘 名詞 〙 関東などで共同、あるいは共有の意。大阪府南河内郡では池の灌漑区域をさしていう。
翻訳|laver
食用にする柔らかな葉状またはコケ状の藻類,およびそれらを原料とした製品の総称。ノリとは,ぬるぬるする意味の〈ぬら〉からなまったことばで,この名がつく藻類は海産のものではアオノリ,ハバノリ,アサクサノリ,ウシケノリ,オゴノリ,オキツノリ,トサカノリ,イバラノリなど,淡水産でもカワノリ,スイゼンジノリなどひじょうに多い。しかし単にノリといえば,アサクサノリの属する紅藻類ウシケノリ科のアマノリ類をさす。古くは〈紫菜(のり)〉〈神仙菜(あまのり)〉と書き,その後〈海苔〉や〈甘海苔〉という文字が使われるようになった。製品の干しノリは浅草海苔と呼ばれ,原料は大部分がアサクサノリであるが,他のアマノリ類が混入することもある。
日本近海に分布しているアマノリ属は約20種あり,産業的に養殖されているのはアサクサノリ,スサビノリが主で,これに数種の他のアマノリ属が混生するという。近年,育種技術が進歩して品種改良が行われ,多収性のオオバアサクサノリ,ナラワスサビノリが全国的に普及している。
アマノリ属の生活史はかなり複雑で,これについては諸説があり,種類ごとでも多少相違するようであるが,各種に共通する特徴は次のようにまとめることができる。
初秋に単胞子が〈ひび(篊)〉(付着器材)などに付着して発芽し,幼芽のうちに末端部にまた単胞子をつくる。単胞子は離脱して再び付着して発芽する。これを繰り返しながら,水温など環境条件が調うと食用に適する葉状体に生長する。単胞子と葉状体の細胞の核相は単相である。やがて葉状体の周縁部が成熟して卵と精子をつくり受精する。受精卵は果胞子を形成し葉状体を離脱した後,海底の貝殻に付着する。付着した果胞子は発芽して貝殻の内層に侵入し,糸状体(コンコセリスconchocelis)になる。糸状体は夏季に成熟して胞子囊を形成し単胞子をつくる。果胞子,糸状体,胞子囊の細胞の核相は複相で,胞子囊で単胞子ができる際,減数分裂が行われ単相の単胞子が放出される。
→藻類
天然に生育したノリの採集は古くから行われていたが,江戸時代に入り,浅海底にそだ(樹枝)や竹枝を植え立てて,ノリの胞子を付着させ育成する養殖方式が始まった。ノリ養殖に用いる付着器材を〈ひび〉と呼ぶが,当時はひびを移動することなく,胞子を付着させる採苗とその後の育成とを同じ場所で実施していた。採苗によい場所と育成の適地は必ずしも一致しないことがわかり,採苗したひびを別の場所に移して育成する移植法が1885年ごろに確立された。そだや竹枝を立てるやり方はひび建式とか垂直式とかいうが,現在はまったく行われなくなり,水平式になっている。1925-30年ころに,シュロ網や浮きひび(すだれひび)を水平に設置して養殖する方式が発達してきた。その後,浮きひびも使われなくなり,今は全国どこでも網ひびが用いられている。網材は軽便でじょうぶな化学繊維がもっぱら使用されている。幅約1.2m,長さ約18mのものが規格サイズで,この1張りを1柵(さく)と呼び,養殖施設量を表す単位として用いられている。網の取付けには,(1)支柱式,(2)浮き流し式(ベタ流し式),(3)浮上いかだ式の3通りがある。支柱式は水深4~5m以浅のところで用いられるもので,竹の支柱に網を張るやり方である。浮き流し式は支柱の立てられない深所で行われるもので,化繊ロープの組枠に網を張り,浮き玉で浮かして四隅など要所をいかり網で海底に固定する方式である。この方式の場合,網が常時海水に接触し干出することがないため,干出が必要な幼芽期は支柱柵で育て,その後,浮き流し式にして沖に張り出すのが普通である。海岸が急深なところでは,この移動ができないので,最初から人工干出を与えやすいくふうがされている浮上いかだ式が採用されている。
採苗は古くは,胞子の付着しやすい胞子場(種場(たねば))に網などを張り込む天然採苗が行われたが,1949年アサクサノリを主とする養殖ノリの生活史が解明され,それに基づく人工採苗の技術が開発されたため,現在ではほとんどそれによっている。人工採苗は糸状体を培養して,初秋にこれから放出される単胞子をひび網に付着させる方法で,普通は貝殻などの中で糸状体を育てるが,近年培養液中で裸の糸状体を育てるフリーfree培養法も開発された。
