フランスの作家ラディゲの小説。1923年に「17歳の小説家」の作品としてセンセーショナルに発表され、作者の早熟の天才の名を高くした。ダダやシュルレアリスムの勃興(ぼっこう)期にあって、新奇を排し、平凡に徹することを選んだ作者は、恋愛を主題とし、主人公の心理の動きを筋立てとする、いわば伝統的な手法のうえにたっている。第一次世界大戦下のパリ近郊を舞台に、時代の異様な空気にいやおうなく浸されて生きる16歳の少年が「出征兵士」の妻マルトとの恋に落ちる。幼さゆえに肉体にとらわれ、若さゆえに残酷を犯すこの恋は、またあらゆる恋と同じく、花開き、熟し、凋落(ちょうらく)する。マルトの死と、その夫の手に残された少年の子どもが悲劇の終末を飾る。作者自身の体験によりつつ鋭利に分析された思春期の心理は、その不条理な側面を含めて普遍的な人間心理の考察へと深められ、20歳で亡くなった作者の早すぎる老成をしのばせる。
[大崎明子]
フランス映画。1947年作品。クロード・オータン・ララ監督。レイモン・ラディゲの同名の小説を、当時有名な脚本家ジャン・オーランシュJean Aurenche(1903―1992)とピエール・ボストPierre Bost(1901―1975)のコンビと監督が組んで脚本を書いた。当時のフランスでは不道徳として上映反対運動が起きた。主人公のフランソワを演じたジェラール・フィリップは、この映画をきっかけにスターの座へ駆け上った。マルト役はミシュリーヌ・プレールMicheline Presle(1922―2024)。日本では1952年(昭和27)に公開。1985年にスコット・マレーScott Murrayが舞台を第二次世界大戦中のオーストラリアに移してリメイク、さらに1986年にはマルコ・ベロッキオMarco Bellocchio(1939― )が、イタリアの現代を舞台にリメイク作品をつくった。
[古賀 太]
『新庄嘉章訳『肉体の悪魔』(新潮文庫)』
…とくに,コクトーの影響は大きい。第1次大戦下の銃後の人妻と少年との不倫の恋を描いた小説《肉体の悪魔Le diable au corps》(1923)の発表によってにわかに文名は高まるのであるが,その数ヵ月後に腸チフスのために,彗星のように忽然と他界してしまった。しかし,遺稿として出版された小説《ドルジェル伯の舞踏会Le bal du comte d’Orgel》(1924)は,ラ・ファイエット夫人の《クレーブの奥方》の奇跡のような現代的再現として絶賛された。…
…戦後フランス映画の代表的二枚目スターであるとともに,舞台では〈傷のないダイヤモンド〉と称賛されたほどの名優。南フランスのカンヌに生まれ,ナチ占領下のパリから南フランスに逃げてきた映画人たちに接して映画や演劇に関心をもち,舞台や映画に端役出演したのちパリのコンセルバトアール(国立音楽演劇学校)に学び,卒業後,舞台でカミュの《カリギュラ》(1945)の主役を演じて人気を不動のものにし,さらにラディゲの小説を映画化したクロード・オータン・ララ監督の《肉体の悪魔》(1947)でブリュッセル映画祭の最優秀男優賞を受賞して国際的なスターとなった。その後クリスティアン・ジャック監督《パルムの僧院》(1948),《花咲ける騎士道》(1952),ルネ・クレール監督《悪魔の美しさ》(1950),《夜ごとの美女》(1952),マルセル・カルネ監督《愛人ジュリエット》(1951),ルネ・クレマン監督《しのび逢い》(1954),クロード・オータン・ララ監督《赤と黒》(1954),ジャック・ベッケル監督《モンパルナスの灯》(1957),ロジェ・バディム監督《危険な関係》(1959)などに出演し,洗練された洒脱な演技と個性の魅力で圧倒的な人気を集めた。…
※「肉体の悪魔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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