絵師草紙(読み)エシゾウシ

デジタル大辞泉 「絵師草紙」の意味・読み・例文・類語

えしぞうし〔ヱシザウシ〕【絵師草紙】

鎌倉時代絵巻。1巻。伊予国を賜った喜びがはかなくついえ、仏道に志すようになる貧乏絵師身の上を、滑稽こっけい味を交えて自由な筆致で描いたもの。えしのそうし

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改訂新版 世界大百科事典 「絵師草紙」の意味・わかりやすい解説

絵師草紙 (えしのそうし)

鎌倉時代の絵巻。極貧の生活を強いられている宮廷画(絵)師のあわれな話を,絵・詞3段の1巻におさめた14世紀前半の作品。御物。伊予国の所領知行の宣旨を受け,祝宴を開いて大振舞いをしたが,年貢はすでに前の領主に取られて後の祭り,上奏して窮状を訴えるが甲斐なく,ついには息子を仏門に入れ,自ら事の真相絵筆をとって描きのこすという内容。宮廷画家下級ながら一定の官位を有する廷臣であったが,経済的基盤に欠け,所領知行も困難であったことが知られる。画面は視点を近づけ,図柄を大きくとり,のびやかな筆線で動きに富む人物姿態や表情を的確にとらえている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「絵師草紙」の意味・わかりやすい解説

絵師草紙
えしのそうし

ある貧しい絵師に関する逸話を描いた絵巻。伊予守(いよのかみ)に任ぜられた絵師が一族を集めて祝宴を開いたが、喜びもつかのま、領地は他人にとられて年貢もないありさまである。なんとか家を興そうと、絵の奉行(ぶぎょう)をしている法勝寺(ほっしょうじ)の上司にすがってみたが、らちがあかない。家はますます貧しくなり、ついに息子を真言宗の寺に入れ、自分も仏道に志すという物語を、哀れに、またユーモラスに描いている。絵は太めの描線を駆使し、人物の顔や姿態を誇張的にとらえているが、現実的な迫力に富む。鎌倉時代(14世紀)の制作で、野趣のある画風が印象的である。御物。

[村重 寧]

『『日本絵巻大成11』(1977・中央公論社)』『『新修日本絵巻物全集18』(1979・角川書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「絵師草紙」の意味・わかりやすい解説

絵師草紙
えしのそうし

貧乏な絵師が伊予国 (愛媛県) を賜わり喜ぶが,のちに実収がないことがわかり落胆するという話を絵巻としたもの。 14世紀前半の作。紙本着色,1巻。宮内庁三の丸尚蔵館蔵。詞,絵各3段から成り,内容,画風ともに特色のある作品。伸びやかな筆づかいで人物を大ぶりに描き,滑稽味にあふれる。また建物や器物の描写も的確で,絵師の生活のありさまをよく伝えている。

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