ある貧しい絵師に関する逸話を描いた絵巻。伊予守(いよのかみ)に任ぜられた絵師が一族を集めて祝宴を開いたが、喜びもつかのま、領地は他人にとられて年貢もないありさまである。なんとか家を興そうと、絵の奉行(ぶぎょう)をしている法勝寺(ほっしょうじ)の上司にすがってみたが、らちがあかない。家はますます貧しくなり、ついに息子を真言宗の寺に入れ、自分も仏道に志すという物語を、哀れに、またユーモラスに描いている。絵は太めの描線を駆使し、人物の顔や姿態を誇張的にとらえているが、現実的な迫力に富む。鎌倉時代(14世紀)の制作で、野趣のある画風が印象的である。御物。
[村重 寧]
『『日本絵巻大成11』(1977・中央公論社)』▽『『新修日本絵巻物全集18』(1979・角川書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報