家庭医学館 「網膜中心動脈閉塞症」の解説
もうまくちゅうしんどうみゃくへいそくしょう【網膜中心動脈閉塞症 Central Retinal Artery Occlusion (CRAO)】
網膜に酸素や栄養を送り込んでいるのが網膜中心動脈ですが、この動脈がさまざまな原因によって閉塞する(動脈の内腔(ないくう)がふさがって血液が流れなくなる)と、網膜に酸素や栄養がゆきとどかなくなります。その結果、突然、視界が真っ暗になり、何も見えなくなります。しかし、目の痛みはあまりありません。なお、ほとんどの場合、片方の目だけにおこります。
発病はあまりにも急激で、そのため本人もいつ発病したかを明確に覚えています。
また、この病気は、眼科の病気のなかでも、もっとも早急な治療が求められるものの1つで、その対応は一刻をあらそいます。
[原因]
網膜中心動脈が閉塞をおこす原因は、動脈硬化症(どうみゃくこうかしょう)(内頸動脈(ないけいどうみゃく)の動脈硬化など)、心臓の病気(不整脈(ふせいみゃく)など)、骨折による脂肪塞栓(しぼうそくせん)、側頭動脈炎(そくとうどうみゃくえん)などさまざまです。網膜中心動脈の一部がけいれんをおこし、その部分で血液の流れが止まってしまうこともあります。
心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)の人では、患部からはがれた組織のくず(血栓(けっせん))が、動脈中を流れて網膜中心動脈に達し、そこでひっかかって、つまってしまうことがあります。酸素や栄養の供給経路を断たれた網膜は、数分~数十分というごく短い時間のうちに強く障害され、視力の回復が困難になります。
[検査と診断]
散瞳薬(さんどうやく)(瞳孔(どうこう)を大きくする目薬)を点眼したうえで、眼底検査を行ないます。網膜中心動脈に閉塞がおこっていれば、網膜の色が白く濁って、動脈が細くなっています。
さらに、蛍光色素(けいこうしきそ)を注射して、眼底カメラで撮影する蛍光眼底検査(けいこうがんていけんさ)を行ない、動脈の循環時間を測って、どの程度血管がつまっているかを調べます。
[治療]
一刻も早く血流を回復させるために、さまざまな治療が行なわれます。
早期には眼球マッサージが行なわれ、血管拡張薬や血栓溶解薬が使用されます。さらに眼内の圧力を低くして網膜動脈の血流を増やすため、角膜(かくまく)(黒目(くろめ))のふちを小さく切開して眼球内の水を抜き取ることもあります。
軽度の閉塞ならば視力は徐々に回復していきますが、発病して間もないうちに網膜が強い障害を受けた場合は、適切な治療を行なっても視力の回復が困難になります。