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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
ヒトがものを見ることができるのは、角膜・水晶体を通って網膜上で結んだ像の情報が眼球から脳に向かって延びている「
緑内障では、その情報の橋渡しをしている視神経に異常が起こり、眼からの情報を正確に伝えられず、脳で画像をうまく組み立てることができなくなります。その結果、視力や視野(見える範囲)に障害を起こしてしまいます。
昔は「あおそこひ」と呼ばれ、失明に至ることもある病気として恐れられてきました。2000年から行われた疫学調査では、40歳以上の5.78%に緑内障が認められることが報告されています。
眼のなかには血液の代わりとなって栄養などを運ぶ
眼圧の正常値は10~21㎜Hg(ミリメートル水銀柱)で、21㎜Hgを超えると高眼圧といいます。眼圧が高くなるのは、何らかの原因で房水の産生と排出がアンバランスになるためです。緑内障の視神経の異常(
また眼圧が正常でも、視神経が圧力に耐えられない場合に視神経に異常が起きるとされています。緑内障には多くの病型があり、とくに眼圧が正常範囲のタイプ(
緑内障の場合、正常値の21㎜Hg以下なら心配ないというわけではなく、視神経乳頭の陥凹の状態や視野障害の状態を加味して判断する必要があります。つまり、障害の進行が停止するレベルまで眼圧を下げる必要があります。眼圧は季節や時間帯によって変動し、緑内障の人ではとくにその変動の幅が大きいことが知られています。それらを含めて眼圧の基本値を把握することが大切です。
緑内障の症状には、急激に眼圧が上昇し眼の痛みや頭痛、吐き気など激しい症状を起こすもの(急性緑内障)と、ほとんど自覚症状がないまま病気が進行してしまうもの(慢性緑内障)があります。
急性緑内障では、時間がたつほど治りにくくなるので、すぐに治療を行い、眼圧を下げる必要があります。一方、多くの患者さんがかかる慢性緑内障では、瞳の色はもちろん、痛みや充血などの症状はほとんどないままに進行し、視力低下も病気の最終段階まで現れません。このため、患者さん自身が病気を自覚することが難しく、治療開始が遅れることが多々あります。
慢性緑内障の唯一の自覚症状は視野の一部に見えないところができること(視野欠損)ですが、通常2つの眼で見ているため、互いの視野でカバーされ、進行するまでなかなか気がつかないことが多いのです。しかし、定期的に検診を受けていれば、視野が十分広いうちに、緑内障による視神経の障害を見つけることができます。
近年、眼圧検査・
視野障害の進行は以下のとおりです。
①初期
眼の中心をやや外れたところに暗点(見えない点)ができます。自分自身で異常に気づくことはありません。
②中期
暗点が拡大し、視野の欠損(見えない範囲)が広がり始めます。しかし、この段階でも片方の眼によって補われるため、異常に気づかないことが多いようです。
③後期
視野(見える範囲)はさらに狭くなり視力も悪くなって、日常生活にも支障を来すようになります。さらに放置すると失明に至ります。
緑内障は、眼圧検査、眼底検査、隅角検査、視野検査、画像解析検査などで診断されます。定期検診などで異常があった場合、必ず眼科医の診察を受けるようにしてください。
①眼圧検査
眼圧計には、空気を当てる非接触型と、麻酔をかけて角膜の表面に測定器具を当てて測定する接触型とがあります。前者は主に検診などで高い眼圧を見つけるのに適しており、緑内障の経過観察には、より正確な後者の接触型を用いることが望ましいとされています。
②眼底検査
視神経乳頭の陥凹を直接確認する検査です。緑内障では、視神経乳頭の真ん中にある陥凹が徐々に広がり、その色調も白くなってきます。視神経乳頭の変化は視野検査の異常に先立って現れるので、緑内障の早期発見、とくに眼圧異常を伴わない正常眼圧緑内障の診断に重要です。
③隅角検査、
高眼圧の原因の診断や、緑内障の病型決定に大切な検査です。房水の通り道である隅角の状態を精密検査することで、隅角が十分に広ければ
④視野検査
