精選版 日本国語大辞典 「結核症」の意味・読み・例文・類語 けっかく‐しょう‥シャウ【結核症】 〘 名詞 〙 「結核」の医学上の用語。 出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
内科学 第10版 「結核症」の解説 結核症(抗酸菌症) 定義・概念 結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は,Mycobacteria属(抗酸菌属)の結核菌群に属する.結核菌(図4-7-1)はZiehl-Neelsen染色で赤く染まる抗酸菌の代表的菌種である.結核菌群にはほかにM. bovis,M. africanum,M. microtiがあるが,ヒトでの起炎菌はほとんどがM. tuberculosisである.痰の抗酸菌染色が陽性の場合,80%は結核菌であるが,20%は非結核性抗酸菌である.結核は空気感染するので,隔離して治療する.耐性菌でなければ順調に治癒する例が多いが,多剤耐性菌は治療に難渋する. 分類 肺結核が最も多い.肺外結核は,リンパ節,中枢神経,泌尿生殖器,消化管などに結核病巣を作り,結核進行期や免疫不全に合併することが多い.結核菌が血行性に全身に播種すると粟粒結核となる. 疫学 日本の結核罹患率は10万対17.7(2011年)(公益財団法人結核予防会,2012)となったが,欧米先進国の結核罹患率が5前後の現状と比較すると依然として高値であり,日本は結核の中蔓延国である.高齢者ほど結核罹患率が高く,70歳以上の患者が50%以上を占める.高齢となり免疫能が低下し内因性の再燃を起こすと考えられている. 病理 病巣部では進入した結核菌に対して滲出性反応が起こる.次いで細胞性免疫が成立すると繁殖性反応が起こり,中心部が乾酪性壊死となり空洞が形成される.その後,線維化を主体とする修復過程である増殖性反応が起こり,最終的に瘢痕性の硬化性病巣に至る. 病態生理 発病の危険因子としては,糖尿病,珪肺,胃切除の既往,多量喫煙,ステロイド・抗癌薬・免疫抑制薬の使用者,悪性腫瘍,人工透析,高齢,HIV感染症などがある.結核の感染経路は一般的には気道であり,感染者の咳,くしゃみなどによる飛沫核を吸入することにより感染する空気感染(飛沫核感染)である.免疫機能が正常であれば,結核感染が成立した時点で5~10%の人が発病し,残りのグループの中から一生の間に5~10%の人が発病する程度といわれている. 臨床症状 症状としては,咳,痰,血痰,盗汗,発熱,胸痛,食欲不振,体重減少,消化器症状,嗄声などがあるが,特有のものはない.しかし,咳,痰が長期間(2週間以上)続くような場合は,結核を念頭に置く必要がある. 検査成績 1)画像所見: 胸部単純X線写真では,上葉を中心とする空洞影とその周辺の散布影を伴う陰影(図4-7-2)が典型的であるが,胸水貯留,縦隔リンパ節腫脹を認めることもある.肺結核の進展は基本的には気道散布であり,終末細気管支から肺胞道周辺に形成される結核性病変が多発小粒状影として認められることがあり,散布性粒状影ともいわれる.CTでは小葉中心性の粒状影として認められ,ときに分岐状影を呈する.粒状影とそれを連結する細気管支の樹枝状陰影を,tree-in-bud(図4-7-2:空洞周辺の粒状影)といい,結核病変としては特徴的である. 2)インターフェロンγ応答測定法(interferon-gamma release assays:IGRAs): 近年,結核感染の診断はツベルクリン反応(ツ反)にかわって,IGRAsが用いられるようになった.これは特異的抗原刺激に対するリンパ球のインターフェロンγ産生能を測定することによって結核感染の診断を行う方法であり,BCG接種の影響を受けない.