レモン(読み)れもん(その他表記)lemon

翻訳|lemon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レモン」の意味・わかりやすい解説

レモン
れもん
lemon
[学] Citrus limon (L.) Osbeck

ミカン科(APG分類:ミカン科)の常緑果樹。柑橘(かんきつ)類の一種。高さ4~5メートル、葉は長さ10センチメートル、幅約5センチメートルで、翼葉がない。花は枝端や葉腋(ようえき)部に単生または総状につき、変異が多い。花弁は長くかつ大きく、外面は帯紫色、内面は白色で、花糸は多数で分離し、葯(やく)は長い。周年開花性があるが、5~10月の開花が多い。果実の収穫は10月から翌春に多く行われる。しかし、アメリカのカリフォルニアでは周年収穫され、1~5月が最盛期である。果実は香気に富み、120~200グラム、果皮は淡黄色で柔らかい。原産地はインドのヒマラヤ山脈東部山麓(さんろく)で、12世紀ころまたは十字軍の東征のころ(13世紀末)ヨーロッパに伝わった。「新大陸」へはコロンブスの第二航海時(1493)にもたらされた。

 周年、気候温暖な、夏冬の格差の少ない乾燥地でよく育ち、カリフォルニアや地中海地方で多く栽培される。日本は、夏は高温多湿、冬は低温すぎるので、そうか病、かいよう病、寒害などが多く現れ、栽培はむずかしい。主要品種には、ユーレカレモン、リスボンレモン、ビラフランカレモン、ゼノアレモンなどがある。日本では年間約5万0800万トン、119億円(2017)を、主としてアメリカから輸入している。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

利用

果実は収穫後の日もちもよく、昔から遠洋の船員の壊血病予防に尊ばれた。その主成分は、全果の場合、可食部100グラム中、37キロカロリー、糖9.6グラム、カルシウム60ミリグラム、リン13ミリグラム、鉄0.2ミリグラム、ナトリウム4ミリグラム、カリウム120ミリグラムを含み、ビタミンはB10.06ミリグラム、B20.03ミリグラム、ナイアシン0.2ミリグラム、C90ミリグラムを含み、ビタミンCの効果はとくに大きい。果汁は有機酸(5.7~7.8%)、とくにクエン酸を多く含むので、デザートとしての直接利用は不向きであるが、魚・肉料理などに絞りかけて新鮮な香りと酸味を楽しむ。また清涼飲料としてレモンスカッシュや種々のカクテルに用いる。果実は輪切りか、櫛(くし)形の薄切りにし、種々の飲み物や料理に添える。果皮は外果皮から芳香があるレモン油、内果皮からペクチンがとれ、薬品、化粧品、または加工食品に付与され、また砂糖煮にして菓子の材料とする。果汁は加糖して煮てゼリーとし、果皮と果肉を砂糖煮にしてマーマレードをつくる。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]


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改訂新版 世界大百科事典 「レモン」の意味・わかりやすい解説

レモン
lemon
Citrus limon (L.) Burm.f.

ミカン科の常緑果樹。特有の芳香と酸味があるかんきつ類。フランス語ではシトロンcitron(日本でいうシトロンとは別)。樹勢強く生長は早いが,寒さに弱く,雨の多いところでは病害にも弱い。普通,枝にとげがある。葉はライムより大きく淡緑色。新芽,花は紫色を帯びる。四季咲性で花序を形成することもあるが,単生花のほうが多い。5弁で花粉は稔性だが,めしべを欠く不完全花が多い。果皮が淡黄色で,100g前後の果実が販売される。多汁で酸濃度は6~7%。糖含量は約2%で,苦みはない。種子は少なく,黄白色で多胚。

 インド北東部,ヒマラヤの東部山麓が原生地といわれ,シトロンから派生したとされるが,ライムがその起源に関係あるとも考えられている。中国へは宋の時代に伝播(でんぱ)したが,広く栽培されなかった。ヨーロッパへはアラブ人により北アフリカを経て,12世紀にはスペイン,カナリア諸島へ伝わり,さらに13世紀までにイタリアに伝播し,シチリア島を中心に産業化した。アメリカ大陸には1493年に伝えられ,カリフォルニア州,アリゾナ州などで栽培される。イタリア,スペインを中心とする地中海沿岸諸国,アメリカ合衆国,アルゼンチンが主産国。日本には1873年に伝わり,第2次大戦前は瀬戸内海の島々を中心に3000tほど生産されたが,戦後は貿易の自由化とともに衰微した。輸入果実の腐敗防止に使用される殺菌剤の発癌性問題から,より安全な国産レモンへの関心が高まっている。

