研究評価(読み)けんきゅうひょうか

大学事典 「研究評価」の解説

研究評価
けんきゅうひょうか

研究評価とは,研究活動や研究成果に対して何らかの判断を行う行為全般を指す。日本における研究評価の枠組みとしては,総合科学技術・イノベーション会議が策定した「国の研究開発評価に関する大綱的指針」があり,その2012(平成24)年度版では研究開発プログラム,研究開発課題,研究者等の業績,研究開発機関等の4種類の評価の実施を求めている。研究評価は,17世紀に最初の学術雑誌が発刊され,論文掲載のためのピア・レビューが行われるようになったことから始まる。その後,1940~50年代にアメリカ合衆国の国立衛生研究所(NIH)や全米科学財団(NSF)が研究課題の採択審査でピア・レビューを行うようになり,研究課題の事前評価は広く行われるようになった。

 大学を単位とした研究評価としては1980年代にイギリスで研究評価事業(イギリス)(RAE,現在は研究卓越性枠組み(イギリス):REF)が,オランダで大学協会による研究評価が開始され,その後,フランスイタリアオーストラリアスペイン香港など複数の国で行われている。日本では国立大学法人評価(日本)において,学部・研究科を単位とした研究水準の評価が行われている。大学を対象とする研究評価の目的は国により異なり,たとえばイギリスでは基盤的資金(イギリス)(コア・ファンディング)配分のために行われているが,オランダでは大学の自己改善のために行われている。評価方法も詳細なピア・レビューを中心とする国がある一方,ピアを確保しにくい規模の小さい国では指標によって簡便に行う傾向がある。
著者: 林隆之

欧州におけるイギリスの研究評価]

[イギリス] 高等教育の研究補助金に対して,先進諸国では二重支援制度(dual support system)が導入されている。イギリスでもこの制度が採られており,イタリアやニュージーランドにおいてもイギリスと似通っている点が多々みられる。この制度は次の二つのタイプの補助金の有効な組合せにより構成されている。一つは国が重視する総合研究のテーマを大枠で決め,それに対し補助金を申請,同じ分野の専門家による検討(ピア・レビュー)により厳しく評価し交付する申請型の補助金(プロジェクト資金,直接政府資金)である。もう一つは政府や政府の諸機関が各教育機関を比較して決定する配分型の補助金(基盤的資金)である。研究補助金の中でも流動的に使用できる配分型の補助金は大学側にとって主要な財源で,イギリスでは1986年の第1回RAE(Research Assessment Exercise)以来,その結果にもとづき配分されてきた。

 研究評価の実施にはいくつかの目的がある。まず,補助金を給付する側としては,研究評価の実施により,自分たちが投資する研究の質を評価することができることである。同時に学界としても,自らの研究成果を評価し,今後の研究目標に反映させることができる。さらに必要ならば研究評価を財源モデルとすることもできる。しかしオランダなど一部の国では,研究評価が財源モデルとして利用されることはない。これらの国における研究評価の目的は,各機関の研究政策の向上を支援するため,そして公的資金の説明責任を果たすために実施するものに限定されている。

 一方,イギリスにおける研究評価の焦点は,おもに財政審議会(イギリス)(Funding Councils(イギリス))に情報を提供することにあり,質の高い研究を実施している研究機関に対し,透明性を備えた公正な方法で効率的に補助金を配分することを目的としている。2001年に実施されたRAEの後,HEFCE(イギリス)(イングランド高等教育財政審議会(イギリス))はある通達を受けた。それは高等教育白書である『高等教育の未来The future of higher education』(DfES,2003年)でも言及され,高い評価を受けた高等教育機関に研究補助金を集中させ,それらの機関が国際的にきわめて高いレベルの機関になるよう支援するというものであった。2014年にはRAEの後継としてREF(イギリス)(Research Excellence Framework(イギリス))という名称の評価制度が新設され,2015-16年度にはREFの結果を使って選択・集中的な予算配分に移行した。

[EU] EUに申請されるプロジェクトに対する研究評価の過程では,①質の高さ,②透明性,③平等性,④不偏性,⑤効率性,⑥倫理性が重視される。また2003年以降は,遠隔評価の拡大や評価委員の増員による評価プロセスの質の改善,2段階申請システムの採用や申請者からのヒアリングによる評価システムの強化,さらには倫理面の評価プロセスの成文化などに重点が置かれるようになった。

[日本における研究評価]

日本においても日本の研究評価は,研究活動に対する資金への説明責任を果たすとともに,活動を活性化し研究の質を高めるために必要なものであるという認識から,2008年以降,①研究課題に応じた評価,②第三者評価体制(日本)の構築,また,③評価に係る人材の養成といった側面が見直されることになった。

[競争的資金の導入] 日本では権力の学問への介入という歴史的反省を踏まえ,第2次世界大戦後,憲法に「学問の自由」(23条)が規定され,研究者の自由な発想がことのほか尊重されてきた。1965年(昭和40)に科学研究費補助金(日本)が制度化されたが,その趣旨は研究者の自由な発想を尊重し,科学の興隆を図ることが最大の目的であり,研究を評価するという考えは近年までなかった。しかし,2001年6月,文部科学大臣が経済財政諮問会議において「大学(国立大学)の構造改革の方針」(遠山プラン)を発表し,その柱の一つは大学に第三者評価による競争原理を導入し,国公私「トップ30」の大学を世界最高水準に育成するというものであった。その後さまざまな事業が競争的資金(日本)として導入されることになった。以下はその一例である。

[研究大学強化促進事業(日本)] 日本の大学等の研究機関において,論文の世界的シェアが下がっており,国際競争力の向上が課題となっていることから,世界にも通用するような優れた研究活動を行う機関を増強し,日本の研究力の強化を図るため,大学等による研究マネジメント人材群の確保や集中的な研究環境改革等の研究力強化の取組みを10年間支援する計画である。2013年8月に科学分野重点校22機関が決定した。

[スーパーグローバル大学の選定] 2013年8月,文部科学省は世界のトップレベルの研究や国際教育に取り組む,国公私立大学30校(スーパーグローバル大学(日本))に予算を重点配分する構想を打ち出した。スーパーグローバル大学は,世界水準の教育研究を進める「トップ型」10校と,積極的な国際教育によって海外で通用する人材を育てる「グローバル化牽引型」20校に分類され,10年以内に世界大学ランキングのトップ100に,日本から10校以上のランクインを目指すこととなった。
著者: 秦由美子

参考文献: 研究評価の在り方検討委員会『我が国における研究評価の現状とその在り方について』日本学術会議,2008.

参考文献: Department for Education and Skills, Science and Innovation Investment Framework 2004-2014. DES, London: HM Treasury, 2004.

参考文献: Research Excellence Framework 2014: http://www. ref. ac. uk/

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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