現在用いられているクォンティフェロン第3世代(採血管にあらかじめ3種類の刺激抗原が入っており,自施設で検体処理が可能)の感度は93.7%,特異度は98.8%である.2012年11月に新たなIGRAとしてT-SPOTTBが保険適用となった.これはenzyme-linked immunospot法を用いた方法であり,感度97.5%,特異度99.1%である.IGRAsは,接触者検診,医療関係者の結核管理,結核の補助診断などに用いられる. 診断 肺結核の診断は痰から結核菌を検出することにより確定する.喀痰培養検査は日にちを変えて3回行う.喀痰検査で結核菌を検出できない場合は,胃液検査あるいは気管支鏡検査を行い病変部の気管支洗浄あるいは肺生検を行う.喀痰塗抹検査は,現在では集菌法が用いられており,抗酸菌染色で染まる菌数により,(1+),(2+),(3+)という記載法で示される.菌の同定には,痰などの臨床検体を用いて,結核菌のRNAやDNAを増幅する方法が汎用されている.培養菌についても同様に核酸同定法が行われている. 鑑別診断 結核症は全身の臓器に起こり得る.鑑別を要する疾患は,気管支結核と気管支喘息,喉頭結核と喉頭腫 瘍,乾酪性肺炎と細菌性肺炎,高齢者肺結核と誤嚥性肺炎,脊椎カリエスと骨粗鬆症・脊椎炎,腸結核と腸炎・Crohn病・腫瘍,関節結核と関節炎,脳結核と脳腫瘍,女性性器結核と卵巣・子宮体腫瘍,頸部リンパ節結核と転移性腫瘍などである. 経過・予後 治療が順調に経過する条件は,耐性結核菌でないことと副反応がないことである.感受性結核菌であれば,標準治療を行えば治癒は比較的容易である.しかし,耐性結核菌では治療に難渋することがある.特に,イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP)両剤耐性菌は多剤耐性結核菌といわれ,予後不良である.結核の治療では3~4種類の薬剤を長期に投与するので,副反応が起こりやすい.副反応としては薬疹,肝機能障害,発熱が多く,軽度の場合は抗結核薬の継続は可能であるが,重度の場合はすべての薬剤を中止とする.副反応が改善した後に,各薬剤を少量から始めて増量し,至適量にする減感作療法を行う(日本結核病学会,2012). 治療 結核治療の目的は,体内に存在する結核菌を撲滅し,耐性菌の発育を阻止し,治療終了後の再発を防ぐことである.このためには,感受性のある薬剤の使用(必ず培養検査,感受性検査を行う),複数の薬剤の使用(感受性薬剤3剤以上),一定期間(少なくとも6カ月)の継続,規則正しい服薬が必要である. 1)初回標準治療法(日本結核病学会,2012): ①初期2カ月間はピラジナミド(PZA)を加えたINH・RFP・エタンブトール(EB)(またはストレプトマイシン(SM))の4剤併用,その後INH・RFPの2剤併用4カ月間の合計6カ月間.②INH・RFP・EB(またはSM)の3剤併用2カ月間,その後INH・RFPの2剤併用7カ月間,合計9カ月間. 通常は①を選択する.高齢者などPZAを投与できない例に対しては,②を選択する.EB耐性よりもSM耐性の頻度が高いので,通常はEBを選択する. 2)標準治療が行えない場合の治療法: 最も強力な抗結核薬であるINHあるいはRFPのいずれかを,耐性あるいは副作用で用いることができないときは,残った薬剤を組み合わせて標準療法よりも長期間投与する(日本結核病学会,2012). INH,RFPを含む2剤以上に耐性(多剤耐性)の場合には,治療方法の選択が難しく,また長期間の治療を要する.現時点では保険適応となっていないフルオロキノロンも用いる.病変が比較的限局している場合は,病変部の外科的切除も考慮すべきである.[永井英明] ■文献 公益財団法人結核予防会編: 結核の統計2012, 結核予防会,東京,2012.日本結核病学会編: 結核診療ガイドライン(改訂第2版), 南江堂,東京,2012. 出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報