このことばは,(1)鳥獣を主食とする哺乳類(この意味では英語でflesh eaterという表現がある),(2)捕食性の動物食動物,(3)動物食動物の3通りの意味で使われる。本来は(1)のみを意味するものであったが,一方では哺乳類以外の運動性動物一般へ,さらに固着性動物も含む動物一般へ,一方では鳥獣食以外の昆虫食,魚食,貝食などへ,さらにプランクトン食も含む動物食一般へと概念が拡張されて,(2)と(3)の意味が生まれた。
動物食動物という意味をさらに広くとって,動物体を栄養源とする動物とすれば,一方では死体食性,腐肉食性の動物を,一方では寄生性の動物(とくに捕食寄生性昆虫)をも含むことになるが,普通にはそこまで広くとることはない。もっとも,ジャッカルやハゲワシやヤツメウナギのような動物は肉食動物に含められることがある。なお,肉食動物をこの最も広い意味にとるとすれば,それは地球上の物質循環における高次消費者という概念と同義になってしまう。肉食動物ということばはこの意味で使われることもある。
動物食動物という意味での広義の肉食動物のあり方は,草食動物のあり方よりもさらに多様である。それは食物である動物のあり方が,植物のあり方よりも多様だからである。水中での草食動物は,主として植物プランクトンを食べる動物プランクトンであるが,それをとる肉食動物は基本的に二つある。一つはろ(濾)過食動物であり,一つは捕食動物である。前者はさらに二つに分けられる。一つは固着性ろ過食動物(および埋没性ろ過食動物)であって,運動性をまったく(またはわずかしか)もたず,水流を起こして水とともにプランクトン(動物プランクトンだけでなく植物プランクトンも)を招き寄せて,それを水からろ過して食べる。このような動物は浅い沿岸に生息する。もう一つは遊泳性(および浮遊性)ろ過食動物であって,水中を動きながらプランクトンを水からろ過して食べる。この場合にも植物プランクトンをいっしょにとると思われるが,前者も含めて,プランクトンの種類を選択して摂取しているのではないかともいわれている。一方,捕食性の動物プランクトン食動物は遊泳性であって,獲物を1匹ずつ摂食する。したがってこれは小型動物でなければならない。
次にはこのような固着性・埋没性・小型遊泳性動物を食べる肉食動物が水中にいる。だが,彼らの獲物となる動物にはもう一つのタイプがある。それは水底に沈積する動植物遺体(浅海では海藻や水草も)を食べる動きの鈍い匍匐(ほふく)性動物である。このような獲物は,主としてその運動性の大小によって捕りやすさが大きく異なるから,それを食べる肉食動物にはさまざまなタイプがある。それは大きく分けると匍匐性のヒトデ類,巻貝類,甲殻類タイプと,遊泳性の頭足類,魚類(それと水中動物食になった少数の陸上脊椎動物)タイプになる。
陸上にはプランクトンという生活様式は存在しないが,植物遺体食の無脊椎動物も含めて,植食動物の多様性は水中をはるかに上まわる。それに応じて肉食動物のあり方もさまざまであるが,ほぼ次の四つに整理することができよう。(1)昆虫を主とする無脊椎動物を食べる無脊椎動物 これは,ミミズ食のヒルとか,昆虫食のカマキリやクモとか,カタツムリ食の甲虫とか,ダニ食のダニとか,かなりさまざまであるが,すべて小型動物である。(2)無脊椎動物食の小型脊椎動物 これは植食性動物だけでなく,(1)の動物をも食べる。現生の両生・爬虫類の大半と,いわゆる昆虫食の小型鳥獣がこれである。(3)小型脊椎動物食の中型脊椎動物 これは(2)の動物と植物食の小型鳥獣を食べるもので,典型的なものはイタチ類,イヌ類,ネコ類,猛禽(もうきん)類である。(4)大型肉食動物 これは大型草食動物(哺乳類)を主食とするもので,(2)や(3)も食べることがある。大型ネコ類とオオカミがその典型である。
以上は,何を食べるかという面から肉食動物のあり方を概観したものだが,摂食行動という面から見ると,肉食性という概念は一方で捕食性という概念に等しいものとして理解されることがある。捕食は厳密に定義された概念とはいいがたいが,動物が摂食する際に格闘などかなりの身体的力が行使されることを中心とした概念であるといえよう。その意味では,プランクトン食の動物や昆虫食の鳥などは,捕食性というイメージからは遠い。水中動物や肉食性昆虫などまで含めて考えると,具体的にどのような動物が捕食性といえるかはやっかいな問題であるが,その典型が上記の陸上での(3)と(4)であることには異存がないであろう。鳥獣食の哺乳類が,動物食動物の代表として肉食動物と呼ばれることになってきたのは,このような問題にかかわりがあるものと思われる。
→食性 →草食動物
執筆者:浦本 昌紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物性の食物を摂取する動物をさす。このような食性を肉食性という。この食性の動物は、餌(えさ)となる動物の運動能力や、すみ場所、体の大きさに応じてさまざまな捕食器官を発達させている。餌動物が活発に運動するものの場合には、それを確実に捕まえて逃がさないことが重要で、歯や嘴(くちばし)、そして足のつめが鋭くなっている。一方、オキアミを海水中から漉(こ)し取って食べるヒゲクジラ類のように、小さな食物を大量に集めることに適している動物もいる。捕食行動にはいくつかの型がある。餌を探し追いかけて捕まえる方法や、待ち伏せして近づいた動物を捕まえる方法、それに、身近にいて捕まえやすい動物を効率よく大量に集める方法などがある。昆虫のハンミョウは、成虫は地面の上で餌虫を探し回るが、幼虫は地面に掘った穴の中で待ち伏せる。
動物性の食物は、植物性のものより消化の面では効率がよい。しかし、動物は骨格や体毛が発達していることが多いので、まるごと餌を飲み込むフクロウやカワセミは、そのような消化できないものをまとめて口から吐き出すが、これをペリットとよぶ。生態系のなかで肉食動物は物質の流れの後部にいる。そのために近年の環境汚染下では有害物質の生物濃縮が強く現れることが問題となる。肉食動物は餌動物の個体数を極度に減らすことがあるが、その個体数をかならずしも調節はしない。
[高村健二]
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新