綿繰器(読み)わたくりき(その他表記)gin
cotton gin

改訂新版 世界大百科事典 「綿繰器」の意味・わかりやすい解説

綿繰器(機) (わたくりき)
gin
cotton gin

コットンジンともいう。摘み取ってきた実綿(みわた)から種子を除くことを綿繰りというが,綿の繊維は種子の表皮に生えていて,手で引き離すにはたいへん手間がかかる。在来の綿繰器は,1対の木製ローラーが近接して枠にはめられていて,一方のローラーに付いているハンドルを回すと,ローラーの端に刻まれたらせん状の歯車により,他方のローラーが反対方向に回転するようになっている。この1対のローラーの間に実綿の繊維をかませると繊維はローラーの間に引き込まれていくが,種子は通り抜けられないので繊維から離され手前に落ちる。この型の綿繰器は古代インドですでに使われていたといわれている。日本へは綿の伝来とともに伝えられたのであろう。綿繰りの機械化は18世紀の後半からアメリカで始まったが,1793年E.ホイットニーにより発明された〈ソージンsaw gin〉(鋸歯式綿繰機)が,その後の基本型となった。これは,円板のこぎりのようなディスクが多数並んでいて,細いスリットのあけられた板から歯が出ているものである。ディスクが回転すると歯で繊維をひっかけスリットの中に取り込み,種子は板にさえぎられ繊維と引き離されて下に落ちる。実際の機械にはこのほかに,実綿の供給量を一定にする装置や,ディスクの歯についた繊維を回収する装置などが付加されている。動力には水力が用いられ,ジンginという名はengineを略したものである。繰綿は重量にして実綿の半分以下になるため,輸送の便から綿繰りは生産地でなされ,手回しの綿繰器では1日約50ポンド(約22.7kg)の繰綿が得られていたが,ホイットニーのソージンでは一躍50倍(のち改良されて300倍)の成績を上げた。当時のアメリカで栽培されていたのは西インド諸島を中心とするカイトウメン(海島綿)であったが,ソージンの発明によって綿繰りに難点のあったリクチメン陸地綿)の栽培が注目されるようになり,アメリカ南部諸州に綿作の中心が移り,コットンベルト(綿花地帯)と呼ばれるようになった。ソージンはC.H.マコーミック刈取機(1834),J.ディアの鋼鉄製プラウ(1840ころ)と並んで,アメリカ農業機械界の3大発明といわれている。日本では,近代の外国綿の輸入により,機械化に至るまえに綿作そのものとともに綿繰りもすたれてしまったが,第2次大戦後原綿の輸入が止まったため復活した時期があった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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