アダマール(読み)あだまーる(英語表記)Jacques Hadamard

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アダマール」の意味・わかりやすい解説

アダマール
あだまーる
Jacques Hadamard
(1865―1963)

フランスの数学者。ベルサイユに生まれる。エコール・ノルマル・シュペリュール(高等師範学校)で学び、コレージュ・ド・フランス、ついでエコール・ポリテクニク(理工科大学校)の教授となった。ユダヤ系学者として平和主義的政治意識が強く、1940年定年後アメリカに亡命し、コロンビア大学で研究を続けたが、1947年パリに帰った。1892年の学位論文整級数収束半径を定める公式を確立した。関数論では彼の名を冠する三円定理、空隙(くうげき)定理、乗法定理なども著名である。解析数論では素数定理を証明した。そのほか、波動方程式の研究で導入した発散積分の有限部分の概念、行列式の評価、変分学における諸成果など、広く解析学における独創的な業績が多い。幾何学や数学教育、流体力学に関する論著も数多くみられる。晩年に至るまで研究生活を続け、生涯の論著は320編以上に及ぶ。

[小松勇作]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アダマール」の意味・わかりやすい解説

アダマール
Hadamard, Jacques-Salomon

[生]1865.12.8. ベルサイユ
[没]1963.10.17. パリ
フランスの数学者。パリのエコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) 卒業 (1888) 後,パリのリセの教師 (90~93) ,ボルドーの理科大学講師 (93~97) ,パリ大学講師 (97) ,同教授 (1900) ,コレージュ・ド・フランス教授 (1897~1935) ,エコール・ポリテクニク教授 (12~35) ,中央工芸学校教授 (20~35) 。第2次世界大戦中はアメリカに亡命。数学のすべての領域に関心をもつ。 70歳記念論文集 (35) は 280編の論文を収め,解析関数,数論,実関数論,微分方程式論,変分法および関数解析,幾何学,流体力学の7部に分けられている。なかでも重要なのは,1895年の素数定理の完全な証明,および偏微分方程式におけるコーシーの問題 (→初期値問題 ) の研究である。特に発散積分の有限部分の概念の導入は,L.シュワルツの超関数の理論の先駆となった。 A.ドレフュス遠縁の親戚。政治的には革新的。 1950年にハーバード大学で開かれた国際数学者会議の際,彼が共産主義者であるという理由で,アメリカ政府がビザ発行を渋ったことがある。

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