特定の臓器に着目するのではなく、病気を心理的、身体的な両面から診る。一人の患者に継続的にかかわり、必要に応じて専門医に紹介。予防や介護、みとりなど保健、介護、福祉分野でも対応する。欧米では以前から総合医や家庭医として医療制度の中に組み込まれている。日本では長らく規定する身分や資格はなかったが、高齢化などによる医療ニーズの変化を受け、2018年度から総合診療の専門医制度が始まる。
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専門分野をもちつつ、基本領域の系統的な知識に基づいた幅広い総合的な診療能力を備え、病院の総合診療科や地域において診療に携わる医師。基本的には、患者の身近にいて、患者が地域生活を送るうえでの全体的で多様な健康上のニーズに対応できるよう、総合的で多様な医療サービスを提供し、おもによく遭遇する疾患(コモン・ディジーズcommon disease)の診療、とくに初期対応にかかわる。また、先進医療や特殊医療にも精通していることが求められる。さらに、特定臓器に対する専門的治療が必要とされる場合は、各領域の専門医を適切に紹介する役割を担う。しかし、総合診療医の医師像については、内科医の診療とどう区別するかなどという点も含めて、まだ議論が続けられているのが実情である。
社会の高齢化につれて、2025年には慢性疾患を複数もつような高齢者が相当数に上り、総合診療のニーズがさらに高まると予測されている。また、体の不調を感じたとき、患者はどの診療科を受診すべきか判断できないことも多く、最初の窓口としてその任にあたる開業医や病院の総合診療科にいる総合診療医の重要性がますます高まっている。さらに、地域で生活している患者を診るときは、その家族構成や仕事の内容および心身の健康を総合的に見据えたうえで診療にあたらなければならないという事情がある。
そこで、こうした医療ニーズにこたえるため、厚生労働省の「専門医の在(あ)り方に関する検討会」が提示した報告書に沿って、内科や外科など基本領域専門医のなかに「総合診療医」が加えられることになった。2012年(平成24)に同検討会がまとめた総合診療医の定義では、「頻度の高い疾病(しっぺい)と障害、それらの予防、保健と福祉など、健康にかかわる幅広い問題について、わが国の医療体制の中で、適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的に提供できる医師」とされている。また、新たな専門医制度をつくる目的で日本専門医機構が発足したことを契機に、専門資格として「総合診療専門医」が位置づけられることになった。日本専門医機構専属の委員会において研修プログラムの詳細な検討が重ねられ、2017年度から研修がスタートする。
これまで、特定疾病治療に対する社会のニーズにこたえるために医療の高度専門分化が急速に進んだが、一方で一人の患者を総合的に診て診療にあたるジェネラリストの必要性が長い間訴えられてきた。そこで1980年代後半から、厚生労働省や日本医師会などが協同して、地域を支える基本領域の幅広い専門知識をもつ医師を養成すべく検討を重ねてきた経緯がある。呼称としては、日本医師会が提案する「かかりつけ医」や、日本プライマリ・ケア連合学会の認定する「家庭医療専門医」「プライマリ・ケア認定医」などが使われている。そのほかにも、「家庭医」「総合医」「病院総合医」などがあるが、これらについては「かかりつけ医」も含め包括して「総合診療医」とよぶことにすると、日本専門医機構の委員会において大筋の合意をみた。
総合診療専門医の養成を推進するために、日本専門医機構に属する「総合診療専門医に関する委員会」では、医学部卒業後に臨床研修2年間に続き専門医研修を3年間経験するという総合診療専門医の研修プログラムを決めた。具体的には、内科(6か月以上)、小児科(3か月以上)、救急領域(3か月以上)を必修として、合計12か月以上、病院、診療所、総合内科で総合診療に関する専門研修を1年半、さらに外科、産婦人科、整形外科、精神科などの研修を6か月経験し、研修修了後の試験に合格しなくてはならない。
[編集部]
(石川れい子 ライター / 2013年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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