内科学 第10版 「神経線維腫症1型」の解説
神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)(ファコマトーシス(母斑症、神経皮膚症候群))
概念
小児期の皮膚の茶褐色のカフェ・オ・レ斑の多発と,生後に緩徐に進行する末梢神経組織からの神経線維腫の多発を特徴とする遺伝性疾患で,皮膚,神経,骨,内分泌,消化管,血管系など多彩な症状を呈する.
病因・疫学・病態
17番染色体上(17q11.2)にあるNF1遺伝子の異常による疾患で,常染色体優性遺伝を示す.頻度は3000人に1人程度で,約半数は新規の突然変異による孤発例である.NF1遺伝子がコードしているneurofibromin蛋白は,成長因子受容体の情報伝達系に属するp21-rasの抑制系として機能しており,NF1遺伝子は癌抑制遺伝子に分類される.生殖細胞由来のNF1遺伝子の一方のアリルの遺伝子異常に加えて,末梢神経のSchwann細胞において他方のアリルに新たな遺伝子変異が生じ,loss of heterozygosityの状態で神経線維腫となると考えられている.
臨床症状・検査成績
診断基準(表15-13-2)に主要な症状が列記されている.
1)皮膚所見:
カフェ・オ・レ斑は2歳までに出現し,次第に大きさを増す.そのほかに白斑や,皮下の神経線維腫の隆起を認める.鼠径部や腋窩には特徴的なそばかす様皮膚斑(雀卵斑様色素斑)を認める.
2)中枢神経系:
良性の星状細胞腫である視神経膠腫は,学童期には15%程度にみられるといわれているが,通常は無症状で進行も認めない場合が多い(図15-13-13A).必ずしも治療を要しないため,視神経膠腫に対する定期的な画像検査は推奨されていない.そのほか髄膜腫などの脳腫瘍を認めることがある.なお,学童期から10歳代では,頭部MRI所見にて,大脳基底核,脳幹,小脳に,T2強調画面で高信号を呈する円形の所見(unidentified bright object)を一時的に認めることがある.本疾患に特徴的であるが,病的意義はないとされている(図15-13-13B).
3)神経線維腫:
神経線維腫は末梢神経に沿って生じる良性腫瘍で,巨大になった蔓状神経線維腫は脊髄・血管・気管・骨などを圧迫し症状を呈することがある.成人期に急激に大きくなる,あるいは痛みが出現する場合には,悪性化を考え,早期に対応する必要がある.
4)眼所見:
光彩のメラノサイトの過誤腫である虹彩小結節(Lisch結節)は本症に特異的で,早ければ乳児期にも出現し診断的価値がある.眼窩部の神経線維腫により緑内障をきたすことがある.
そのほか,大頭,低身長,斜視,学習障害,軽度精神遅滞,てんかんを合併する場合がある.また,髄膜腫や神経膠腫などの脳腫瘍やクロム親和性細胞腫などの腫瘍性病変,類もやもや病,Noonan症候群の身体特徴の合併がまれに認められる.
診断
診断基準によるが,皮膚所見・家族歴などから比較的容易である.なお,脊髄近傍に神経線維腫が多発する脊髄型神経線維腫症では,皮膚所見が軽度であることが知られている.
経過・治療
症状を呈する神経線維腫に対しては外科的な対症療法を行う.小児期の視神経膠腫については,経過をみながら治療の適応を慎重に検討する.基本的に,対症療法を行う.[岡 明]
■文献
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報