デジタル大辞泉 「錦」の意味・読み・例文・類語
きん【錦】[漢字項目]
1 金色の糸で美しい模様を織りなした絹織物。にしき。「錦衣・錦旗・
2 にしきのような。美しい。「錦鶏・錦秋・
[名のり]かね
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
多彩な色糸を用いた絹の紋織物。織物の中でも最も華麗なもので,中国における〈錦〉の文字は《釈名》によると,その価が金に等しいゆえに〈金〉と〈帛〉(絹織物)の文字を並べて作られたという。したがって広義には多彩な織物に対してこの名が当てられ,広東錦,綴錦(つづれにしき),ペルシア錦,カシミア錦といった呼び方がされる。この場合,織物組織の上では錦織に限らず,絣(かすり),綴織,縫取織などが包含されている。狭義には,〈錦〉としての特殊かつ複雑な組織によって織製された織物をさし,これは大きく〈経錦(たてにしき)〉と〈緯錦(ぬきにしき)〉とに分類される。
〈経錦〉は経糸によって地と文様が織りだされるもので,例えば3色の配色によるものであれば3色3本の糸を1単位として,これが互いに浮沈交替して地と文様があらわされる。したがって色数が多くなれば,それだけ経糸の本数も増し,織製は困難となる。この弊害を防ぐために,経錦は普通織幅をいくつかに縦に分割し,それぞれの区画を色分けして多色とする。その結果,帛面の文様が縞状に色分けされてあらわれるという特色を生じる。しかしなかには4色,6色を経の単位糸として,帛面に縞状をあらわさないものもあり,外モンゴルのノイン・ウラから出土した〈山岳文〉の錦は,六重の経錦であることが報告されている。
〈緯錦〉は経錦と反対に緯糸によって地と文様が織りだされたものをいう。この織法によると織製の過程で自由に色糸を変えていくことが可能なため,一般に経錦より色数も多く,華麗な大文様のものが容易に作られる。この2種の錦の織法のうち,歴史的には経錦が古く,中国では戦国時代(前5~前4世紀)の経錦が湖南省長沙の広済橋左家塘などから出土している。また長沙馬王堆漢墓,その他外モンゴルのノイン・ウラ,新疆省楼蘭(ろうらん)などからの多くの出土例によって,漢代には経錦の織製技術が完全に成熟していたことが知られる。その後,経錦の伝統は隋から初唐まで続いたようであるが,唐以降は,新しく興った緯錦の技法が盛んとなり,経錦の技術は衰退した。日本にはちょうどその転換期にあたる時期の錦が舶載されており,法隆寺伝世の〈蜀江錦(しよつこうきん)〉(中国四川省産の錦〈蜀錦〉を舶載したとされる赤地錦)のような古様な経錦と正倉院伝世の華麗な唐花文の緯錦に,二つの異なる特色が顕著にあらわれている。
日本においても奈良時代以降に織製された錦は,すべて緯糸によって文様を織りだす緯錦の系統のものになっている。中世以降には日本独特の〈倭錦(やまとにしき)〉や〈糸錦(いとにしき)〉と呼ばれる錦が作製されたが,〈倭錦〉はふつう地も文様も緯6枚綾組織としたもの,〈糸錦〉は絵緯(えぬき)を表裏とも別搦み糸で押さえたものをさす。
執筆者:小笠原 小枝
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…これは一方に大きな車を取りつけ,他方に錘を装置し,それをベルトで連結し,車を回すことによって錘をはやく回転させるように作った道具で,糸はこの回転している錘に,撚りがかかりながら巻き取られるのである。糸車の発明がいつかは明らかでないが,漢代の錦のきれいにそろった撚糸をみると,当然その存在が予知され,また多量にはやく紡績できるという点で,織物生産の増加と発達に関連するところが大きいから,紀元前後にはその使用が始まっていたと考えられる。紡績
【織機】
織物と編物との違いは織機使用の有無にあるが,織機の機構としては,経糸をまっすぐ平行に並べることと,1本1本経糸をすくって緯糸を通すのではなく,並べられた経糸の偶数糸,奇数糸を交互にいっせいに持ち上げて緯糸を通す道を作る綜絖(そうこう)装置が最も重要である(図1)。…
…〈練織物〉は先染(さきぞめ),先練(さきねり)の織物で,無地織,縞,格子,絣,各種紋織物など製織の過程で色や柄が織り出されるものをいう。甲斐絹(海気)(かいき),琥珀(こはく),博多織,仙台平(せんだいひら),御召,銘仙,緞子(どんす),絹ビロード,錦などがその代表的なものである。
【中国】
[歴史]
蚕を飼って絹糸をとり織物にすることは,中国で創始され,その歴史はきわめて古い。…
…この書には166裂が収録されるが,同名数点を含むものもあるので種類としては106種である。これらは数の上では多くはないが,その後に発刊された《和漢錦繡一覧》その他の底本となるものとしてきわめて重要とされる。また名物裂が珍重されるようになると,日本で模作品も製作されるようになり,このため江戸時代以来名物裂の研究は,もっぱらその〈本歌〉(オリジナル)と〈写し〉(模作品)とを識別することが重視された。…
…この織物にさらに縫取(ぬいとり)織の技法を加えて異なった文様を一定の配置で織り出したものを二倍(ふたえ)織物と呼んだ。錦は2色以上の緯糸で文様を織り表したものをいう。平織地浮文錦,地と文が異なる斜文組織のものや,文が浮織となった唐錦(からにしき)といわれるもの,地と文が同じ斜文組織で,緯糸で地色と文様を表した大和(倭)錦と呼ばれるもの,などがある。…
※「錦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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