最新 心理学事典 「社会的勢力」の解説
しゃかいてきせいりょく
社会的勢力
social power
報酬勢力とは,送り手が受け手の望んでいるもの(報酬)を提供できることに基づいた社会的勢力である。受け手にとって報酬となるものを保持し,コントロールできるほど,受け手に対して勢力を保持することになる。逆に,受け手が回避したいと思う罰を保持し,コントロールできるほど,送り手は強制勢力を保持することになる。多くの場合,受け手は,送り手からある行動を取らないと罰を与えるという警告を受ける形で,送り手のもつ強制勢力を認識することになるが,罰を回避するためには送り手のいうとおりに行動する以外はないという意味で強制勢力とされている。別の形の報酬として専門的知識が存在する。専門家として知識や技能に基づいた社会的勢力が専門勢力である。法律,医療,建築,音楽など特定の領域において十分な知識がある,経験を積んでいると受け手が認識すると,受け手はその領域における送り手からの影響を受けやすくなる。そうした専門勢力は,パソコンに強い上司,映画に明るい友人という形でも存在するが,社会的には,特定の資格や地位がその専門性に付随していることが多い。特定の社会的地位にいることによって生じる影響力を正当勢力とよんでいる。受け手が,送り手のことを「自分の上司である,目上である」などという認識をもち,そうした高地位者からの働きかけには従うべきであるという社会的規範を内在化している場合には,その送り手は正当勢力を保持することになる。そうした社会的地位ではなく,送り手の存在自体に自分の理想像を投影する場合は,送り手が準拠勢力を保持するといえる。すなわち,ある判断を下したり,行動を取ったりする場合,その送り手ならばどのように判断し,行動するかを参照し,その影響を受ける場合である。
その後,レイブン(1992)の挙げた情報勢力informational powerは,受け手に働きかける場合に,根拠のある,信頼できる論拠を生成できることに基づいた影響力である。通常,専門家であれば(専門勢力を保持していれば),情報勢力も増える可能性が大きい。両者の違いは,専門勢力の場合,一度,受け手から専門家であると認識されれば,かつ,専門領域内の事柄であれば,他の状況でも(専門)勢力をもちうるが,情報勢力の場合は,個々の状況ごとに説得力ある論拠を生み出すことが必要となる。
フレンチとレイブン(1959)の挙げた社会的勢力の場合は,一般に送り手の方が受け手よりもなんらかの資源を保持しているが,資源を保持していない個人であっても他者に社会的勢力をもちうることがある。それがレイブン(1992)の挙げる対人関係勢力,あるいは共感喚起影響力(勢力),役割関係影響力(勢力)である。対人関係勢力は,資源のない個人が資源を保持する個人との対人関係(コネクション)を利用することによって社会的勢力をもちうる場合である。共感喚起影響力(勢力)は,自分の苦境を効果的に提示し,他者からの支援を引き出すことができる場合である。最後に,役割関係影響力(勢力)は,社会的な役割関係(たとえば,地域住民-自治体)に基づいて,社会的に守られるべき立場にいる個人が,その社会的規範に基づいて自分たちが受けるべき権利を主張するような場合である。 →社会的影響
〔今井 芳昭〕
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報