中性脂肪(読み)ちゅうせいしぼう(英語表記)neutral lipid
neutral fat

精選版 日本国語大辞典 「中性脂肪」の意味・読み・例文・類語

ちゅうせい‐しぼう ‥シバウ【中性脂肪】

〘名〙 グリセリンと脂肪酸一~三分子の結合したもの。単に脂肪ともいう。動物では皮下、内臓に蓄えられ、エネルギー源となる。植物では主に種子に蓄えられる。中性脂質

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デジタル大辞泉 「中性脂肪」の意味・読み・例文・類語

ちゅうせい‐しぼう〔‐シバウ〕【中性脂肪】

グリセリン脂肪酸とが結合した単純脂質。動物では皮下・腹壁などに蓄えられるいわゆる脂肪のことで、植物では種子に多く、油脂ともいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「中性脂肪」の意味・わかりやすい解説

中性脂肪 (ちゅうせいしぼう)
neutral lipid
neutral fat

天然に見いだされる脂肪酸誘導体のなかで最も広く分布している一群の脂質で,脂肪酸とグリセリンのエステルであるグリセリド,脂肪酸とコレステロールのエステルであるコレステロールエステルが主要なものである。ほかに量的にはずっと少ないが広く分布するアルキルエーテルアシルグリセロールがある。これはグリセリンの二つの水酸基にエステル化した脂肪酸を含むが,通常グリセリンの1位に長い鎖状のアルキル基かアルケニル基とエーテル結合で結ばれている。これらは温和な加水分解によって,キミル(C19),バチル(C21),セラキルアルコール(C21)などのグリセリルエーテルを生じる。コレステロールは動物の細胞膜成分として重要であるが,副腎,肝臓および血漿にはエステル型が多く,脳や赤血球では遊離のコレステロール型がおもである。

いわゆる蓄積脂肪depot fatの主要成分であり,水分を必要としない最も効率のよいエネルギーの貯蔵源として重要な役割を担っている。植物では種子中に,動物では皮下,腸間膜,筋肉などに脂肪組織を形成して蓄積する。蓄積脂肪は,必要に応じて生体酸化を受け二酸化炭素CO2と水H2Oに分解され,エネルギーを供給する。したがって,生体膜などの構成成分となる複合脂質に比べて,脂質のなかでは変動しやすい性質をもっている。

 グリセリドにはモノグリセリドジグリセリドトリグリセリドの3種があるが,グリセリンの3個の水酸基がすべて脂肪酸でエステル化されたトリグリセリド(トリアシルグリセロール)が,動植物には中性脂肪として圧倒的に多く含まれているので,このトリグリセリドを例にとって,中性脂肪の代謝をより詳しくたどってみたい。

 トリグリセリドの脂肪酸としてはC16パルミチン酸)とC18オレイン酸リノール酸リノレン酸)が最も一般的である。トリグリセリドは代謝エネルギーを凝集した形で蓄えた物質で,脂肪酸が完全に燃焼すると9kcal/gを放出する。これは炭水化物やタンパク質の4kcal/gに比較して著しく効率がよい。トリグリセリドのおもな蓄積場所は脂肪細胞の細胞質内であり,そこに脂肪滴となって蓄えられ,必要に応じて動員され,燃料として他の組織に補給される。

 脂肪組織に蓄えられたトリグリセリドがエネルギー源として利用される最初のステップは,リパーゼによる加水分解である。アドレナリングルカゴンなどのホルモンは脂肪細胞のアデニル酸シクラーゼの活性を高めることにより環状AMP濃度を増加させ,これはさらにプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)の活性を高めることによりリパーゼを活性化する。したがって,この酵素はホルモン感受性リパーゼとも呼ばれる。アドレナリンはこの酵素活性を高めて脂肪分解を促進させるが,インシュリンはこれを強く抑制して抗脂肪分解的に作用する。

