経済通貨同盟(読み)けいざいつうかどうめい(英語表記)Economic and Monetary Union; EMU

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

経済通貨同盟
けいざいつうかどうめい
Economic and Monetary Union; EMU

ヨーロッパ共同体市場統合を踏まえ,それを超えた EC各国の経済政策協調の強化,統一通貨制度の創設と金融政策の実施を目標とした構想。 1989年4月に発表された「ドロール報告」を基礎に,具体的な予定表が 91年 12月のマーストリヒト条約のなかで決められた。それによれば,第1段階でヨーロッパ通貨制度 EMSに全加盟国が参加し,第2段階ではヨーロッパ通貨機構 EMIを創設し,各国通貨の為替相場変動幅を縮小させる。そして第3段階では新設のヨーロッパ中央銀行 ECBの下で各国通貨の為替相場を固定し,単一通貨ユーロに移行するとともに EMUを発足させるというものであった。この第3段階への移行条件として,財政赤字は GDPの3%以内,政府債務残高は GDPの 60%以内,インフレ率は EU加盟国のうちで最も低い3ヵ国の平均値から4%を越えないなどがあった。その構想に従って各国はインフレ率,財政赤字などの経済状況の収束に努力し,94年1月に EMIが発足,98年6月には ECBが設立され,99年1月1日からはドイツ,フランス,イタリア,ベルギー,オランダ,ルクセンブルク,オーストリア,スペイン,ポルトガル,フィンランド,アイルランドの 11ヵ国が EMU参加国として承認され,各国通貨と併存する形で単一通貨ユーロが導入された。しかし,このユーロ導入にあたっては,イギリス,デンマーク,スウェーデン,ギリシアは不参加となった。

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百科事典マイペディアの解説

経済通貨同盟【けいざいつうかどうめい】

Economic and Monetary UnionからEMUとも。1989年に発表,1990年のヨーロッパ理事会で合意した構想。ヨーロッパ共同体域内の経済・通貨政策の協調を進めることを目的に,ヨーロッパ通貨制度(EMS)を基礎に作られた。各国が金融政策の自主権を放棄することになり,また各国の経済的基盤(ファンダメンタルズ)の差異からヨーロッパ通貨統合は危ぶまれていた。しかし,1995年のマドリードでのヨーロッパ連合首脳会議では,単一通貨〈ユーロEuro〉を1999年1月までに外国為替市場で使用開始し,2002年1月までにはこの紙幣と硬貨を発行,同年7月までに各国通貨との交換を完了するという計画を打ち出した。
→関連項目単一ヨーロッパ議定書

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世界大百科事典 第2版の解説

けいざいつうかどうめい【経済通貨同盟 Economic and Monetary Union】

EMUと略称され,ヨーロッパ経済通貨統合ともいわれる。
[EMSからEMUへ]
 ヨーロッパにおける通貨統合の動きには長い歴史があるが,具体的な提案として特筆されるのはウェルナー報告(1970年10月発表)である。しかし,当時のブレトン・ウッズ体制の動揺から,1980年までにヨーロッパ通貨統合を創設するとの同報告の提案は実現されず,1970年代から80年代にかけてのEC(ヨーロッパ共同体)諸国の通貨面での協調は主としてヨーロッパ通貨制度(EMS)を通じて行われた。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

経済通貨同盟
けいざいつうかどうめい
Economic and Monetary Union

ヨーロッパ連合(EU)の中核で、経済・通貨統合の完成を目ざす同盟。略称EMU(エミュー)。単一市場を中核とする経済同盟Economic Unionと、単一通貨と自由な資本移動、単一金融政策を運営する独立した中央銀行で構成される通貨同盟Monetary Unionからなる。経済通貨同盟の基本的な構図は、1970年に出されたウェルナー委員会報告ですでに示されていたが、ドロール委員会での検討と報告(1989年4月提出)を経て、マーストリヒト条約(1993年11月発効)で、その基本的な構図やスケジュール、参加条件(収斂(しゅうれん)基準)が確定された。[星野 郁]