緑内障であるかどうか、また緑内障がどの程度進行したものかを正確に判断するために重要な検査です。視野とは、眼を動かさないで物が見える範囲のことです。正常な人の片眼で見える範囲は、だいたい鼻側60度、耳側100度、上側60度、下側75度です。視野検査は光の点を点滅させて、見えにくい部分がないかを片眼ずつ測ります。見える範囲だけでなく、見えている範囲内での感度を調べることも重要です。動的視野測定法と、静的視野測定法とがあります。
初期~中期の視野欠損では自覚症状のないものがほとんどです。青や黄などの光、点滅する光、特殊な標的(輪など)を用いる新しい視野検査も数多く開発されており、初期の緑内障の診断に有用です。
⑤画像解析検査
近年コンピュータ技術の発達により、様々な画像解析検査が普及してきています。これらの画像解析検査は視神経乳頭の変化や乳頭周囲の網膜神経線維の解析に有用です。
ひと口に緑内障といってもひとつの疾患ではなく、病型により原因や発症、症状、治療などに大きな違いがあります。眼圧に関して分類すると、眼圧が上昇するタイプと上昇しないタイプがあります(表1)。
眼圧が上昇する原因は、房水がつくられる量と排出される量がアンバランスになるからです。そのバランスが崩れる原因の違いによって、眼圧が上昇する緑内障はさらに閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障に分けられます。
眼圧が上昇しないタイプは開放隅角緑内障のひとつのタイプといえますが、正常眼圧緑内障と呼ばれています。そのほか、先天性の緑内障、眼の外傷やそのほかの病気に引き続いて起こる続発緑内障などがあります。
緑内障の治療は病状に合わせて選択されます。大多数を占める慢性緑内障で視野異常が進行していない場合は、まず薬物による治療(主に点眼薬)から始めます。大きく分けて5種類の緑内障治療薬(表2)があり、緑内障のタイプ、眼圧の高さ、視野異常の進行度などに合わせて処方されます。
薬物では眼圧が十分に低下しない場合、視野異常の進行が止まらない場合はレーザー治療や手術治療が行われます。
薬やレーザー治療、手術療法で眼圧がある程度下がっても、それで治療が終わるわけではありません。定期的に視野検査を受け、視野障害が進行していないことを確認して、初めて治療が順調であるといえます。また、眼圧はいったん安定しても治療を中断するとまた変動します。緑内障は生涯にわたる管理が必要となります。
本庄 恵, 谷原 秀信
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
眼圧が正常値を越えて高い状態が続くと、その高さや持続時間に応じていろいろな程度の特徴ある視神経障害が起こる。この状態を緑内障というが、これは、いわば古典的緑内障である。緑内障は、急性または慢性に進行するが、近年の日本人に関する調査研究により、慢性に経過するタイプの90%以上は眼圧が正常範囲に留まっていることが明らかにされ、新たなタイプの緑内障として世界の注目を浴びた。そして、世界の各地にも、このタイプの多いことが改めて認識されるようになった。このタイプの緑内障は、正常眼圧緑内障とよばれる。また、これらの緑内障は原因不明であることから、すべて原発緑内障とよばれる。緑内障は遺伝病の範囲には入るが、遺伝子や形式は複雑でいまだに解明されてはいない。
眼圧は眼房水(がんぼうすい)の産生と眼外への流出の量的バランスによって正常の一定レベル(21水銀柱ミリメートル以下)に保たれるもので、ブドウ膜炎、眼内出血、眼内腫瘍などの眼疾患で眼房水の産生が過剰になったり、流出障害が起こると、それに相当して眼圧が上昇し、持続すれば視神経障害が起こり緑内障になる。このように、何らかの眼疾患に続発する緑内障は、続発緑内障とよばれる。アレルギー性結膜炎や鼻炎に頻繁に使用されるステロイド点眼、点鼻剤は1か月以上続けると数%の人に眼圧が著しく上昇し、さらに続けると緑内障になり、非可逆的な視神経障害になるので、注意が要請される。
このほか、先天型の発達緑内障があるが、これについては牛眼の項目を参照されたい。
原発緑内障には、眼房水の流出部にあたる前房隅角(ぐうかく)が、開放か、閉塞(へいそく)か、により、(1)原発閉塞隅角緑内障、(2)原発開放隅角緑内障、の二つのタイプに分類される。
[岩田和雄]
