日本大百科全書(ニッポニカ) 「総合交通体系」の意味・わかりやすい解説
総合交通体系
そうごうこうつうたいけい
主として1970年代に、政府がそれぞれの交通機関の特色を活かして、各交通機関が適切に利用されるように誘導を図った政策の一つ。第二次世界大戦後の急速な自動車交通の伸びを受けて、道路混雑、大気汚染、交通事故、国鉄の経営悪化などの交通問題が深刻化していた。総合交通体系の構築は、これらの諸問題に一括して対処しようとしたものである。1971年(昭和46)に出された、運輸大臣の諮問機関である運輸政策審議会(現、交通政策審議会)の「総合交通体系に関する答申」は、日本におけるこの議論の核となった。
自動車、鉄道、航空といった交通機関をバランスよく配置しようとする政策的意図があったので、野放図(のほうず)な自動車交通の伸びを抑制し、鉄道の復権を図ることなどが考えられた。鉄道はインフラを自ら整備するために多額の費用を負担しているにもかかわらず、自動車や航空では政府や地方自治体が道路や空港の整備を行っているので、これは「イコールフッティング(各種交通機関の平等な条件の下における競争)」とはなっていない、という論理が総合交通体系の議論に大きな役割を果たした。具体的には、ガソリン税や軽油引取税その他、あるいは空港使用料などが大幅に値上げされた。しかしその内実は、競争力を落とした鉄道を擁護しようとしたものではないか、と現在では解釈されることがある。
その後規制緩和が進み、政府が積極的に交通機関の最適配置に政策介入するよりも、健全な交通機関どうしの競争を通じて、市場による成果を尊重しようとする姿勢が世界的にも主流となっている。しかし、交通機関を全体的な視点から眺めて体系的に整備するという視点は否定されておらず、21世紀に入ってからは総合「的」交通体系ということばが用いられている。このことばは、従来の「総合交通体系」の考え方とは一線を画すものであることを意識しているものと思われる。
[竹内健蔵]
『斎藤峻彦著『交通市場政策の構造』(1991・中央経済社)』