胞子をひび網に付着させるため,野外人工採苗と室内人工採苗とが行われており,野外の場合は初秋にひび網を20~50枚重ねて海面に浮かせ,網の下に種苗貝殻を入れた容器を取り付け,2~3日で付着させる。室内の場合,種苗を入れた水槽に網を浸漬(しんし)し,海水を流動させて付着させる。胞子は付着直後は干出に対する抵抗力が弱いので,1日海水に静置してから漁場に張り込む。葉状体がある程度生長した段階で食用ノリを収穫する。ノリの採取法は間引きで,よく伸びた葉体を摘採すると残った芽がすぐ生長してくるので,同じひびについて終漁期まで数回の摘採が行われる。手摘みもされるが,近年は回転力をもった各種のノリ摘み機が利用されている。1柵の網ひびから普通2500~3000枚の干しノリが生産できる。網に付着しているノリ葉状体で,ある程度生長したものは,多少乾燥して水分を低下させ,-20℃くらいの低温で保蔵した後,再び漁場に戻すと正常に育成する。これが1965年ころに開発された〈冷蔵網〉の技術で,現在では種苗網の保存,確保の手段として不可欠のものになっている。
ノリ養殖においては種々の病害が発生して,収穫の減少や品質の低下を起こす。代表的なものは赤腐病,どた腐病,白腐病などである。赤腐れは降雨で塩分が低下したり,比較的高水温が続いたときに起こりやすい。初め赤さび色の小斑点として現れ,病斑が大きくなると中央部が崩れて葉状体が切れる。どた腐れは葉状体上にケイ藻類が付着繁殖するもので,乾燥後光沢がなく製品価値を著しく減ずる。白腐れは比較的伸びの速い葉状体が侵されやすく,葉先が赤くなり,しだいに色があせて白色に変わり,崩れていく病変である。いずれも干出を十分与えることが対策としてとられている。このほか,つぼ状菌病,穴腐病,癌腫病,芽いたみ,寒いたみなどの病害が知られている。
製品の干しノリは,まず摘み取ったノリをざるに入れて水切り後,生ノリ切截(せつさい)機で細く切断する。適量の水と混ぜ,ノリ抄(すき)機で抄き,乾燥する。乾燥は古くからの天日乾燥も一部行われているが,近年はほとんど室内乾燥に変わっている。抄いたノリがついている簀(す)を重ねて,脱水機にかけ水分を減じて,37℃前後の乾燥室に入れ,約4時間で乾燥する。乾燥後,10枚ずつを1帖に結束する。長期間保存する場合は,火入れといって約80℃で数日間乾燥し,密封貯蔵する。味付けノリは食塩,みりん,しょうゆなどの調味液を塗布して,電熱で乾燥したものである。浅草海苔の製品格付けは,特等,優等,1~4等および等外の7等級があり,光沢,香味,形態,重量,乾燥度,夾雑(きようざつ)物などで判定される。黒紫色でつやがあり,日光にすかすと緑色に見え,香気が高く乾燥したものが優良品である。
主成分は糖質とタンパク質で,約40%ずつを占め,その他,水分11%,灰分7%,脂質2%よりなる。糖質のおもなものはガラクタンgalactan,ペントサンpentosanなどである。タンパク質については,不明な点が多いが,色素タンパク質のフィコエリトリンphycoerythrinがかなりの比率を占める。フィコエリトリンは紅紫色であるが,熱などによって分解され,青みを帯びる。干しノリをあぶると青くなるのは,上記の変色と,より安定なクロロフィルの緑色が組み合わされるためである。干しノリのうまみは,ヌクレオチドのイノシン酸,グアニル酸とアミノ酸のグルタミン酸,アラニン,グリシンに由来するとされる。栄養面からみると,タンパク質含量は高いが,消化率が悪いので,主成分については栄養効果はあまり期待できない。しかしビタミンは豊富で,ことにA含量が高く,トマトの60倍以上に達する。ミネラルではカルシウム,リン,鉄が多い。
人工採苗や冷蔵網の普及によって1965年ころから生産は急速にのび,74年の干しノリ生産量は86億枚を記録した。75年以降,密植による生産不良,各種の病害の発生により70億枚台に一時減少したが,その後,浮き流し網の開発による沖合漁場の拡大などで,78年には92億枚,原藻重量で35万tになった。これは金額にして約1678億円となり,ハマチを上回り海面養殖生産額の1位を占めた。しかしその後再び減少し,82年には69億枚,原藻重量で26万tと過去10年間で最低となった(94年には84億枚)。主要生産県は,佐賀,福岡,兵庫,愛知,熊本,千葉,三重,宮城などである。
執筆者:山口 勝巳
《庭訓往来》に〈酢菜者……甘苔,塩苔〉とあり,古来からノリは生のものや乾燥品を酢や酢みそ風のもので食べたり,汁の実に用いたようである。《尺素(せきそ)往来》には〈茘枝(れいし)〉〈竜眼(りゆうがん)〉などの果物などとともにノリが〈茶子(ちやのこ)〉,つまり菓子に用いられるとしており,《料理物語》(1643)にも十六島(うつぷるい)海苔は〈くはしにも〉とされているが,これらはどんな形で茶うけにしたものかわからない。ちなみに十六島海苔は島根県出雲市の旧平田市北部にある十六島の名産として知られていた。現在のような干しノリが生産され始めた時期については江戸初期とする説が多いが,実際ははるかに古いことかも知れない。