犯罪社会学(読み)はんざいしゃかいがく(英語表記)sociological criminology

精選版 日本国語大辞典 「犯罪社会学」の意味・読み・例文・類語

はんざい‐しゃかいがく ‥シャクヮイガク【犯罪社会学】

〘名〙 犯罪を社会現象として研究する、社会学の分野の一つ。犯罪と社会の相関関係を研究する分野と、予防や矯正に関する分野がある。

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デジタル大辞泉 「犯罪社会学」の意味・読み・例文・類語

はんざい‐しゃかいがく〔‐シヤクワイガク〕【犯罪社会学】

犯罪を社会現象として研究する社会学の一分野。犯罪と社会の相関関係を研究する分野と予防や矯正に関する分野とがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「犯罪社会学」の意味・わかりやすい解説

犯罪社会学
はんざいしゃかいがく
sociological criminology

社会学的な手法・知見を用いて犯罪現象、犯罪・非行行為、犯罪者およびこれらに対する社会統制にかかわる事象を研究する学問領域。社会学あるいは犯罪学の一部門をなす。犯罪社会学は、伝統的にはとくに犯罪・非行の社会学的原因論を展開してきたが、これは社会学的研究の進展したアメリカにおける学問状況の影響を強く受けたためである。今日では広く法現象法制度の社会的意義も含むようになり、法社会学との境界があいまいになりつつある。

[守山 正]

歴史

犯罪社会学の名称は、1880年代にイタリアのフェリーやコラヤーニNapoleone Colajanni(1847―1921)が自らの著に用いたのが最初であるが、すでに1830年代ベルギーのケトレーやフランスのゲリーが、当時のフランスの犯罪統計を用いて犯罪現象を分析し、社会環境と犯罪の関係を論じており、その視座はみられた。フェリーはイタリア実証学派の一人であるが、先駆的なロンブローゾの生物学的あるいは人類学的手法に加えて、社会主義者として広く犯罪原因としての社会的要因も強調した。また、フランス環境学派に属するラカッサーニュA. Lacassagne(1843/1844―1924)は犯罪原因に関する社会環境説、タルドは犯罪模倣説を展開した。さらに、社会学者デュルケームは「犯罪のない社会は異常である」として、犯罪の社会進化的機能を論じた。その後、ヨーロッパでは20世紀に入ってオランダのボンガーW. A. Bonger(1876―1940)、ドイツのリープマンMoritz Liepmann(1869―1928)、エクスナーFranz Exner(1802―1853)などが経済と犯罪、戦争と犯罪などの関係を社会学的に分析した。

 20世紀において、犯罪社会学がもっとも発展したのはアメリカであった。とりわけ1930年ごろから、シカゴ大学社会学部を中心にシカゴ学派が形成され、同派は犯罪に関する数々の調査研究やそれに基づく基礎理論を生み出した。当時シカゴは、さまざまな民族が移民として入り交じり、犯罪組織も暗躍して、社会学的研究の素材に事欠かない状況がみられた。犯罪学が他の分野から独立した学問領域として成立するのも、このころの研究が端緒となっている。まず生態学を応用して、ショーClifford R. Shaw(1895―1957)とマッケイHenry D. McKay(1899―1980)はシカゴにおける非行少年の居住地域と地域特性の研究を行い、トマスは不適応少女の研究を、スラッシャーFrederic M. Thrasher(1892―1962)はギャング研究を行った。またサザランドEdwin H. Sutherland(1883―1950)の分化的接触理論、セリンThorsten Sellin(1896―1994)の文化葛藤(かっとう)理論、コーエンAlbert K. Cohen(1918―2014)の非行副次文化理論、R・K・マートンの緊張理論、マッツアDavid Matza(1930―2018)の漂流理論などが続々と提唱された。これらは一般に、犯罪原因として貧困、スラム、社会解体、非行集団などの社会的状況を分析するものであったが、1960年代から1970年代になると犯罪原因をむしろ本人以外の社会側、とくに公的機関による逸脱者の取扱い方に求めるラベリング理論、刑法そのものを階級対立の産物とみるニュー・クリミノロジーなどが一時的に有力となった。今日の犯罪社会学においては、一般的にいえば、社会的価値の遵守、欲望の充足に対する社会や自己による統制を問う社会統制論が有力であるが、他方で犯罪を地理的情報から分析する新シカゴ学派や、犯罪発生環境の物理的要因を重視する環境犯罪学なども台頭しつつある。

