専門医制度(読み)せんもんいせいど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「専門医制度」の意味・わかりやすい解説

専門医制度
せんもんいせいど

専門医の育成を目的とする制度。専門医とは、特定領域について、あるいは特殊技能において有能な医師をいうが、これら専門医は、単に特殊な技術を習熟することによって制度化される場合と、特殊の医療を行う能力のあることを認定する制度によってつくられる場合とがある。医師が今日のように一元的、独占的な医学教育によって養成されるまでは、医療は自由に行えるものであったため、領域を狭く限って技能をより習熟させて医療需要に応じることはまれではなかった。19世紀後半になると各国の医学教育は一元化に向かい、専門的な知識や技術を整理し、広い範囲の医療要求にこたえることをその目的とした。しかしながら、その教育課程においては、教師たちがそれぞれ得意の領域を分担し、その教えを受けた学生たちは医師になったのちも、それらの教師に従って研修することが少なくなかった。また、治療の面では、患者管理の便宜上、同種の患者を集めて病院に収容、診療することも行われたため、専門的な知識、技術が開発され、特定の領域に習熟した医師が誕生していった。

 一方、専門医の認定制度は、1916年アメリカの眼科医会がアメリカ医師会の承認を受けて発足させたのが最初で、広く一般的になったのは第二次世界大戦後であった。2015年現在、アメリカでは24の団体がさまざまな多岐にわたる専門医コースを設けて、厳しい認定制度を設定している。このような形式は多くの国でもほぼ同様に採用されている。

 日本においては、こうした明確な制度が導入されていないため、医師は、医療法において診療科目として標示しうる科目のうちから自主的に選んでそれを掲げることが許されている。これに対し、1962年(昭和37)麻酔学会が麻酔指導医制度を定めたのを皮切りに、2013年(平成25)8月の時点で、日本専門医制評価・認定機構に加盟する83団体が専門医を認定していた。しかし認定基準については欧米に比較すると充分整備されているとはいいがたく、この状況を改善するため、2014年同機構は解散し日本専門医機構が発足して事業内容を引き継ぐとともに、専門医制度の刷新のために整備指針が示された。これによって2017年より新制度のもとに新専門医制度が開始されることになった。

 この制度によれば、新卒医師は初期臨床研修(2年間)終了後に19の基本診療領域(内科、外科、小児科、産婦人科、精神科など)のいずれかの専門医資格を取得することが求められる。その後に、さらに専門性の高いサブスペシャルティ領域(消化器、循環器、呼吸器、血液、内分泌代謝など)の専門医を目ざすという二段構えの専門医制度となる。しかし、一方では専門性が進みすぎることで総合的に診ることがむずかしくなるとの懸念も踏まえて、新制度では基本診療領域に「総合診療専門医」が新設された。欧米でも家庭医や総合医などを専門医の一つとしている。新制度では3年以上の専門研修を受けてはじめて専門医認定資格が得られる。また専門医となっても5年ごとに更新を受けなければならない。

[中川米造・中川 晶 2015年10月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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