内科学 第10版 「糖の流れ」の解説
糖の流れ(糖代謝異常総論)
まず,人間の体内における糖の流れをみてみよう(図13-2-3).糖の流れを考える上で重要な臓器が4つある.まず第1は膵臓のβ細胞,第2は肝臓,第3は筋肉,第4は脂肪組織である.
a.摂食時の糖の流れ(図13-2-4)
摂食時には,生体のエネルギー源のほとんどはグルコースである.摂食後,血中のグルコース,アミノ酸,脂肪の濃度が上昇し,インスリン濃度も上昇する.その結果,肝臓では,グルコースの取り込みが亢進する.肝細胞内に取り込まれたグルコースは,解糖系により分解され,ATPを産生してエネルギー源になる.肝細胞内に過剰に取り込まれたグルコースは,グリコーゲンに合成される.肝臓でのエネルギーの貯蔵は,グリコーゲンと脂肪として行われる.筋肉では,グリコーゲンと蛋白,脂肪組織では脂肪の形でエネルギーが蓄積される.
b.飢餓時の糖の流れ(図13-2-5)
空腹時あるいは飢餓時には,血液中のグルコース濃度を低下させないような代謝が行われる.肝臓では,グリコーゲン分解や糖新生経路によってグルコースを合成し,血液中に放出して,血液中のグルコース濃度が低下しないよう一定に保っている.
c.糖代謝における膵β細胞の役割
膵臓のβ細胞は,インスリンを合成分泌する細胞であり,血液のグルコース濃度に応じてインスリンを分泌する.経口的に摂取された糖質は,腸管で単糖類まで分解され,吸収される.腸管からグルコースが吸収されると,血液のグルコース濃度が上昇し,インスリン分泌が促進される.膵β細胞におけるインスリン分泌は,図13-2-6のような経路を経て行われる.インスリンは多くの標的細胞において図13-2-7のような作用を示すが,糖代謝の上で特に重要な標的細胞は,肝臓,筋肉,脂肪細胞である.各臓器で糖代謝のどの経路が働くかは,主として,血中のインスリンとグルカゴンの濃度のバランスによって決まる.すなわち,摂食後のインスリン濃度が高いときには解糖系およびグリコーゲン合成系が働き,絶食時のインスリン濃度が低いときには糖新生系やグリコーゲン分解系が働く.
一方,栄養素が腸管から取り込まれる際,腸管上皮からインクレチンとよばれる生理活性物質が分泌される.代表的なインクレチンは,上部腸管のK細胞から分泌されるGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide,グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド),下部腸管のL細胞から分泌されるGLP-1(glucagon-like peptide-1,グルカゴン様ペプチド1)である.これらのインクレチンは,門脈を経て膵臓に到達し,膵臓のβ細胞に作用してインスリン分泌を促進し,α細胞に作用してグルカゴン分泌を抑制する.その他,インクレチンは全身の細胞に対し多彩な作用を有することが明らかになりつつある.
d.糖代謝における筋肉の役割
筋肉は,全身のインスリン依存性グルコース取り込みの約85%が行われる組織である.筋肉においては,短期的にはグルコース,遊離脂肪酸,ケトン体などから産生されるATPがエネルギー源になる.長期的には,グリコーゲンがエネルギー源となる.飢餓時には,筋肉の蛋白質が分解し,その結果生じたアミノ酸がTCA回路に入り,ATPが産生される.一方,アラニンやグルタミンが合成され,肝に送られて糖新生に利用される.
e.糖代謝における脂肪組織の役割
脂肪細胞においては,摂食時には,脂肪の形でエネルギーを貯蔵する.一方,飢餓時には,脂肪を分解し,産生されたグリセロールが糖新生の基質として利用される.長期の飢餓状態では,脂肪組織が最も重要なエネルギー供給臓器となる.すなわち,脂肪組織において中性脂肪を分解して産生される脂肪酸が,エネルギー源として動員される.脂肪酸は肝臓に送られ,β酸化によりアセチルCoAとなり,さらにはケトン体となって,ほかの臓器のエネルギー源となる.[花房俊昭]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報