産婦人科(読み)サンフジンカ

デジタル大辞泉 「産婦人科」の意味・読み・例文・類語

さんふじん‐か〔‐クワ〕【産婦人科】

婦人に特有の病気、および妊娠・分娩ぶんべんを扱う医学の臨床科名。

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精選版 日本国語大辞典 「産婦人科」の意味・読み・例文・類語

さんふじん‐か‥クヮ【産婦人科】

  1. 〘 名詞 〙 医学の一分科で、産科婦人科の併称。妊娠、出産、新生児および女性特有の病気を扱う。
    1. [初出の実例]「修一は学校を出ると、附属病院の産婦人科の助手になった」(出典:六白金星(1946)〈織田作之助〉)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「産婦人科」の意味・わかりやすい解説

産婦人科
さんふじんか

産科と婦人科が結合した臨床医学の専門分科の一つ。妊娠・分娩(ぶんべん)および女性性器に関係のある病気を取り扱う臨床科名である。産科学obstetricsは女性の妊娠と出産を対象とする臨床医学の一部門で、医学史上は、女性特有の生理的現象である出産を中心に、女性の経験者による助産部門と外科医学の一部が合体して早くから確立され、外科から独立した。1752年ゲッティンゲン大学で初めて産科学Tokologie(ドイツ語)の教室が開設されている。また婦人科学gynecologyは女性性器を対象とする医学の一部門として長い歴史をもつが、その複雑な生理と病理の解明が遅れ、体系づけられた科学としての成立は産科学などよりやや遅れた。しかし、いずれにしても女性を対象とする学問であり、とくに出産年齢に達した成熟女性を対象の中心に置いており、結婚・妊娠・分娩・産褥(さんじょく)などによって性器に異常をおこしやすいところから、単に「婦人科」とせずに「産婦人科」とする例が多くなった。一方、妊娠・分娩に関する事項は特殊であり、歴史的にも「産院」あるいは「産科」として別に独立させることがある。また、近年の学問的広がりから周産期医学が注目され、母子科学講座を設けたり、母子総合医療センターなどを表示するところも現れた。なお、分娩監視装置による妊婦管理をはじめ、体外受精による不妊症の治療、遺伝相談による先天性異常の予防など、診療面の進歩も著しい。以下、婦人科的診察および特殊検査法について簡単に述べる。

[新井正夫]

問診

初診の際に医師が尋ねる事項は、(1)姓名・年齢・住所、結婚の有無と時期、(2)遺伝的関係や配偶者の伝染性疾患(とくに性病や結核など)の有無、(3)初経(初潮)または閉経の年齢、月経周期の性状(順・不順)、量(凝血の有無を含む)、月経違和症状の程度、最近月経の時日と量など、また最近分娩の時日や分娩経過、流産・早産、満期産の有無とその回数、中絶手術の有無とその回数、授乳の有無とその持続、(4)これまでの性器または他の疾患の有無、(5)主訴の種類・強度・誘因・発現時期、他の医師による診察の有無、などについてである。あらかじめメモを用意しておくと便利である。

[新井正夫]

診察

産婦人科特有のものとして内診がある。患者は内診台にあがり、医師がもっとも診察しやすい一定の体位をとるが、これは専任の看護師が指導する場合が多い。内診は、手指や器具を用いて子宮・卵管卵巣の大きさをはじめ、固さ、移動性、異常の有無を調べるほか、腟(ちつ)および子宮腟部のただれの有無、分泌物や出血の有無と性状などを検査することによって行われる。初めての患者は不安・羞恥(しゅうち)・恐怖などの心理作用から、腹壁を緊張させがちである。そのために医師と患者が直接顔をあわせないよう、カーテンをその間に設けたりして患者の不安や羞恥感をなるべく取り除くよう配慮し、医者自身も患者に安心感と信頼感を与えるように努めることが必要である。内診では腟鏡診を行う。すなわち、腟鏡を使って腟口を開き、腟・子宮腟部のただれの有無、分泌物・出血の有無、性状を検査する。以上が普通の婦人科的診察であるが、さらに病因を追究するためには次のような種々の特殊検査法が行われる。

[新井正夫]

特殊検査法

(1)腟内微生物検査 腟内容や頸管(けいかん)分泌物を採取して、トリコモナス原虫やカンジダ・淋(りん)菌そのほかの病原菌を顕微鏡で検査する。培養によって確かめることもある。

(2)頸管粘液検査 子宮頸管から出る粘液の性状を調べて卵巣の機能を検査する。

(3)月経血培養 不妊の原因となる子宮内膜結核の有無を調べる。

(4)パップ・スメア 性器癌(がん)の早期診断に応用される腟内細胞塗抹検査である。

(5)コルポスコピー 照明付きの拡大鏡により子宮腟部表面を拡大視診して癌と関連の深い病変を検査する。

(6)パンチ・バイオプシー 子宮腟部より小さな組織片を切り取り、病理組織検査をする。以上の(4)(5)(6)は子宮癌の精密検査として行われる。

(7)子宮内膜検査 子宮内膜の病変を知るために、内膜を掻爬(そうは)して組織検査をする。子宮体癌・子宮内膜結核、卵巣機能の良否がわかる。

(8)妊娠反応 胎盤から出る絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピンというホルモンを調べて妊娠の有無、流産の予後、胞状奇胎や絨毛上皮腫(しゅ)の診断に使う。普通、尿中のゴナドトロピンを調べる。妊娠反応は、試験管の中でできる免疫学的方法と、イエウサギに注射して排卵の有無を調べる生物学的方法とがある。近年はラジオ・アイソトープを使って微量のホルモンを測定する免疫学的方法も行われる。