 アラブ諸国で栽培される無酸の品種もあるが,普通,酸味の強いものをレモンという。栽培品種はユーレカ,リスボンが有名。ほかに,地中海沿岸諸国ではフェミネロ,ベルナが,アルゼンチンではジェノバなどが栽培される。日本ではビラフランカも作られる。ユーレカの選抜系でほとんど枝にとげのないものもある。近縁種にはポンデローサや,果面が粗く台木用にされるラフレモン,豊産で耐寒性が強いグラントレモン(マイヤーレモン)などがある。

 古くから航海,遠征時のビタミンCの補給源として利用された。また,果汁に含まれるクエン酸には殺菌効果もあることから,肉,魚などに搾りかけたり具にされてきた。かつてはクエン酸の製造原料にされたが,化学合成法が開発され,コスト面から引き合わなくなった。清涼飲料としても重要で,生ジュース,レモネードにされる。また,種々の飲料の風味向上のための付香flavoringに用いられる。パイ,ケーキなどの香り付けにもよく,マーマレードの原料にもなる。紅茶にも欠かせないもので,紅茶茶わんに合わせ,直径5~6cmの果実が収穫される。したがって収穫時は黄色のものから白黄色,緑色など熟度の異なる種々のものがあるが,風味には大差がない。収穫後の処理で催色され果皮が柔らかくなる。貯蔵性は緑色果のほうが優れている。レモンパックなど美容面での利用価値も高い。香りのよいレモンぶろは健康,美容によいとされる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レモン」の意味・わかりやすい解説

レモン
Lemmon, Jack

[生]1925.2.8. マサチューセッツボストン
[没]2001.6.27. カリフォルニア,ロサンゼルス
アメリカ合衆国の映画・舞台俳優。本名 John Uhler Lemmon III。1950年代以降のアメリカ映画界で,コメディとシリアスなドラマの両方で大活躍した。1947年にハーバード大学を卒業したのち,海軍での兵役を経てニューヨークに移り住んだ。ピアニスト兼役者として働きながら,1953年ブロードウェーで初舞台を踏み,これを機に翌 1954年コロンビア・ピクチャーズと契約を結んだ。『ミスタア・ロバーツ』Mister Roberts(1955)でアカデミー賞助演男優賞を受賞し,映画界で新進気鋭のコメディ俳優として台頭。ビリー・ワイルダー監督の『お熱いのがお好き』Some Like It Hot(1959)と『アパートの鍵貸します』The Apartment(1960)でアカデミー賞主演男優賞候補となり,大スターの座を築いた。ワイルダー監督の『恋人よ帰れ! わが胸に』The Fortune Cookie(1966)でウォルター・マッソーと初共演。これ以降,几帳面で神経質な男を演じるレモンと,のんきで無神経な男に扮するマッソーとの絶妙なかけあいが定番となり,『おかしな二人』The Odd Couple(1968)など数多くのコメディ映画を世に送り出した。『コッチおじさん』Kotch(1971)で監督デビュー。『セイブ・ザ・タイガー』Save the Tiger(1973)でアカデミー賞主演男優賞を受賞し,2度目のオスカーに輝いた。『チャイナ・シンドローム』The China Syndrome(1979),『ミッシング』Missing(1982)などでもアカデミー賞候補になった。

レモン
LeMond, Greg

[生]1961.6.26. カリフォルニア,レークウッド
アメリカ合衆国の自転車選手。本名 Gregory James LeMond。ツール・ド・フランスでヨーロッパ以外の選手として初優勝を遂げた。山岳コースとタイムトライアルの両方を得意とする万能型で,ツール・ド・フランスでは通算3回 (1986,1989,1990年) ,世界ロードレース選手権でも2回 (1983,1989年) 優勝。 10代の頃はスキーに熱中し,トレーニングの一環として自転車を始めた。 1980年プロに転向。 1983年,初出場したツール・ド・フランスで3位に入賞し,その数ヵ月後に世界選手権で初優勝を果たす。 1987年,狩猟事故で被弾して負傷するが,1989年のツール・ド・フランスでレース復帰。2位につけた最終日,わずか8秒の僅差で逆転,総合優勝を飾った。空気抵抗を減らすためのエアロバーやエアロダイナミックヘルメットなどの先進技術を率先して取り入れたほか,1985年に 100万ドル台の契約を結び,自転車競技全体の報酬レベルを引き上げることにも貢献した。 1994年,ミトコンドリア脳筋症と診断され引退した。