通常毛様体から産出された眼房水は、虹彩の裏面を通って瞳孔(どうこう)から前に流れ出て、前房を充たし、その隅の前房隅角からシュレム管を通り、静脈に排出される。なんらかの原因で瞳孔部で流れがブロックされると、眼房水が虹彩の裏面にたまり、虹彩をドーナツ状に前方にふくらませ、前房隅角を閉塞してしまうので、その閉塞の程度に応じて眼圧が上昇する。急性に高度に起こることが多く、急性閉塞隅角緑内障という。眼痛、頭痛、嘔吐(おうと)などで苦しみ、他疾患と誤診されやすい。前駆症状として、疲労時などに目がかすんだり、電灯のまわりに虹がかかってみえたりすることがあり、安静にすると症状が消える。眼圧上昇で角膜に浮腫(ふしゅ)がくることによる。急性発作時には可及的にすみやかに眼圧下降治療を受けないと、失明またはそれに近い視機能障害を残す。基本的治療法は、虹彩に小さな孔(あな)を開ける虹彩切除で治療せしめ得るが、現在は、外来で、レーザーを用い短時間で実施される。予防的に実施しておけば、発作を防ぐことができるが、数年後に水泡性角膜症となり、角膜移植が必要となることがあり、慎重な適応が要請されている。隅角閉塞が不十分に起こっているときには慢性に経過するが、同じ治療法が施行される。なお、水晶体を剔出(てきしゅつ)し、人工レンズ(眼内レンズ)を挿入する白内障治療手術があり、緑内障治療にも適応される場合がある。半永久的治療が得られるので、近年、白内障がなくとも、初期からその手術がなされる傾向となった。
瞳孔部のブロックのほかに、解剖学的異常で平坦な虹彩が前方に張り出し、隅角を閉塞する別のタイプがある。これはプラトー虹彩緑内障とよばれる。レーザーで虹彩周辺を焼き縮めて隅角を開放するが、その方法で効果がないときは、水晶体を摘出するなどする。
閉塞隅角型の緑内障は、統計によると、女性に多く、男性の3倍あり、発生地域としては沖縄に多いことが知られている。
[岩田和雄]
慢性に徐々に視神経障害が進行するタイプで、放置すると、20~30年以上の長い経過で失明に近くなる。正常眼圧の範囲(21水銀柱ミリメートル以下)にあっても、眼圧が低いほど進行が緩く、正常範囲を越えた場合はその程度に応じて進行が速くなる。視神経障害は視野が周辺から中心に向かって狭くなるもので、自覚症状なしで進み、視野狭窄(きょうさく)が高度になって、見えるはずのものが見えないことで初めて気付かされるので、これが早期発見を妨げている。日本のある地方の調査で、発見された緑内障の90%の人は自分が緑内障であることを知らないでいたという。
ヒトには1500万本を越える大量の視神経線維があり、眼に映る映像を脳に送っているが、その視神経線維がいまだ不明の機序で次第に減少し、それによる視野欠損がこの種の緑内障では、徐々に拡大するのが特徴であり、失われた視神経線維が再生することはない。視野欠損の映像は脳に送られないので、欠損が自覚できない。日本人では40歳代で約2%の人が罹患(りかん)し、加齢とともに増加して70歳代以上では8%にもなる。
現在、点眼による強力な眼圧下降剤が多種類使用可能となり、早期に発見して十分な眼圧下降を保つことができれば、進行はきわめて緩くなり、生涯生活に支障をきたさない程度に抑えることができる。薬だけでは治療が不十分の場合は手術による眼圧下降も必要となる。早期発見が予後を決める重要な鍵をにぎっているので、年1回の成人病検診や眼科専門医の検査を受けることが奨められる。検査は、眼圧検査、視野検査、眼底検査、前房隅角検査、必要に応じてCT、MRI、全身検査など多義にわたるが、コンピュータの介在により効率よく実施される。一度発見されると、生涯にわたり管理が必要となる。
[岩田和雄]
眼圧の上昇と上昇した眼圧による視野等の視機能の障害を特徴とする疾患。瞳孔が青く見えることもあるので青底翳(あおそこひ)とも呼ばれる。40歳以上の人の約1%近くにみられるといわれる。眼圧は,毛様体上皮からの房水産生と前房隅角部(角膜の内側と虹彩が交わる部分)を経ての房水流出のバランスによって決定される。したがって,理論上,房水産生過多ないしは房水流出障害のいずれか,あるいはその両者の合併によって,眼圧上昇が起こりうるが,日常みられる緑内障は,ごくまれな例外を除き,房水流出障害に起因する。視野異常の程度は,眼圧レベル,罹病期間等によりさまざまである。ただし眼圧は高くても視野にまったく異常のないものは高眼圧症という。また緑内障のために失明したものを絶対緑内障という。
なにかが原因となり生ずる続発緑内障と,原因を他に帰することのできない原発緑内障と,胎生期の隅角発育異常により生ずる先天緑内障の三つに大別される。原発緑内障と続発緑内障は,さらに開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障とに分けられる。