(9)卵管疎通法 卵管が通っているかどうかを検査する方法で、空気を通してみる卵管通気法、水を通してみる卵管通水法、油性または水性の造影剤を入れてX線撮影する子宮卵管造影法がある。子宮卵管造影法は、子宮や卵巣の腫瘍(しゅよう)の診断や頸管の異常をみるためにも利用される。

(10)血中・尿中ホルモンの測定 各種ホルモンの量を調べ、おもに間脳‐下垂体‐卵巣系の働きを検査する。

(11)超音波検査 妊娠3か月の胎児血流、すなわち胎児の生存がわかるドップラー法と、児頭の大きさを計測したり、胎盤の付着部位や胞状奇胎、腫瘍の診断をするなど、いろいろな方法がある。

(12)腹腔(ふくくう)鏡検査 先端に照明とレンズのついた細長い内視鏡を腹壁より腹腔内に挿入し、内性器の病変を観察する方法である。応用として卵管不妊手術が可能である。

(13)骨盤脈管撮影 骨盤腔内に行く動脈に造影剤を入れてX線撮影し、骨盤腔の臓器の異常を調べる。とくに子宮の破壊性胞状奇胎や絨毛上皮腫の診断には不可欠の方法である。

[新井正夫]

『坂元正一・水野正彦・武谷雄二監修『プリンシプル産科婦人科学』改訂版(1997・メジカルビュー社)』『佐藤和雄編『産婦人科20世紀の歩み』(1999・メジカルビュー社)』『佐藤和雄監修『産婦人科臨床コンパス』改訂版(2000・メディカルレビュー社)』『武谷雄二総編集『産婦人科検査診断法』(2001・中山書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「産婦人科」の意味・わかりやすい解説

産婦人科 (さんふじんか)
obstetrics and gynecology

臨床医学の一分野。学問の成立初期には,婦人科学と産科学とは別々に発達してきた。婦人科学gynecologyのgyneco-,gyne-というのは,女性にかかわるという意味の接頭語であるから,語源的にいうと,婦人科学は婦人全体を研究の対象とする学問であるともいえる。しかし出発点においては,臓器別に婦人性器(乳腺を含む)の機能,形態の異常を取り扱うものとされた。そして妊娠,出産という現象は,生殖部門として独特の面があり,昔は経験のある婦人が助産をしていたため,婦人科学とは別個に取り扱われる傾向にあった。このことは,産科学obstetricsという言葉がラテン語のobstare(傍らまたは前に立つ,保護するの意)に由来し,またラテン語の女性名詞形のobstetrixが助産をする女の人を指していることからもわかるであろう。やがて両者の学問としての基礎ができあがると,医学上はもともと同一対象を取り扱うことから,一つの診療科,つまり産婦人科を標榜することになったわけである。学問的広がりから母子科学講座,母子総合医療センターなどの表示も見受けられる。

 産婦人科学は,女性性器の疾病治療を目的として発達分化した学問であるが,女性性器が種属保存には必須の臓器ではあっても,個体の生命維持には直接かかわりのない臓器であるところから,産婦人科の扱う領域に,体外受精などのような,あまりにも人間的な欲望とそれを実現する技術も包みこまれることにもなる。受精後性分化して以降,出生,加齢と老化による変化に至る女性の一生は,間脳,脳下垂体,性腺系という内分泌系の軸を中心に多くのフィードバック機構に支えられた性機能調節機能によっていろどられているといってよい。

 そのような女性にとって妊娠・分娩は生殖年齢期の画期的な重大事件であるが,別の見方をすれば,妊娠・分娩は長い一生の間に加えられた可逆的な内分泌・代謝負荷ということでもある。

 このような意味から,一つあるいはそれ以上の新しい生命を産み出す作業(分娩)を手伝う助産の概念が大きく変わって,産科と婦人科は生殖の生理と病理を統一して取り扱う不可分のものとなり,治療学を主とする他科と異なる特質をもつようになった。

 一般的に婦人科の対象は,第1に性機能の生理と病理の管理で,性分化,思春期,性周期,更年期の異常,避妊,不妊の管理など生殖内分泌領域であり,第2には性器感染症と腫瘍の治療(骨盤外科,化学療法,放射線療法,免疫療法,絨毛(じゆうもう)癌など産科系腫瘍の治療も含む。外国では乳房外科も含むところが多い)である。ヘルペス感染などは性器癌との関連が注目され,胎盤を通しての胎児への垂直感染が問題になっている。悪性腫瘍以外の場合,生殖機能温存のための保存手術がつねに考慮されるのも特徴である。

 医用工学(ME)や内分泌生化学の発達により胎児情報が把握されはじめた結果,産科学は著しい発展を遂げ,超未熟児の保育も行われるようになり,さらに周産期をめぐる胎児学と新生児学の結合による母児のチーム管理が世界の傾向となっている。

 以上のような各領域を含みながら,体外受精,遺伝相談による先天性異常の予防,胎児学,新生児学のなかのプライマリーケア,家族計画,小児・思春期医学,老年婦人科その他の関連領域とともに研究が進められているのが現代の産婦人科学である。
周産期医学
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「産婦人科」の意味・わかりやすい解説

産婦人科
さんふじんか
gynecotocology

臨床医学の一部門で,産科と婦人科の両方をさす。産科は女性特有の生理現象である出産を中心に,経験と外科医学の一部が合体して早くから確立されていた。婦人科は女性性器を対象とする医学の一部門として長い歴史をもつが,その複雑な生理と病理の解明によって,体系づけられた科学として成立するのはやや遅れた。大学医学部,総合病院などでも,両者の独立しているところと,合併しているところがある。

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百科事典マイペディア 「産婦人科」の意味・わかりやすい解説

産婦人科【さんふじんか】

産科婦人科

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