日本大百科全書(ニッポニカ) 「統制理論」の意味・わかりやすい解説
統制理論
とうせいりろん
control theory
社会的または心理的な統制力が弱まることで、犯罪や非行が発生すると考える理論。コントロール理論ともいう。本来はすべての人間に犯罪や非行の動機があるにもかかわらず、社会的または心理的な統制力によって犯罪や非行が抑止されていると考える。統制理論は性悪説を前提としているため、性善説を前提とする学習理論と対立する見解がある。
広義の統制理論では、刑事司法システムや家庭でのしつけなどを広範囲に扱う。統制の主体も、フォーマル・コントロール(警察や裁判所などの公的権限を有する機関の活動)、インフォーマル・コントロール(しつけをする親や地域に目配りする住民などの活動)、セミフォーマル・コントロール(NPOや警備保障などの法人の活動)の三つに分けられる。これらの主体による統制力が、犯罪や非行の抑止要因となっている。いいかえれば、これらの主体による統制力が弱まれば、犯罪や非行が発生することになる。
狭義の統制理論は、アメリカの社会学者ハーシTravis Hirschi(1935― )のボンド理論(社会的絆(きずな)理論)をさす。ボンドbondには、他者への愛着attachment、目標達成のために個人が積み重ねてきた投資commitment、慣習的活動に巻き込まれていることinvolvement、規範や道徳への信念belief、の四つがある。これらのボンドが犯罪や非行の抑止要因となっている。いいかえれば、他者への愛情が感じられなかったり、積み重ねてきた投資が無為になったりすれば、ボンドの統制力が弱まって犯罪や非行が発生することになる。
おもに社会病理学の領域で発展した理論であるが、親学問の社会学に加えて、教育学、法学、心理学、社会福祉学といった隣接領域で用いられることも多い。
[田中智仁]
『那須宗一編著『犯罪統制の近代化』(1976・ぎょうせい)』▽『小宮信夫著『NPOによるセミフォーマルな犯罪統制』(2001・立花書房)』▽『田中智仁著『警備業の社会学――「安全神話崩壊」の不安とリスクに対するコントロール』(2009・明石書店)』▽『T・ハーシ著、森田洋司・清水新二監訳『非行の原因――家庭・学校・社会へのつながりを求めて』新装版(2010・文化書房博文社)』