(1)原発開放隅角緑内障 房水の流出障害から,眼圧が上昇して起こる。徐々に発病し,その進行は一般にゆるやかではあるが,放置すれば最後には視神経萎縮で失明に至る。40歳以上に比較的多い。自覚的には,初期の段階では,無症状のことも多いが,軽度の眼精疲労,頭重感,視力低下等を訴えることもある。したがって,たまたま眼圧を測定し,発見されることもある。視野の異常は,初期には固視点(視野の中心)近くのブエルム領域の欠損(ザイデル暗点ともいう)であるが,進行すると周辺も侵され,ついには全欠損となる。隅角検査を行うと,隅角は通常広隅角であるが,繊維柱帯からシュレム管までの間に最大の房水流出障害があると考えられている。なお,眼圧が正常範囲内にあるにもかかわらず視野が侵され,かつ視神経乳頭に典型的緑内障性陥凹のあるものを,一般に低眼圧緑内障という。
(2)原発閉塞隅角緑内障 一般に前房が浅く隅角の狭い眼に起こりやすく,隅角の閉塞によって眼圧は上昇する。この閉塞が急激に発症したものを急性型,ゆるやかにかつ進行性に閉塞するものを慢性型という。前者では,症状として急激に発症する眼痛,頭痛,悪心・嘔吐,視力低下等がある。眼圧は多くの場合50mmHg以上に上昇するため,放置すれば短期日の間に失明しやすい。精神感動や過労が誘因となることもある。後者では,無症状のことが多く,視機能障害の進行型式は原発開放隅角緑内障に似る。
(3)続発緑内障 おもな原因として,ぶどう膜炎,内眼手術,副腎皮質ホルモン剤や散瞳薬の使用,外傷等がある。
(4)先天緑内障 胎生期の隅角部発育異常による房水流出障害のため眼圧は上昇する。通常,隅角だけの発育異常の場合が多く,これを原発先天緑内障という。また隅角部以外の発育異常,例えば無虹彩症やスタージ=ウェーバー症候群などの発育異常を伴う場合もある。原発先天緑内障では,角膜が浮腫混濁し,また高眼圧のために,角膜径が増大する。眼球がやや突出して,牛の眼のようにも見えることから牛眼とも呼ばれる。
緑内障のため損なわれた視野や視力は回復しない。そこで,現在の視機能をできるだけ保存させようとする目的で,薬物療法や手術療法が行われる。薬物では,ピロカルピン,エピネフリン,β遮断剤の点眼薬,炭酸脱水酵素阻害剤の内服,高浸透圧剤の点滴静注などがおもに用いられる。手術療法としては次のようなものがある。(1)虹彩切除術 角膜輪部を切開し,虹彩を一部引き出して切除する。(2)繊維柱帯切除術 強膜を半層切開し,シュレム管を中心とし繊維柱帯を含む深部強角膜片を切除する。(3)繊維柱帯切開術 隅角部を直視下で,繊維柱帯を切開する。(4)毛様体冷凍凝固術 毛様体を-70~-80℃で冷凍する。(5)隅角切開術 先天緑内障に行われる。なお近年,(1)(2)の観血的手術の代りに,レーザー光線の照射によって眼圧を下降させる虹彩切開術や隅角形成術が主流となっている。
→目,眼
執筆者:南波 久斌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…したがって,房水排出能が低下したり房水産生が増加するという病的な状態では,眼圧は上昇する。一般に21mmHg以上の眼圧を高眼圧といい,これに視機能障害の加わったものは緑内障と呼ばれる。その反対に,眼圧の異常に低いものを低眼圧という。…
…先天白内障の原因としては,妊娠3ヵ月以内の妊婦の風疹,麻疹感染,X線被曝,栄養不良,ステロイド剤の投与などがある。(c)併発白内障 ぶどう膜炎,網膜色素変性症,網膜剝離(はくり),絶対緑内障,眼内腫瘍等の疾患から,二次的に起きるものである。これらの疾患からの毒素が水晶体の代謝を障害し,混濁すると考えられている。…
…凝固力や位置の微細なコントロールは不可能であるが,やや広範囲で穏やかな組織反応をもたらすので,主として網膜剝離手術に用いられる。また続発緑内障で毛様体に対して,あるいは光凝固が不可能な進行した増殖性網膜症で眼底に対して試みられることがある。【小林 義治】。…
※「緑内障」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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