レモン
Citrus limon; lemon

ミカン科の常緑高木。原産地は西部ヒマラヤからインドといわれるが,今日ではアメリカ,イタリア,オーストラリアなどで盛んに栽培され,世界的に最も生産の多い柑橘類である。耐寒性は弱い。樹は全体に平滑で幹にはとげがある。若枝はやや赤みを帯びることがある。花弁も紫紅色を帯びる。葉は楕円形で翼がない。日本では5~6月に開花し,10~12月頃に果実をとる。果実はレモン黄色,長さ8~10cmの楕円形をなし乳頭がある。果汁は酸味が強く,香気が高い。果皮はあまり厚くなく苦みとレモン香がある。種子中の胚は白色多胚で,3~4個のものが多い。果実は緑色のうちにとり,のち熟させる。イタリアでは果皮からレモン油をとる。

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食の医学館 「レモン」の解説

レモン

《栄養と働き&調理のポイント》


 ヒマラヤ西部を原産地とするレモンは、柑橘類(かんきつるい)のなかではトップのビタミンC含有量を誇ります。
 よくビタミンCの含有量を示す場合に「レモン何個分」などと使われ、ビタミンCの代名詞的存在となっています。
○栄養成分としての働き
 レモンは壊血病(かいけつびょう)の特効薬として歴史的に名高いですが、近年はがんや老化の防止、さらに肝機能を活発化し改善する働きで注目されています。もちろん、かぜの予防や美肌づくりにも有効です。
 レモンの酸っぱさのもとであるクエン酸は、エネルギー代謝を高め、疲労の原因物質である乳酸の生成を抑えるので、疲労回復や食欲増進に効きます。
 またレモンには、血管を丈夫にし、動脈硬化を予防する働きがあるフラボノイドのルチンや、利尿作用で高血圧を防ぐカリウムも含まれています。
 しかし有効成分の半分以上は皮に含まれているので、はちみつ漬けやレモネードなどで効率よく摂取したいものです。
 皮についている残留農薬はよく水洗いすることで落ちます。ワックスが気になる場合は、塩で表面をこすり洗いしたあと、熱湯に30秒~1分つけ、冷水につけてから使うと安心です。

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百科事典マイペディア 「レモン」の意味・わかりやすい解説

レモン

インド原産のミカン科高木。木には多くのとげがあり,葉は大きく,淡紫色の大型花を葉腋につける。果実は両端のとがった楕円形で乳頭があり,果皮は厚く淡黄色。果汁が多く酸味に富み,芳香がある。またビタミンCの含量が多い。樹上で完熟させると香気を減ずるので,青いうちに採取して色出しする。果皮からレモン油,果汁からクエン酸をとり,各種の飲料・菓子・香料・化粧品原料として用いるほか,料理,飲物の香味づけ,添え物などにする。

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栄養・生化学辞典 「レモン」の解説

レモン

 [Citrus limon].ムクロジ目ミカン科ミカン属に属する.柑橘果実の一つで,広く料理などに使われる.植物は常緑高木.

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デジタル大辞泉プラス 「レモン」の解説

れもん

平田俊子による戯曲。2004年、京都芸術センターのプロデュースで初演。2005年、第49回岸田国士戯曲賞の候補作品となる。

レモン

カネヨ石鹸が製造・販売する化粧石鹸の商品名。1946年発売。レモン形をしている。「カネヨレモン」「レモン石鹸」ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内のレモンの言及

【かんきつ類(柑橘類)】より

…また,インド大陸にはパペダ類のようなかんきつ類の原始型が分布しているが,オーストラリアにはミカン属,キンカン属,カラタチ属は原生せず,近縁のミクロシトラス属Microcitrus,エレモシトラス属Eremocitrusが分布している。現在の主要かんきつ類であるライム,ブンタン,レモン,シトロン,スイートオレンジ(以下オレンジ),ダイダイ(サワーオレンジ),ポンカンなどはインド北東部のアッサムを中心とする地域からブラフマプトラ川流域で,またカラタチやユズは長江(揚子江)上流地域で,キンカンは東南アジアから中国南部で生じたと考えられている。これらのかんきつ類から,自然交雑や突然変異で多くの品種が起源・育成されてきたと考えられる。…

※「レモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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