突ん棒漁業(読み)つきんぼうぎょぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「突ん棒漁業」の意味・わかりやすい解説

突ん棒漁業 (つきんぼうぎょぎょう)

船上からもりを投げてマグロカジキなどの表層性大型魚類を漁獲する漁業。日本では江戸時代からカジキを対象として行われ,カジキ突ん棒漁として知られた。現在でもおもな漁獲物はメカジキマカジキで,そのほか,他のカジキ類,マグロ,イルカサメなどもとれる。遊泳力の強い魚をねらうので高速が出,操縦性能のよい漁船が必要である。漁船には船首にもり手の立つ突ん棒台と中央に高い魚見台を備え,独特の形をしている。ただし,日本には専業船はない。漁場に着くと,乗組員全員で魚を探し,発見すると背後から近づいて餌(塩蔵や冷凍のサバサンマなど。メカジキの場合は投餌しない)を投げる。これは魚の浮上時間を延ばし,できるだけ魚に近づくためである。7~8mから10mぐらいの射程距離に入ったら,魚の胸部をめがけてもりざおを投げる。柄は直径2~4cm,長さ3~5mのカシ製で,もり先は6~10cm,二叉(にさ)または三叉しており,柄に固着されているものと,刺さると抜けるものとがある。魚が逃げるに任せてもり綱をのばし,また船を航走させて追尾する。魚の弱るのを待ってとりあげる。1960年ころからはもりが刺さってから,電流を流してショックを与え,一時麻酔状態にしてとりあげるようになり,時間が大幅に短縮されるようになった。とりあげるまでの時間は100~200kgのメカジキで2~3時間,200kg以上の大カジキとなると5時間以上を要し,10時間を超えることもあったが,だいたい5秒内外の電撃操作で仮死状態となるので著しく短縮されることになる。これは鮮度保持にも効果があり,市場価値の向上にも役だつ。日本近海の漁場は三陸沖,房総近海から伊豆七島まわり,四国沖,東シナ海などである。

 突ん棒漁業はヨーロッパ,アメリカ,アジア各地で知られている。メッシナ海峡で操業するシチリアの突ん棒漁船はひじょうに高い魚見台を備え,独特な形をしている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「突ん棒漁業」の意味・わかりやすい解説

突ん棒漁業
つきんぼうぎょぎょう

海洋の表層を遊泳するカジキ類やマグロ類などを、銛(もり)を投げてしとめる漁業をいう。銛は雑漁具の一種で、鋼鉄の鋭利な先端を有し、突き刺した魚が脱落しないように、釣り鉤(ばり)の「あぐ」に似た「かえし」のあるものを用いる。銛竿(もりざお)は長さ3~4.5メートル、径4センチメートルのカシ材などでつくられており、先端に銛がつけられる。尾柄(びへい)部には、銛で突いたあと、魚を扱うための「やな」とよばれる綱が結ばれている。漁船は10~40トン、80~200馬力、乗組員3~15人、サンマ棒受(ぼううけ)網などほかの漁業との兼業船が多く、船首に銛を投げるための台が突出している。一年中、日本近海の太平洋および東シナ海で操業され、とくにマカジキ漁場として、4~5月の房総近海、2~4月の伊豆七島、11月から翌年1月の銚子(ちょうし)沖が知られ、1~3月の東シナ海および6~9月の三陸近海のメカジキ漁場も著名である。

[笹川康雄・三浦汀介]

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