知夫里郡（読み）ちぶりぐん

日本歴史地名大系

知夫里郡
ちぶりぐん

• 島根県：隠岐国
• 知夫里郡

島前（どうぜん）のうち西（にし）ノ島と知夫里島の二島と周辺の島嶼を郡域とする。北東方に海部（あま）郡がある。現在の知夫（ちぶ）村・西（にし）ノ島（しま）町にあたる。古代の知夫利・智夫、中世の知布利・知夫利、近世の知夫里などの表記から、訓は「ちぶり」であろう。近代は知夫郡でチブとよぶ。

〔古代〕

藤原宮跡出土木簡に知夫利評・知夫利郡とあり、平城宮跡出土木簡では知夫郡のほか智夫郡とみえるが、智夫とする例は少なくなく、天平四年度の隠伎国正税帳（正倉院文書）、平城京二条大路跡出土木簡、「日本後紀」延暦一八年（七九九）五月一三日条、「続日本後紀」承和九年（八四二）九月一四日条などで確認できる。しかし「延喜式」「和名抄」では知夫郡とする。「和名抄」では諸本とも郡内の郷として宇良（うら）・由良（ゆら）・三田（みた）の三郷を記載しているが、ほかに平城宮跡出土木簡に隠伎国智夫郡大井（おおい）郷、平城京二条大路跡出土木簡に隠伎国智夫郡大結（おおゆい）郷前野（まえの）里とある。「養老令」戸令定郡条によれば当郡は下郡で、天平四年度正税帳には大領・主帳の署名がみえる。郡家は現知夫村郡（こおり）に比定される。前掲の各出土木簡により当郡から軍布・海藻・紫菜・凝海菜・乃利などが貢進されていたことが知られ、天平四年度正税帳には穀四千六三七石七斗八升三合余・粟三七石六斗二升・穎稲一千六九七束六把・糒七六石二斗五升八合・醤二石盛缶四口・末醤一石盛缶二口と記載され、正倉一二間のうち不動穀倉三、動用穀倉・穎倉各一、郡稲倉・公用稲倉・糒倉各二であった。天平四年（七三二）時の郡司は、大領は外正八位上勲一二等海部諸石、主帳は外大初位上勲一二等服部在馬。延暦一八年遣渤海使内蔵宿禰賀茂麻呂が帰郷の日、当郡に漂着し、そのため比奈麻治比売神が幣例に列している（「日本後紀」前掲条）。承和九年郡内の由良比売命神が官社に列している（「続日本後紀」前掲条）。「延喜式」神名帳記載の大一座の名神である大由良比女神社は現西ノ島町浦郷の由良比女（うらごうのゆらひめ）神社に比定され、小六座のうち大山神社は同町美田（みた）、海神社（二座）は同町別府（べつぷ）、比奈麻治比売命神社は同町宇賀（うか）、真気命神社も同宇賀にある同名社にそれぞれ比定され、天佐志比古命神社は知夫村の同名社に比定されている。

出典　平凡社「日本歴史地名大系」