日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナフタレン」の意味・わかりやすい解説
ナフタレン
なふたれん
naphthalene
ベンゼンとともに、代表的な芳香族炭化水素の一つ。ナフタリンともいう。室温でも揮発性に富み、特有のにおいを有し防虫剤として用いられる。無色の板状結晶。水には不溶だが各種有機溶剤に溶ける。石炭タール中にもっとも多量に含まれる成分で、ナフタリン油を強制冷却すると結晶として析出する。石油系の原料としては重質分解油、ナフサ分解油などがある。
芳香族化合物に特徴的な求電子置換反応を示す。たとえば、ハロゲン、硝酸によりα(アルファ)-位(1位)にハロゲン化、ニトロ化を受け、濃硫酸との反応においては高温では主としてβ(ベータ)-位(2位)で、また低温ではα-位にスルホン化を受ける。得られたナフタレンスルホン酸は、アルカリ融解によりα-およびβ-ナフトールを与える。さらにβ-ナフトールを加圧下でアンモニア、亜硫酸アンモニウムと加熱するとα-およびβ-ナフチルアミンが導かれる(ブッヘラー反応)。これらナフタレンの置換誘導体は、染料中間体、また合成樹脂、界面活性剤の製造に用いられる( )。五酸化バナジウムを触媒とするナフタレンの空気酸化は無水フタル酸の工業的製造法である。無水フタル酸からアントラキノンやアントラニル酸が導かれ、さらにインダンスレン系染料が合成される。またナフタレンを水素化すると、有用な溶剤であるテトラリンやデカリンを生成する。
[向井利夫]