それは干しノリの製法が和紙の流漉(ながしずき)と同じであり,和紙のそれは奈良時代すでに行われていたからである。建治3年(1277)7月2日付の《南条殿御返事》と呼ばれる日蓮の書状に,〈河のり五でふ(帖)送り給ひ畢ぬ〉とあるのを見ても,それは明らかである。カワノリ,つまり淡水産のノリでは《毛吹草(けふきぐさ)》(1638)は駿河の〈富士苔(のり)〉,下野の〈日光苔〉,肥後の〈菊池苔〉などを挙げているが,江戸時代以後最も珍重されたのは熊本の水前寺ノリで,これも吸物,酢の物などに用いられた。干しノリの総称を浅草海苔というようになったのは江戸初期からのことで,品川,大森あたりで養殖採取したノリを浅草で製品化し,その品質の良さがうたわれたためだという。干しノリは,光沢のある黒紫色で,厚さにむらがなく,あぶると一様に美しい青緑色を呈するのが良品である。あぶってそのまましょうゆをつけて食べ,ノリ巻ずしやノリ茶漬,その他各種料理の香味料やてんぷらの材料などにもする。生ノリは刻んで刺身のあしらいなどとし,ワサビじょうゆなどで食べる。なお現在は見られないが,江戸後期には干しノリの行商人があった。陰暦11月以後〈本場干海苔〉などと書いた箱をてんびん棒で担いだり,籠に入れてふろしき包みにして売り歩いた。その行商人は〈多クハ信人也〉と,信州から冬場の出稼ぎにきた者が多いと《守貞漫稿》は書いている。
執筆者:鈴木 晋一
日本音楽の理論用語。〈乗〉とも書く。リズムに関連して,さまざまに用いられる。まず能楽では,リズム感というような意味で,〈ノリ良く〉とか〈ノリをおさえる〉などという。前者は各拍をはっきり奏して浮きやかに奏すること,後者は逆に拍や拍節を目立たなくさせることをいう。また謡(うたい)では地拍子上の3種のリズム様式を,平ノリ,中ノリ,大ノリと称するほか,最近では拍子不合(ひようしあわず)の謡のリズムにも,サシノリ,クリノリ,詠(えい)ノリの3種を区別することが行われるようになっている。そしてこれら拍子不合の謡から拍子合の謡に転ずることをノルといい,逆に拍子合の謡の末尾が部分的に拍子不合になるようなときは,ノリをハズスなどという。ただし,謡本によっては,ノルという記号で大ノリのみを示す場合がある。囃子のうち笛については,ノッて吹くなどというように,謡と共通したいい方がされる場合がある。打楽器についても,拍節的リズムで奏することをノルというが,これはノラヌに対する。
近世邦楽では,楽曲演奏の速度,すなわちテンポをいい,部分的緩急変化を含めたテンポ全体の良し悪しを,〈ノリが良い,悪い〉と表現する。また中庸の速度を中ノリ,あるいは中ノリ拍子ということがある。ノルという動詞にすると,速度をしだいに速める意味になる。これはシメルに対する。そのほか義太夫節では,リズミカルな三味線の手にあわせて語る地合(じあい),またはコトバを,それぞれ地ノリ,コトバノリと称する。
執筆者:蒲生 郷昭
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アルバニアの詩人、聖職者、政治家。本名Teofan Stylian Noli。東トラキア出身。エジプトで民族主義の気運に触れ、渡米してハーバード大学に学び、1908年に在米アルバニア人の東方正教会を組織し、主教として民族意識を育成した。1920年に帰国し、民衆党政権の外相となったが、1924年に独裁的なゾーグ政権が崩壊したあと首相に就任、封建制打破、行政改革に着手した。しかし同年末にゾーグによるクーデターで国を追われ、再度渡米して詩や翻訳の分野で活躍した。
[木戸 蓊 2018年2月16日]
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…王侯のような高貴な人物の血が地面に落ちるのは危険だという観念は,インドシナ諸王国の宮廷で厳守されていたし,アフリカにおいて儀礼的な王殺しが行われた場合,絞殺のような血を流さない方法で王を殺すのが普通であった。【大林 太良】
[日本]
血のことをノリともいうが,これはもと鳥獣の血のことで,人の血液と区別するためのものらしい。チ,ツ,キなど1音節の語で人体から出る液体を呼び,古くはこれらには災厄を払う力があると考えられた。…
…法も度も〈のり〉(法則,規則)の意で,おきて,さだめ,法を意味する言葉。鎌倉幕府はもちろんのこと室町幕府も戦国時代に至るまで,みずからの制定法を〈法度〉と称した例はない。…
※「のり」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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