国または地方公共団体が、行政上の目的・効果を達成するため、公共団体、経済団体、企業、私人に対して、なんら反対給付を受けることなく、一方的に支出する現金給付をいう。日本においては、広義には、法令または予算上補助金とよばれるもののほか、補給金、助成金、奨励金、給付金、交付金、負担金、委託金などを含めて用い、狭義には国庫支出金をさして用いる。
財政支出には、公務員サービスの購入(給与費=財政消費の一つ)や、社会資本建設のための支出(公共事業費=財政投資の一つ)のように、反対給付を得るために支出する非移転的支出と、貸付、出資、借入の返済、社会保障費の公費負担などのように、反対給付なしに支出される移転的支出とがある。補助金は後者に属する支出で、国から地方公共団体に支出されるものと、国であれ地方であれ、政府部門から民間に支出されるものとに分けられる。
[一杉哲也・羽田 亨 2022年6月22日]
国から地方公共団体に対する補助金の起源は、欧米では19世紀の産業革命期に求められるが、地方財政に占める補助金の重要性が認識されるようになったのは、1930年代の不況期以降のことである。日本においては、明治初期の中央集権化とともに、補助金政策が地方統治に活用されてきた。
国から地方公共団体への補助金には、使途が限定されていない一般補助金と、使途が限定されている特定(個別)補助金とがある。日本では現在、前者として地方交付税、後者として国庫支出金が設けられている。
現行の地方交付税は、シャウプ税制勧告に基づいて1950年(昭和25)に創設された地方財政平衡交付金制度に始まる。1966年、その総額は所得税・法人税・酒税収入の32%とすることとなっていたが、2022年(令和4)時点では所得税・法人税収入の33.1%、酒税収入の50%、消費税収入の19.5%、地方法人税収入の全額とされている。地方公共団体が標準的な税率によって得られる税収(基準財政収入額)で、一定の行政水準を維持するに必要な経費(基準財政支出額)をまかなえない場合、この不足を補填(ほてん)して財政力の均等化と一定の行政水準の確保を図るためのものである。2019年度において地方交付税の総額は16兆7392億円で、歳入総額に占める割合は16.2%となっている。
国庫支出金は、国庫負担金、国庫委託金、国庫補助金に分けられる。国庫負担金には、法令で定められているもの(義務教育職員費や生活保護費の国庫負担など)や、国が策定した計画に基づく公共事業に対するものなどがある。国庫委託金は、本来国が行うべき事務を地方公共団体に委託したとき、その経費を支払うもので、国会議員選挙、国の統計調査、国民年金・児童手当に要する経費などがある。国庫補助金は、国が特別に必要ありと認めたときに与える奨励金などである。2019年度において国庫支出金の総額は15兆8344億円で歳入総額に占める割合は15.3%となっている。
国庫支出金は、国からみれば補助金であるが、地方公共団体からの支出サイドでみれば非移転的支出が大部分である。しかし、オイル・ショック(1973)以後の財政危機を契機として補助金の見直しが進められ、とくに第二次臨時行政調査会(第二臨調)の最終答申(1983)以降、補助金=非移転的支出とみなしてこれを削減しようとする傾向が著しい。今世紀に入って、地方分権と地方の自立の促進を図るための三位一体改革における国庫補助負担金改革として、2004年度(平成16)から2006年度の3か年で国庫負担金および国庫補助金が総額で約4.7兆円削減された。
2019年度において地方交付税の総額と国庫支出金の総額の合計が歳出総額に占める割合は31.5%となっており、地方財政は国に財源を大きく依存しているといえる。
[一杉哲也・羽田 亨 2022年6月22日]
国および地方公共団体から民間への補助金には、私人・消費者に対する補助金と、企業に対する補助金とがある。前者は、医療・教育など社会福祉水準の維持・向上、あるいは食料などの消費維持・拡大のためのものであり、後者は、低価格の消費財供給、幼稚産業の保護・育成、外部経済効果の大きい産業の育成あるいは戦略的重要産業育成などのためのものである。なお、今日では、このような補助金支出にかえて、経済的に同じ効果を租税の減免によって達成しようとするのが一般的になってきている。これは隠れた補助金とでもいうべきもので、日本の租税特別措置などがこれにあたる。
これらの補助金のなかには非常に零細で効果の乏しいものやその意義を失ったものがあるが、統廃合などの見直しが行われないことが多いといった問題がある。
[一杉哲也・羽田 亨 2022年6月22日]
政府は一定の行政目的を達成するために,個人,民間団体,地方自治体などに財やサービスと交換することなく,一方的に財源を交付している。この政府からの移転支出を広義に補助金という。補助金は,いずれの先進国でも今日行財政上重要な地位を占めているが,日本の補助金支出は1980年度を例にとると一般会計から3336件,14兆391億円,特別会計から298件,10兆4615億円であり,一般会計の租税と印紙収入の総額にほぼ匹敵する巨額さである。これら補助金の大半は使途を特定して地方自治体に交付されており,性質別に分類すれば,国政選挙や指定統計のようなもっぱら国の利害に関する事務の委託費,法令に基づき地方自治体が実施せねばならない事務の一般行政費負担金,建設事業の負担金,特定の施策の奨励や財政援助のための補助金となる。国は〈特定の施策を奨励したり全国的に一定の行政水準を維持したりする効果は優れている〉(《歳出百科》)と補助金の効用を説明している。だが,補助金を中心とした行政の弊害も小さくない。補助金は中央省庁各部局に個別的に所管され,かつ目的が類似するものも多い。この結果,中央省庁レベルでの行政調整が難しいばかりか地方自治体の総合的な行政運営を抑制しがちである。また,補助金の申請から交付額決定さらに執行後の監査は,国の強い統制の下に置かれており,自治権を制約しているとの批判も強い。
執筆者:新藤 宗幸
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(新藤宗幸 千葉大学法経学部教授 / 2007年)
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…アメリカにおけるニューディール政策,日本の高橋(是清)財政下の時局匡救事業はその代表例といえる。現代日本の公共事業は,国の直轄事業および日本道路公団,住宅・都市整備公団などの政府特殊法人による事業に加えて,国から地方自治体への補助金交付を軸に展開されている。1982年度における都道府県,市町村の公共事業費は15兆9773億円であり,このうち災害復旧事業費等を除く普通建設事業費は14兆8834億円である。…
…国が地方公共団体に対し,行政を行うに必要な経費の財源に充てるために支出する支出金のうち,使途が特定されているものをいう。国庫支出金はその性格から補助金,負担金,委託金の3種に分類できる。補助金は,国が特定の行政事務の執行を奨励助長するために地方公共団体に交付するものをいう。…
… 補助金は財政調整のため特定費目の使途に政府が支出する資金で,その根拠は地方税源にかかわる欠陥や地方団体の財政力不足,それにナショナル・ミニマムの維持を図ることにあるといわれる。したがって,補助金の役割は地方公共団体への財源の補塡と,国が必要とする産業や企業あるいは個人経営など,特定の行政を推進することにある。…
※「補助金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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