社会的影響(読み)しゃかいてきえいきょう(英語表記)social influence

最新 心理学事典 「社会的影響」の解説

しゃかいてきえいきょう
社会的影響
social influence

人の態度認知,行動が,他者の存在や,他者(または組織)からの働きかけによって変化することを,社会的影響という。オルポートAllport,G.W.(1954)が,社会心理学を「個人の思考・感情・行動が,他者の現実の存在,想像上の存在,暗黙の存在によってどのように影響を受けるかを理解し,説明しようとする試み」と定義していることにも示されるように,社会的影響はまさに社会心理学の中心的な研究領域として位置づけられる。社会的影響は,個人間で行なわれる対人的影響interpersonal influence(説得,依頼,指示命令など)のほかに,多数の人々に影響を与えることを目的とした広告,宣伝プロパガンダ(政治的宣伝)も含まれる。広義には,送り手influence agentとなる他者の積極的な働きかけがまったくない状況のもとで,他者の存在自体が受け手に影響を及ぼすことも社会的影響に含まれる。たとえば,援助行動の研究では,緊急場面に居合わせた人の数が多くなるほど援助行動が抑制されることが知られており,傍観者効果bystander effectとよばれている(Fischer,P.,Krueger,J.,Greitemeyer,T.,Kastenmüller,A.,Vogrincic,C.,& Frey,D.,2011)。また,社会的促進social facilitationの研究では,観察者や共行為者の存在が個人の課題遂行に及ぼす影響が検討されてきた。なかでもザイアンスZajonc,R.(1965)の動因理論に基づく研究は,観察者や共行為者が報酬や罰を与えたり圧力をかけたりという具体的な働きかけを一切しない状況,すなわち他者の「単なる存在mere presence」が,人の生理的喚起のレベルを上昇させ,その時に優勢な反応の生起を促進する十分条件となることを明らかにした。

 このように社会的影響の研究領域は広範囲にわたるが,対人関係,組織内行動,広告,マーケティング,健康行動,環境配慮行動など,実社会における重要な社会的行動とかかわるため,応用的研究も盛んである。プラトカニス(Pratkanis,A.R.,2007)は,これまで研究の対象とされてきた社会的影響の戦術を107個あげ,それらを四つのカテゴリーに分類している。すなわち,説得環境の事前操作,ターゲットとの関係作り,メッセージの確信的提示,感情による説得である。同様に,チャルディーニCialdini,R.B.(2001)は社会的影響の基本原理を,返報性,コミットメント,社会的証明,好意権威,希少性の六つにまとめており,これらは,配偶者や地位を巡る競争を有利に進めたり,他者と緊密な関係を構築・維持するうえで重要な役割を担うため進化の過程で選択されてきたものと仮定されている(Sundie,J.M.,Cialdini,R.B.,Griskevicius,V.,& Kendrick,D.T.,2006)。

 社会的影響の研究は,影響を与える側の視点から行なわれることが圧倒的に多いが,近年,不利な立場におかれる受け手の心理や影響への対抗手段を検討する研究も行なわれるようになり,こうした研究の高まりを受けて2006年には専門誌『社会的影響Social Influence』が創刊された。 →社会的勢力
安藤 清志〕

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