極性(読み)キョクセイ(その他表記)polarity

翻訳|polarity

デジタル大辞泉 「極性」の意味・読み・例文・類語

きょく‐せい【極性】

生物体の細胞組織が、ある軸に沿って、形態的・生理的差異を示すこと。植物に茎と根が、動物頭部と尾部が、卵に動物極植物極があるなど。軸性。
電荷分布が正・負それぞれに偏ること。分子内の化学結合電池などについていう。

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精選版 日本国語大辞典 「極性」の意味・読み・例文・類語

きょく‐せい【極性】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 生物体の細胞や組織が、ある軸に沿って形態的、生理的に異なる性質を示すこと。動物の頭部と尾部、植物の根と茎、卵の動物極と植物極などのように発生や生育の部分が軸に沿って区別される場合にいう。軸性。
  3. 電荷の分布が正、負それぞれに偏ること。

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改訂新版 世界大百科事典 「極性」の意味・わかりやすい解説

極性 (きょくせい)
polarity

生物学でいう極性は,細胞,組織,多細胞生物個体が,ある軸方向に沿って生理的または形態的な差異を示すことを意味する。生物体にはさまざまな極性があり,たとえば動物組織を例にとれば,腸粘膜上皮では,柱状の細胞の細胞内器官が基部から順に粒状ミトコンドリア,核,ゴルジ体,糸状ミトコンドリアと分布し,腸管内に開いた細胞表面にのみ多数の微絨毛が形成される。

 多細胞動物の極性は,多くの場合受精卵のもつ極性の影響のもとに,個体発生の過程で決定され,その後の形態形成や再生に関して重要な意味をもつ。ヒドラプラナリアなどのように頂端部(頭部)を基部(尾部)に移植することによって,成体の極性を逆転させうる場合もある。またウニやヒトデの胚を個々の細胞に解離して受精卵から受け継いだ極情報を乱してやっても,これらの細胞は再び集合して正常な形の胚を形成する。このように,極性は細胞に深く根ざした特性であり,一般に理解されている以上に,生命の本質に深くかかわっている可能性がある。

 植物においても極性の存在は形態形成や細胞分化にきわめて重要であり,単細胞植物では細胞の構造的・生理的極性そのものが個体の極性となる。多細胞植物とくに維管束植物では,個体の上と下に頂端分裂組織があり,茎頂分裂組織は茎を,根端分裂組織は根を形成する。したがって茎頂と根端をむすぶような形で極軸polar axisが存在することになり,この軸に沿って葉のような側生器官がつくられる。またほかに側軸lateral axisが生じて腋芽(えきが)のような構造がつくられることも多い。茎頂で形成されたオーキシンの基部への極性輸送などを介して,生体内には軸に沿って勾配(こうばい)が生ずる。

 極性は外的環境によっても左右され,たとえば,褐藻類のフススFususの卵ではその極性がpHや温度の勾配,光照射などによって影響される。また,変形菌類細胞性粘菌では細胞の集合や細胞集団の極性運動が環状AMPなどの走化性物質の勾配にもとづいておこる。おそらく,このような物理的あるいは化学的な勾配が極性の実体であって,勾配の実証とその作用機構の解析は発生生物学の主要な課題である。
執筆者:


極性 (きょくせい)

化学用語。分子または化学結合において電荷分布に偏りがあるとき極性があるといい,それぞれ極性分子polar molecule,極性結合polar bondと呼ぶ。また極性分子からなる物質を極性化合物,液体を極性液体polar liquid,あるいは極性溶媒polar solventと呼び,極性のある置換基を極性基と称する。極性分子は双極子モーメントをもち,誘電率が比較的大きく,その液体は他の極性分子やイオン結合化合物をよく溶かす。水,アルコールはその代表例であり,ほかにクロロホルム,アセトン,クロロベンゼン,トルエンなどが極性溶媒(または極性溶剤)としてよく使われる。種々の分子の双極子モーメントの測定から,その値を分子中の各化学結合に割り振ることができ,その値を結合モーメントといい,それが0でない結合が極性結合である。分子の対称性がよくて,結合モーメントをベクトル的に合成したとき打ち消し合うことがあるので,極性結合のある分子がすべて極性分子であるとは限らない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「極性」の意味・わかりやすい解説

極性
きょくせい

生物体またはそれを構成する組織や細胞が、ある仮想的な軸に沿って、形態的または生理的な、漸次的に変化する差異を示すとき、その生物体または組織や細胞は極性をもつという。動物の多くの卵(たとえばウニや両生類)には動物極から植物極に向かって酸化還元能やリボ核酸濃度などの勾配(こうばい)が存在するし、プラナリアやヒドラを切断すると前方の切断面から頭部が、後方切断面からは尾部の構造が再生して、形態形成の潜在的能力に関する極性があることがわかる。植物では褐藻類のヒバマタの受精卵が仮根を形成する際や、高等植物の再生(切り枝などからの)の際にも極性が観察される。さらに、細胞性粘菌の移動体も先端から後端に向かう生理的勾配がある。このように極性は生物界に広く存在しているきわめて重要な性質である。極性はそこに含まれる細胞が集団中で自らの位置を知るための情報を提供する系であり、細胞の分化は極性なしにはおこらないとさえ考えられる。極性が確立するのは、系の両端に特別の構造があって異なる物質を産生する場合、一方の端から放出される物質が濃度勾配をなす場合、系の各部が微小な方向性をもつ場合などが考えられる。しかし、いずれも理論的仮説にとどまっていて、極性の実体はなお明らかではなく、その解明は生物学の一つの基本的課題となっている。

[八杉貞雄]

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百科事典マイペディア 「極性」の意味・わかりやすい解説

極性【きょくせい】

生物体で,ある軸に沿って形態的・生理的な性質の連続的な差異がみられる場合,その軸に関して極性が成り立つという。動物の極性は多くの場合,受精卵のもつ極性(動物極と植物極)に起源をもち,プラナリアの切片の前面に向いた切断面からは頭部が,後方に向いた切断面からは尾部が再生する例にみられるように形態形成に重要な役割を果たしている。多細胞植物では,茎と根の先端に分裂組織があるため,茎頂と根端を続ぶ形の極性が存在する。たとえばオーキシンは茎頂で生産されるため,下に向かって濃度の勾配(こうばい)ができる。→(生物)

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化学辞典 第2版 「極性」の解説

極性
キョクセイ
polarity

分子全体として,あるいは分子内の2原子間の結合において,正の電荷(原子核)と負の電荷(電子)の電気的重心の位置が一致しないため,分子内または結合内に正負の極が生じることをいう.極性の大きさは,分子の場合は永久双極子モーメントで,結合の場合は結合モーメントで数量的に表される.[別用語参照]極性分子

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栄養・生化学辞典 「極性」の解説

極性

 物質の構造の部分によって,特に電気的性質や親水性や疎水性などの性質が非均一に分布している状態.

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