[守山 正]

研究領域・方法

研究領域には主として、犯罪の社会的意義・機能、犯罪現象や社会変動の量的質的分析、犯罪類型別の分析と対策、集団論的な非行集団・組織犯罪の分析、犯罪・非行原因論、犯罪者の処遇と犯罪・非行の予測、刑事司法制度・法執行機関の機能、子供の社会化などがあり、多岐にわたる。また、社会の複雑化に伴い、ますます対象領域を広げており、被害者、報道、宗教等をそのテーマとして取り扱う傾向がみられる。他方、犯罪社会学の方法は経験的データを収集し、その統計を駆使した実証研究が基本であるが、その研究方法は多様化しており、伝統的な公的統計・調査結果の数量的分析やコーホート(年齢や性別など共通の属性をもつ人口群)の長期追跡法、フォローアップ・評価研究に加えて、コンピュータ等科学技術の手段の発達から、たとえばGIS(地理情報システム)を使ったマッピングなどの技法も用いられている。

[守山 正]

日本における発展

第二次世界大戦前に、その名称をかざした書物が若干出版されてはいるが、犯罪社会学としてみるべき研究成果はなく、ただ社会学者がデュルケームやフェリーの翻訳や紹介を行い、あるいは各個の関心から個別の犯罪を研究するにとどまった。それらの研究もどちらかというと刑事学の一部をなし、その分析も科学的とはいえず、社会学的な見地から考察する者は少なかった。

 第二次世界大戦後になると、敗戦直後の社会的経済的混乱から犯罪の増加がみられ、こうした反社会的行為に対する研究の機運が生まれた。社会学的な観点から、的屋や街娼(がいしょう)の実態調査などが行われている。またこの時期、「非行」のことばが生まれ、非行や青少年犯罪に対する関心から、その原因論の研究が展開された。これらの研究は、社会学を専攻する実務家によるものが目だった。1950年代になると、経済的安定期を迎えるなかで、交通犯罪の増加、少年非行の低年齢化・粗暴化・集団化、犯罪の都市集中化といった特徴がみられ、犯罪社会学の領域において、地域、家庭、社会変動と犯罪・非行の関係が論じられた。1960年代を迎えると、犯罪社会学の体系化を図る動きがみられ、岩井弘融(ひろあき)(1919―2013)の『犯罪社会学』が出版されている。さらには科学警察研究所に防犯少年部が創設され、それに所属する研究員による社会学的・心理学的研究が進められてきている。そして、1974年には、1940年代後半から活動を続けてきた犯罪社会学研究会が発展的に解消し、日本犯罪社会学会が、社会学はもちろん、刑事法学、心理学、精神医学、教育学の研究者を中心に発足し、今日に至っている。現在の日本の犯罪社会学は、ひろく犯罪現象やそれに関する法現象・法制度、さらには被害者も視野に入れた研究が行われており、いわば犯罪学という総合科学に収斂(しゅうれん)する傾向がみられる。

[守山 正]

『岩井弘融著『犯罪社会学』(1964・弘文堂)』『那須宗一・橋本重三郎編著『犯罪社会学』(1968・川島書店)』『日本犯罪社会学会編『犯罪社会学』(1975・有斐閣)』『四方寿雄著『犯罪社会学』(1986・学文社)』『G・B・ヴォルド、T・J・バーナード著、平野龍一・岩井弘融監訳『犯罪学――理論的考察』(1990・東京大学出版会)』『守山正・西村春夫著『犯罪学への招待』(2001・日本評論社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「犯罪社会学」の意味・わかりやすい解説

犯罪社会学
はんざいしゃかいがく
Kriminalsoziologie

犯罪の原因,性質,結果,種類および犯罪の主体などを社会学的に研究する学問。犯罪行為や行為主体としての犯罪者を当該社会の1個の社会現象として分析するとともに,その研究の対象は法的概念による犯罪よりも範囲が広く,一般には非同調行動や逸脱行動などをも含め,社会規範に反する行為をすべて対象としている。研究領域には,犯罪現象の量的・質的分析,犯罪の文化的背景の解明,犯罪を生み出す社会構造の分析,犯罪者や非行者のパーソナリティの社会的形成過程の分析および実践上での矯正や刑罰の分析などがある。

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