改訂新版 世界大百科事典 「絶対不等式」の意味・わかりやすい解説
絶対不等式 (ぜったいふとうしき)
absolute inequality
不等式a2+b2+c2≧bc+ca+abは,文字a,b,cがどのような実数であっても成り立つが,不等式x2-3x+2<0は1<x<2なる範囲のxについてのみ成り立つ。第1の例のように,その中に含まれる文字にどのような実数値を与えても成り立つ不等式を絶対不等式といい,第2の例のように,その中に含まれる文字が限定されたある範囲に属するときにのみ成り立つ不等式を条件付不等式(条件不等式ともいう)という。しかし,文字を変数と考えるとき,a≧0,b≧0のように十分一般的な変域において成り立つ不等式は,絶対不等式と呼ぶ。例えば,
はa≧0,b≧0として成り立つ絶対不等式と考える。これは二つの負でない実数の相加平均は相乗平均より小さくないことを表しているが,一般に,n個の正の実数の間にも,
という絶対不等式が成り立つ。すなわち,
等号はa1=a2=……=anのときに成立する。
いくつかの重要な絶対不等式の例をあげる。平面上の二つのベクトルa=(a1,a2),b=(b1,b2)のなす角をθとすると,cosθ=(a,b)/|a|・|b|(分子はベクトルの内積,分母はベクトルの長さの積)だから,|cosθ|≦1なることにより次の不等式が得られる。
(a1b1+a2b2)2≦(a12+a22)(b12+b22)
n次元のベクトルについても,同様にして,
これをコーシー=シュワルツの不等式という。また,ベクトルの長さに関してよく知られた関係|a+b|≦|a|+|b|を成分で表したものをn次元のベクトルについて書けば,
さらに一般に,任意のp≧1に対して,不等式,
が成立する。これをミンコフスキーの不等式という(0<p<1のときは逆向きの不等式が成立する)。(1),(2)において等号が成立するのはaiとbiとが比例するときである。(1)と(2)を積分可能な関数f(x),g(x)に拡張した次の(1′),(2′)もそれぞれシュワルツの不等式,ミンコフスキーの不等式と呼ばれる。
以上のほか,行列式D=det(aij)に関する, ……(アダマールの定理)
も有名な絶対不等式である。
執筆者:伊藤 清三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報