 食物としてとられたトリグリセリドはカイロミクロンとして,内因性のトリグリセリドは超低比重リポタンパク質(VLDL)として肝臓から分泌されるが,これらのリポタンパク質(トリグリセリド)は,末梢組織でリポタンパク質リパーゼの作用により加水分解されて脂肪酸を放出し,この遊離脂肪酸は組織にとり込まれて熱源として利用されるか,脂肪組織においては細胞内でトリグリセリドに再エステル化されてそこに貯蔵される。

 血液中のトリグリセリド濃度は食後に増加するが,空腹時ではほぼ50~150mg/dl程度である。ある種の病的状態(家族性高脂血症Ⅰ型,Ⅳ型および各種の二次性高脂血症)では血中濃度が上昇する。リポジストロフィーでは脂肪組織が欠落しているために,トリグリセリドは蓄積することができない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中性脂肪」の意味・わかりやすい解説

中性脂肪
ちゅうせいしぼう
neutral fat

グリセロールに脂肪酸が3分子(トリグリセリド)および2分子(ジグリセリド)、1分子(モノグリセリド)それぞれ結合しているものの総称であるが、血清中では90~95%がトリグリセリドであり、中性脂肪といえばこれをさす場合が多い。自然界にみいだされる脂肪酸誘導体のなかで分布がもっとも広く、単純脂質または中性脂質neutral lipidともよばれる。

 生体におけるエネルギーの運搬と貯蔵、皮下脂肪として保温や生体の保護に役だっており、食事として摂取される脂肪は主として中性脂肪で、1日約50~100グラムである。また、血清中の中性脂肪は普通1デシリットル当り100ミリグラム前後であるが、脂質代謝異常者では3000~5000ミリグラムに達することもある。その変動域はほかの脂質に比べて著しく大きい。日内変動や食事による影響が大きいため、採血は通常、早朝空腹時(食後12~14時間)に行う。血液検査における正常値は1デシリットル当り30~135ミリグラムとなっているが、生活環境の影響が大きく、個人差も大きい。一般に農村などに比べて大都市では高く、女性より男性のほうが高い。加齢とともに上昇し、60歳前後から下降する。また妊婦では、妊娠月数とともに高くなり、分娩(ぶんべん)後に下降する。

[橋詰直孝]

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百科事典マイペディア 「中性脂肪」の意味・わかりやすい解説

中性脂肪【ちゅうせいしぼう】

脂肪酸とグリセリンまたはコレステロールが結合したエステル。大部分はグリセリンに脂肪酸が3つ結合したもの。動植物界に最もふつうに見られる脂質で,脂肪酸としてはオレイン酸,パルミチン酸,ステアリン酸などが多い。血液中には空腹時1cm3当り0.5〜1.5mgの中性脂肪が存在するが,中性脂肪が増加すると動脈硬化を促進するので,脂肪と砂糖の摂取を制限する必要がある。
→関連項目アルコール性肝障害高脂血症

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化学辞典 第2版 「中性脂肪」の解説

中性脂肪
チュウセイシボウ
neutral fat

加水分解するとグリセリン1分子と脂肪酸1~3分子を生じる脂質をさすが,一般にはトリアシルグリセリン(triacylglycerol)をさす場合が多い.生物学的にはエネルギー貯蔵物質として重要な役割を果たしている.動物の肉片や植物種子にみられる白い塊が典型例.

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栄養・生化学辞典 「中性脂肪」の解説

中性脂肪

 モノアシルグリセロール,ジアシルグリセロール,トリアシルグリセロールをいうが,通常トリアシルグリセロール.

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世界大百科事典(旧版)内の中性脂肪の言及

【消化】より

…この過程を細胞内消化という。
[脂質の消化]
 食物中の脂肪の大部分は中性脂肪(トリグリセリド)であるが,これは胆汁酸の存在下,腸管運動のかくはん混和作用により,乳化された状態で膵リパーゼの加水分解作用をうけ,モノグリセリドと脂肪酸に加水分解される。脂肪の加水分解を触媒するリパーゼは,脂肪と水の界面で作用するので脂肪が乳化され,反応表面積が増加していると加水分解は著しく促進される。…

※「中性脂肪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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