日本大百科全書(ニッポニカ) 「空引機」の意味・わかりやすい解説
空引機
そらひきはた
織物に文様を表したいとき、いろいろに染色しておいた経緯(たてよこ)糸を織機にかけて操作し文様を表すことになる。これには原始機を時間に関係なく、手の先で組織してつくりだすことはできるが、これを機械的に操作できるものとして、あらかじめ必要とする文様を糸組みにして組織しておいた空引機構を装置しておいた機がつくられ、それを操作する空引工(紋綜(もんそう)工)、単に綜(へ)工ともよぶが、この織工に相対して、それぞれに連なる綜絖(そうこう)糸に連絡してある通糸(つうじ)を操作することになる。中国で漢代までに開発されたこの空引機は、複雑な紋織組織を忠実に反復して織り出すことができる。この機は、中国から東西に分かれて織技とともに伝播(でんぱ)することになる。
5世紀にわが国に伝播した機は、中央の官司(かんし)制のもとで制度化され、高級織物を製織することになり、のちには、西陣(にしじん)を中心として、多くの公家(くげ)織物を製織しつづけてきた。しかし、明治以後には、西欧からのジャカード織機にとってかわられ、大正期には消滅することになった。また、中国から西に伝播した空引機は、現在では、中近東、インド、あるいはスペインから新大陸に渡った中世の古い機が、グアテマラに残存しており、現在でも使用されている。
[角山幸洋]