職場演劇(読み)しょくばえんげき

改訂新版 世界大百科事典 「職場演劇」の意味・わかりやすい解説

職場演劇 (しょくばえんげき)

会社,工場,官庁等の職場で組織された自主的なサークル演劇活動をいう。このような演劇活動はいうまでもなく世界各国に見られ,とくに第1次世界大戦後のドイツで盛んであったが,それらについては〈プロレタリア演劇〉〈アマチュア演劇〉などの項にゆずることとし,ここでは日本における職場演劇の成立,展開について述べることにする。

 日本の労働運動のなかでは,すでに大正期に自主的な演劇サークルが誕生し,平沢計七らの戯曲創作もあったが,盛んになったのは昭和初めのプロレタリア演劇運動進展においてであった。1928年に創立されたプロット日本プロレタリア演劇同盟)は職場,農村,学校での自主的演劇の成長をスローガンに掲げて,最盛期には200余の演劇サークルが活動を行っていた。なお,これらの演劇活動は〈自主演劇〉とも呼ばれたが,これはドイツ語のSelbständiges Theaterを直訳したものである。

 これらの活動は,戦争によってすべて窒息させられ,壊滅させられたが,第2次世界大戦後の民主主義運動の展開とともに再生し,47年の二・一スト前後には労働組合の文化活動の一つとして,専門演劇人の協力も得て高揚期を迎える。この年に,東京,大阪,京都で,翌48年にはさらに全国各地に誕生した各自立劇団協議会は,同年10月全日本自立劇団協議会(全自協)を結成,350サークルをもって組織した。1947年から49年にかけては毎年〈自立演劇コンクール〉が開催され,これらの運動の中から職場の劇作家として原源一(げんいち)(日立),堀田清美(きよみ),鈴木政男大日本印刷),鈴木元一,大橋喜一らが現れ,その戯曲がさらに専門劇団によって上演される例も数多くあった。しかしこれらの運動は,朝鮮戦争をひかえた占領軍の政策転換とレッドパージによって組合活動家が追放されたことによって崩壊した。

 いったんは崩壊した運動も,数年を経るうちに徐々に盛り返しをみせ,56年には東京自立劇団協議会(東自協)に代わるものとして東京職場演劇懇談会(職演懇)が結成され,戦後の第2高揚期を迎える。ここでは官公労の活動が中心となり,宮本研,木崎周二,長谷川伸一,芳地(ほうち)隆介,東川宗彦らが書き手として現れた。しかし,65年ころから高度経済成長のもとでサークル活動は停滞するようになり,代わって職場よりも地域サークルが自立劇団の中心となっていった。たとえば,黒沢参吉らの京浜協同劇団,こばやしひろしの劇団はぐるま,土屋清らの月曜会などは81年に全日本リアリズム演劇会議を結成して,地域に根ざす演劇を標榜している。現在,これらの活動は必ずしも大きな成果をあげているとはいいがたいものの,職場演劇が戦前・戦後の新劇史において一定の役割を果たしてきたことは忘れることはできないであろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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