同盟の実現まで

経済通貨同盟の第一段階は、マーストリヒト条約の締結に先だち、1990年7月よりスタートし、資本移動の自由化や、ヨーロッパ通貨制度(EMS)安定化のための経済政策の協調強化などが進められた。1994年1月より始まる第二段階では、ヨーロッパ通貨機構(EMI:European Monetary Institute)が設立され、1998年6月よりヨーロッパ中央銀行(ECB)に引き継がれた。1995年12月には単一通貨の名称がユーロEuroと決定され、1997年6月には、ユーロ参加国の財政規律を定めた安定成長協定Stability and Growth Pactも締結された。1998年5月にユーロ参加国がEU加盟15か国(当時)中イギリス、ギリシア、スウェーデン、デンマークを除く11か国と決定された後、1999年1月より最終段階に移行し、2002年初めにユーロ現金の導入が完了した。通貨同盟であるユーロ圏には、2017年末時点で19か国が参加している。参加免除の権利を有するイギリス、デンマークを除き、EU加盟国は原則通貨同盟に参加する義務を負っている。[星野 郁]

今後の課題

経済通貨同盟は、形のうえでは完成しているものの、ユーロ危機によってさまざまな問題点や欠陥が明らかになったことから、EUは「真の経済通貨同盟(a genuine Economic and Monetary Union)」の構築により、それらの課題の克服を目ざしている。
 通貨同盟に関しては、ユーロ危機によってユーロ圏の金融システムの分断や銀行の機能不全が明らかになったことから、統合されうまく機能する金融システムが不可欠として、2019年までに銀行同盟と資本市場同盟からなる金融同盟Financial Unionの実現を目ざしている。経済同盟に関しては、ユーロ危機によって経済収斂(経済・産業構造の格差の是正、競争力の平準化、景気循環の同期化など)や構造改革の不徹底、財政規律の欠如などの問題点が明らかになったことから、経済政策の協調や財政規律の強化、EU予算からの改革支援などを通じて、より統合された経済財政同盟Economic and Fiscal Unionの実現を目ざしている。
 また、ユーロ危機では、EUの諸機関の非効率なガバナンス、過酷な緊縮政策や痛みを伴う構造調整の強制に対する厳しい批判が起きたことから、EU諸機関の組織・ガバナンス改革や、民主主義的な説明責任への取り組みも進められている。前者の組織・ガバナンス改革に関しては、ヨーロッパ通貨基金European Monetary Fund(EMF)の創設や、政府間条約である「安定、協調およびガバナンスに関する条約Treaty on Stability, Coordination and Governance」の主要部分である財政協定Fiscal CompactのEU法への統合、ユーロ圏の財務相の集まりであるユーログループの常任議長でヨーロッパ委員会(欧州委員会)副委員長も兼務するヨーロッパ経済財務相an European Minister of Economy and Financeポストの創設、ユーロ圏の安定化のための新しい財政手段の検討などが進められている。また、後者の民主主義的な説明責任に関しては、ヨーロッパ議会(欧州議会)やEU各国議会、欧州委員会との間の対話や、労使間の対話(social dialogue)の強化が課題に掲げられている。EUは、こうした改革を通じて、2025年までに「真の経済通貨同盟」を完成させることを目ざしている。[星野 郁]

経済通貨同盟と諸同盟との関係

関税同盟と共通農業政策を中核とするヨーロッパ経済統合の進展を基礎として、1960年代終わりに通貨統合構想が浮上したとき、それは経済同盟と通貨同盟の二つからなるとされた(経済通貨同盟)。1970年代の挫折をへて、1980年代末に再度、通貨統合構想が浮上した際には、経済通貨同盟が最終的にうまく機能するためには、同同盟の創設と並行してEUレベルでの大規模な財政移転を行う財政同盟と、財政移転を政治的に正当化し可能にする政治同盟の創設が不可欠とされた。しかし、ユーロの導入により経済通貨同盟が最終段階に到達した後も、財政同盟および政治同盟の明確な進展はみられない。
 他方、ユーロ危機によってユーロ圏の銀行システムの脆弱性や資本市場の役割の不十分さが明らかとなったことを契機に、銀行同盟の創設に続き、資本市場同盟の構築も進められている。EUが最終的に実現を目ざす「真の経済通貨同盟」とは、経済通貨同盟に金融同盟(銀行同盟+資本市場同盟)と財政同盟が加わり、さらに政治同盟によって補完されたものとみなすことができる。[星野 郁]
『相沢幸悦編著『EC通貨統合の展望』(1992・同文舘出版) ▽田中素香編著『EMS:欧州通貨制度――欧州通貨統合の焦点』(1996・有斐閣) ▽テオ・ゾンマー著、加藤幹雄訳『不死身のヨーロッパ――過去・現在・未来』(2000・岩波書店) ▽岩田健治編著、H・E・シャーラー他著『ユーロとEUの金融システム』(2003・日本経済評論社) ▽田中素香・藤田誠一編著『ユーロと国際通貨システム』(2003・蒼天社出版)』

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