癌抑制遺伝子(読み)がんよくせいいでんし(英語表記)tumor inhibitory gene

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

癌抑制遺伝子
がんよくせいいでんし
tumor inhibitory gene

を抑える遺伝子網膜芽細胞腫という網膜にできる小児の癌で最初に見つかった。網膜芽細胞腫は遺伝性の癌で,両親から伝えられる一対の遺伝子の両方に異常がある場合にのみ発症し,一方が正常なら発症が抑えられる。この正常な遺伝子が網膜芽細胞腫の抑制遺伝子というわけで,第 13番染色体に乗っていることがわかっている。また,日本の理化学研究所では,ラスという遺伝子によって癌化した細胞に導入したヒトのさまざまな DNAの中に癌細胞を正常に戻す働きを示すもの,すなわち癌抑制遺伝子があることを見出した。この抑制遺伝子は reversion (復帰) にちなんでレブ1と名づけられた。

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百科事典マイペディアの解説

癌抑制遺伝子【がんよくせいいでんし】

細胞が(がん)化するのを防ぐ遺伝子で,これに変異が起こると,癌細胞が増殖しやすくなる。これまでに10種類以上が見つかっている。 最初に発見されたのはRb遺伝子で,網膜芽細胞腫(乳幼児の眼底に発生する悪性腫瘍)患者に,13番目の染色体の一定部分が欠けていることで見つかった。 さらに,多くの癌で17番染色体に欠けている部分があり,ここにある癌抑制遺伝子は5万3000ダルトン(1ダルトンは水素原子1個の重さ)のタンパク質をつくることから〈p53遺伝子〉と名づけられた。これは,現在わかっている癌抑制遺伝子のうち最も代表的なもので,すべての癌のほぼ半数にp53の異常がみられる。 米国の研究では,タバコの煙に含まれる発癌物質によって,p53に突然変異が起こることがわかっている。 p53に異常が起きると,癌細胞に栄養を送る血管が急激に発生して,癌細胞に栄養が送り続けられ,どんどん増殖する。逆に,p53が働くと細胞を死に追いやるタンパク質分解酵素が活性化することから,この性質を利用した制癌薬も研究されている。米国オニックス社が開発した癌治療薬〈オニックス015〉は,癌細胞がp53に異常がある性質を利用して,癌細胞のみを破壊するウイルスをつくったもの。臨床試験では,従来の制癌薬との併用によって,難治性の癌患者10人のうち2人で癌が完全に消え,7人は半分以下に縮小した。 癌抑制遺伝子には,このほか1997年にフランスの研究者が発見した〈p73〉,1998年に東京医科歯科大学の井川洋二教授と東北大学加齢医学研究所の長田元伸研究員らが見つけた〈p51〉などがある。→癌遺伝子
→関連項目癌予防薬

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大辞林 第三版の解説

がんよくせいいでんし【癌抑制遺伝子】

細胞が正常であるために必要であるが、結果として癌の発生を抑えているような遺伝子。その欠失が癌発生の一因となる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

癌抑制遺伝子
がんよくせいいでんし

細胞内にあり、癌化を促進する癌遺伝子の働きを抑えることによって癌化を抑える遺伝子。発癌には数個から10個もの癌遺伝子がかかわっているが、1個あるいは複数の癌抑制遺伝子が欠けると、急速に発癌したり、癌が悪化したりするとされる。1986年にアメリカのワインバーグ博士らが、網膜細胞芽腫(がしゅ)や骨肉腫、膀胱(ぼうこう)癌などに関係する「RB遺伝子」を初めて分離し、この分野の研究を開いた。よく知られているものでは、大腸癌や乳癌に関係する「p53遺伝子」、家族性ポリポーシス患者からみつかった「APC遺伝子」がある。家族性ポリポーシスは大腸に多数のポリープができ、しかも高率で癌になる遺伝病で、この患者は第5染色体にあるAPC遺伝子の1か所に異常をもっていた。この病気の場合はAPC遺伝子の異常で発病し、癌遺伝子、さらに別の癌抑制遺伝子の異常などによって癌になることが解明されている。[田辺 功]

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